第113話 魔王の秘技

 魔王の本体は白目を剥いて気を失っていた。

 その分体は、大賢者カフロディーテの 究極存在破壊超巨大鉄槌オールバストハンマーの下敷きになっている。


 念のため、この分体も 封印の箱シールボックスに封印しておこうか。

 色々と隠れて動かれたら厄介だからな。


 魔王を封印して、降参宣言をさせれば、ここに向かってくるであろう1億の軍勢も降伏せざるを得ないだろう。


 と、その時である。

 魔王の分体は黒い煙になって宙に上り始めた。


「なんだ?」


 見ると、俺が持っていた 封印の箱シールボックスの中の魔王も黒い煙になっている。

 やがて、その煙は天に昇って雲になり、それは大きな顔になった。


「グハハハハハーーーー! われは負けぬぅうううううううううう!!」


 やれやれ。

 

「ダークスラッシュ」


 俺は剣を振って、漆黒の斬撃を空に放った。レベルでいえば7億9千レベルの攻撃力だ。

 それは瞬時にしてその雲を消滅させる。しかし、気体はなにごともなかったように、すぐに顔に戻ってしまった。


「効かぬぅうううううう! そんな攻撃は効かぬぞぉおおおおおおおおおおおおお!!」


 実体が霧状になっているのか。

 物理攻撃は効果がないらしい。

 ならば、魔法攻撃で消滅させればいい。

 霧を吸って 封印の箱シールボックスに封印してしまう手もあるな。

 どちらにせよ大したことじゃない。


「ザウス! あれを見るのじゃぁああ!!」


 カフロディーテが大空を指差す。

 そこには魔王の顔が地平線の彼方まで続いていた。


「グハハハハハ! ザァアアアアアアアアアアウウウウスゥウウウウウウ!!」


 うっとおしいから燃やすか。


不死鳥大火炎フェニックスフレアバーン


 ファイヤーボールの最上級魔法だ。

 

 俺の手からは大きな炎の鳥が発生して、大空に飛んだ。

 それは魔王の顔になっている雲に命中して巨大な爆発を起こす。


 しかし、煙は魔王の顔になり、再び嫌な笑いを見せた。


「グハハハーーーー!! 効かぬぅうううううう!! 効かぬわぁああああああああああああああ!!」


 実体がないのか? ステータスのないようだしな。

 攻撃もしてこないのが妙に引っかかる。まるで、自然現象だ。


「むむぅうう。厄介じゃぞ。ザウスよ」


 と、大賢者カフロディーテは大きな事典を読みながら顔を歪ませた。


「これは超レアアイテム『魔王の暦書』じゃ。歴代魔王が世界に及ぼした凶行が記されておる」


「ほぉ。この状態も載っているのか?」


「うむ。約1億年前にも同じような事象があったようじゃな。その時は勇者にピンチにさせられてな。魔王が返り討ちにしたのじゃ」


 勇者が返り討ち?


「逆転したのか……。それにしては攻撃してこないが?」


「うむ。『吸魔の法』というらしい。気体状態じゃと攻撃はできんようじゃな」


 そういえば設定資料集にそんな話があったようだがな。

 ブレクエの歴史までは詳しく覚えていないな。


「あれのなにが脅威なんだ?」


「吸魔の法は、自分の部下である魔族を吸収してそのだけレベルを上げる禁忌の呪法なのじゃよ」


「じゃあ、吸えば吸うほど強くなるのか?」


「そういうことじゃな」


 やれやれ。反則技じゃないか。


「グハハハ! われは邪神龍 ジャルメ・ゲバザバハマール! 魔王様がいなくなった今! 第二の魔王になるのは、このわれなのだぁあああああ!!」


 それは大きな蛇型のモンスター。

 上半身が鎧戦士で下半身が大蛇だった。

 腕が8本もあって随分と強そうだ。

 たしか、こいつは団体戦の時に副将になっていたんだよな。

 魔王がチーム戦を反故にしてしまったから、出番がなくなった可哀想なモンスターだ。


「グハハハ!! 天に召された魔王ヘブラァよ! われに力を与えたまえぇええええええええええ!! この憎っくき下級魔族、魔公爵ザウスはわれが抹殺してくれる!!」


 やれやれ。

 俺を倒すって、レベル99万以下のモンスターにいわれても説得力ないってば。


「さぁ、ヘブラァ様! われに力を与えたまえ!! この雑魚魔族を倒しましょうぞ!! う……!! うがぁああああああああああああ!! な、何を!? へ、ヘブラァ様ぁああああああああああああ!?」


 ジャルメ・ゲバザバハマールは天に昇って雲に吸われた。

 あちゃあ……。魔王に吸収されちゃったのか。まったく出番がなかったな。とことんまで可哀想なやつ。


 魔王の部下モンスターは次々に天に昇る。

 中には魔王に吸収されることを賛美する者もいたが、ほとんどの魔族は嫌悪感を示す。

 やはり、自分の命が一番大事なのだ。


「しかし、これは厄介だな」


「吸収されるのは魔王紋の所持者だけのようじゃ」

 

 じゃあ、俺の軍勢は影響がないのか。


「ま、ま、魔王様! 私は貴方様を尊敬しておりますわぁあ!! わ、私は参謀としてこれからも貴方様の手助けをしとうございます!! だ、だから、私だけはお助けください! 私だけはぁああああ!! ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 あ、吸われた。

 参謀フグタール。可哀想なやつ。


『ブラァアアアアアアアアアアアアアア!! われは強くなるのだぁああああああ!! 吸って吸って吸いまくってやるぅうううううううううう!!』


 部下の命で自分のパワーアップか。

 支配者としては最低だな。


 吸魔の法は激しさを増す。

 雲からは稲光が鳴って、大風が発生した。




〜〜三人称視点〜〜


 セキガーハラ平原からほど近い丘。

 そこにはスパイ骸骨と魔王軍親衛隊 水組 隊長のマジメットがいた。

 どうやら、この2人は望遠魔法を使って、距離を取りながら魔公爵軍との戦いを観戦していたようである。


 周囲は大風。木々が揺れ砂塵が舞う。

 そんな中、スパイ骸骨の体が宙に浮いた。それは魔王の雲に吸われるようにフワッと。


「あわわわわわ! マジメット様ぁ! 魔王様に吸われちゃうコツゥウウ!!」


「つ、捕まりなさい!!」


 骸骨は彼女の手を握った。

 マジメットは近くの木の枝にしがみ付いているが、その体もフワリと浮き始める。


「あわわわ! は、離してくださいコツ! このままじゃ一緒に吸われちゃうコツ!! マジメット様だけでも助かって欲しいコツ!!」


「バカをいいなさい! 真面目な話! わたくしだけが助かってもそこに残るのは虚しさだけしかないのです! マジマジ、マジメット!!」


 マジメットは水属性の魔法で自分たちを包み込んだ。


水属性封印部屋アクアシールルーム !」


「うは! 浮かなくなったコツ!」


 それは水でできた空間。牢獄といったほうがしっくりくるだろうか。

 しかし、嵐の風を防ぎ、魔王の力さえも遮る。

 

「この魔法は水属性の封印魔法なのです。真面目な話。これで魔王様の吸魔の力は遮断されました」


「ありがとうございます! やっぱりマジメット様は優しいコツ」


「コホン! 真面目な話。勘違いは迷惑です。あなたを助けたのは雑用係としてこき使うためですよ。あなたのことなんか、これっぽっちも心配していませんからね!」


「にへへへぇ。そんなこと言っちゃってぇ。マジメット様は素直じゃないコツ」


「そんなことより、真面目な話……大変なことになりました」


 と、水の部屋から見える外の景色に目をやった。

 空中には無数の塵が見える。

 その一つ一つがすべて魔王軍の魔族なのである。


「みんな吸収されちゃうコツね……」


「魔王軍は全滅です」


 2人は助かったことの安堵より、これから予想される未来のことに胸が締め付けられる想いだった。


 一方。

 所変わって、土村つちむら

 ここはランドソルジャーの住む村である。

 ザウスの仲間になった 土助どすけたちの故郷。

 そこも同じように、嵐に見舞われていた。上空には大きな魔王の顔。稲光とともにニヤリと嫌な笑みを見せる。


 そこでは金髪のランドソルジャー 土健児どけんじが空を見上げて絶望していた。


「お、おい……。嘘だろ? 魔王様は俺たちを助けてくれんじゃなかったのかよぉおおおおおおお!!」


 土村の者たちは次々と宙に浮く。

  土健児どけんじはそれを見て涙目になった。


「あ、ああああ……。そんなぁあああああ!! 信じてたのによぉおおおおおお!! 俺たちを自分のパワーアップに使うのかよぉおおおお!!」


 彼の脳内には 土助どすけの言葉が浮かんでいた。




『オ、オラは気がついたんだランド。ほ、本当に素晴らしい支配者てぇのはよ。部下のことを大事にしてくれる存在なんだってばよぉ』




  土助どすけの言葉が脳内をグルグルと回る。

 同時に怒りが湧いてきた。


「お、俺たちは騙されてたんだランド……。こき使われてよぉ。あげく、養分にされんのかよぉおおおおおおおおお!!」


  土健児どけんじの体がフワリと浮く。


「あああ、そんなぁあああ……! ざけんなぁああああああ……! ふざけんなぁああああああああああああああああ!!」


 涙が溢れる。

 彼は騙されていたことに気がついたのだ。

 しかし、無情にも体は浮き始める。

 彼の手の甲についている魔王紋の影響で宙に吸い寄せられてしまうのだ。


  土健児どけんじは叫んだ。

 怒り悲しみ、そして、騙されていたことの自分への不甲斐なさ。

 



「クソ魔王がぁあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」




 それは最期の叫び。



 ──になるはずだった。


  土健児どけんじの手は誰かに握られて、その浮遊は止まっていたのだ。


「え?」


 手の主を確認する 土健児どけんじ

 それは見知った顔だった。


「おまえは!? ど、 土助どすけぇええ!?」


  土助どすけは力強く笑った。




────

いつも応援ありがとうございます。

今作は週一連載となっておりますが、既に執筆は完了しております。

最後までお付き合いしていただけましたら幸いです。


今作とは別の連載作品のお知らせをさせてください。

現在、連載中の小説です。

ざまぁ中心なので、好きな方はぜひ!

12人の仲間に裏切られた主人公が、最強の力で復讐する話です。


以下タイトル。


『俺の右手は魔神の右手〜腕を斬られてダンジョンに置き去りにされたので、俺もそいつらの腕を斬り落とすことに決めました〜』


https://kakuyomu.jp/works/16818093077127721763

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