第11話「お母さんに感謝を込めて」
【市導光也side】
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時は遡り5年前。2018年の丁度今と同じ春頃だった。
あの頃の俺は中学生になりたての世間の事なんざ何も知らないウブなクソガキだった。
テレビを見てると横領だの殺人だの強盗だののニュースが報道されている。世の中には悪い人間がいて世の中にはこういう人間もいるんだよって教えるために報道されてる面もあると思う。
きっとこうやって報道されてる事件だけでなく規模の小さい悪事や取り上げきれなかった事件だってごまんとある。
でも当時の俺はなんの気にも留めてなかった。
いや、みんなだって最悪の事態がまさか自分に降りかかるなんて思ってないと思う。あの頃の俺は危機感なんてまるでなくて、人を疑う事を知らない底抜けの大馬鹿野郎だった。
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2018年 5月4日 7:05分
「光也おはよ。朝食出来てるわよ」
目覚めのいい朝。だが俺は朝にめっぽう弱い。
自室から出てリビングへ向かうと目の前に広がっているのは元気に朝食を食べる妹と目玉焼きやスクランブルエッグなどいたって朝食としては十分過ぎるラインナップ。
眠たい目を擦りつつ食卓につく。
「そういえば学校の方はどう?ちゃんとやれてる?」
「うーん。わかんない。やれてると思うけど」
「お兄ちゃんはめっちゃ優しいから大丈夫だよ!」
「優しいかな?普通だと思うけどなぁ」
「困った事があったらお母さんに言うのよ。光也と美乃梨に何かあったらお母さん耐えられないから」
「はーい!!」
和やかな家族揃っての朝食。喧嘩する日もあれど心底お袋の事も妹の事も嫌ったことはない。
お母さんは女手一つで俺がいじめられてる時や美乃梨が大事にしてるアクセサリーを無くしてしまった時、俺達が困った時には必ず手を差し伸べてくれる。 そんなお母さんが俺も美乃梨も大好きだ。
「そういえば明日のご飯何がいい?何かデリバリーしようと思ってるけど」
「えぇー!?お母さんが作ったのがいいー!!お母さんが作った方が美味しいもん!」
「そうだよ!俺もお母さんが作ったハンバーグがいい!」
「もぉ……わかったわ。ママ、腕によりをかけて頑張っちゃうわね!」
明日は何を隠そうこどもの日。そして何よりお母さんの誕生日でもある。
故にこの日は晩飯が一気に豪華になる。
お母さんが多忙でデリバリーにせざる終えない時もあったが俺達はお母さんの手料理の方が好きだ。
デリバリーのももちろん美味いけど愛情込めて作ってくれる母さんの料理にはやっぱり勝てない。
想像すると明日が待ちきれない。気持ちが昂るのを後に俺たちは学校へ急ぐ。
「「いってきまーーす!」」
「いってらっしゃい!気をつけて行くんだよー!」
自宅を出て学校へ向けて出発する。美乃梨とは途中まで通路が一緒なので二人で学校へ向けて歩き出す。
「お兄ちゃん明日の放課後ちゃんと時間あけてる?」
「当たり前だろ!美乃梨こそリサーチ終わってるんだろうな?」
「あったりまえじゃん!お母さんが喜ぶプレゼントはもうあれしかないよ!」
今年の5月5日はこれまでとは一味違う。俺達はこの日にお母さんへプレゼントを返したことがない。
それ以外の場でも感謝の手紙や肩たたき券とかはあるが他の何かお金がかかる物を買おうとすると結構強引に断られる。自分の欲しいものに使いなさいと。
だからこそのサプライズ。お母さんはきっとこれまでの流れから俺達へのプレゼントの事ばっかで自分が何かを貰うなんて想像してないはずだ。
いつも助けてもらってばっかりだけど俺達がちゃんと立派に成長してるんだって事をお母さんに見せてやるんだ。
「じゃあまた後でねお兄ちゃん!」
「おう!」
美乃梨と別れて中学へと向かう。美乃梨とは各々下校後に近隣のショッピングモールで合流する予定だ。
(お母さん絶対喜ぶぜ……何故なら俺達二人で考えた超絶最強メガマックスプランだからだ!!)
高鳴る鼓動と共に学校へ走って向かう。
割と人見知りではあったが1ヶ月経ち、クラスのみんなとも溶け込んできた。
だが俺達のお母さんは芸能人。元アイドルだ。それを揶揄ってくる奴だってもちろんいる。
小学校の頃はそれで揉めたりしたこともあったがそれでもお母さんの事を嫌いになった事はない。
同日――13時10分――
かったるい英語の授業も終わり待ちに待った昼飯時。仲良い友達のかつっちとかずよしと談笑しながら弁当を食べ始める。
「そういえばさ、光也聞いた?最近不審者がこの辺でてるって」
「そうなの?全然知らなかった」
「前の目撃情報もここからめっちゃ近いっぽいし気をつけた方がいいよ!」
「えぇ~~?大丈夫でしょ。今までもこういうのあったけど一回も会った事ないし!それに今日の俺は忙しいの!」
「極秘の超絶最強メガマックスプランがあるんでしょ?何回も聞いたから覚えちゃったよ」
「そー!今日の放課後、妹と一緒に買いに行くんだ!」
「光也お母さんの事を好きすぎだろ!このマザコンマン!」
「なっ!そういうのじゃないから!」
そんな事を話しながら弁当を完食し俺達は大好きなドッジボールをしに校庭へ出た。
ドッジボールの最中も俺は超絶最強メガマックスプランの事を同時に考えて頭を張り巡らせている。
明日を最高のいい日にするために。
――――――――――
でもこの時の俺は少しの想像もしてなかった。明日、2018年の5月5日。
この日が俺たち市導家にとって、最悪の1日になるなんてこと。
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