第63話 獅子人は仲間になるのか?

〜〜ザウス視点〜〜


 俺はボス獅子人のガオンガーを倒した。


 まぁ、力はできるだけ抑えたからな。

 倒したといっても全身複雑骨折レベルだろう。


「あ、ありがとうございますザウスさま!」


「うむ。スターサ。抜群の機転だったぞ。俺を呼んだのは英断だ。怪我は?」


「私はありません! リザ丸くんたちが守ってくれました」


「そうか」


 ガオンガーのことはあと回しにして、まずはリザ丸たちの回復が優先だな。獅子人たちから受けたダメージが相当ありそうだ。


 リザードマンのリザ丸は右半身がなくなっている。

 ハーピーのハピ江は翼がもげている。

 ゴブリンのゴブ子は全身傷だらけだ。


 みんな、スターサを守るためにがんばってくれたんだな。


 俺は部下の前に手をかざし、回復魔法をかけた。


最上級エキストラ 回復ヒール


 3匹の部下たちは、全ての傷が治った。リザ丸の腕は元に戻り、ハピ江の翼も生えた。ゴブ子の傷は綺麗さっぱりなくなった。


「ありがとうございますリザ!」

「ザウスさま! 助かりましたハピ!」

「まさか、来てくれるとは思わなかったゴブ!」


「みんなよくがんばった」


 俺の言葉に、部下たちは安堵した。


 さてと。

 今度はこいつだ。

 レベル600の謎を解明しなければならない。


 俺はボス獅子人ガオンガーの前に立った。


「あぐ……。あうう……」


 まだ、わずかながら息はあるようだ。放っておけば死ぬだろう。


 ボス獅子人ガオンガー。

 ブレクエのシナリオでは、魔公爵ザウスを倒した勇者が次に戦うボスだった。

 その時はレベル120程度だったはずだ。

 それがレベル600までに上昇している。

 ほとんど魔王クラスじゃないか。


 こいつはイケメンダールに力をもらったと言っていた。

 イケメンダールといえば、ブレクエ3の最終ボスだぞ。

 そんなやつが関与しているとなると厄介だな。


「こ、こ、殺……せ……」


「やれやれ。とどめを刺して欲しいのか?」


 武士の情けってやつだな。

 まぁ、生憎と、俺は魔公爵なんでな。俺の辞書には「情け」なんてないのさ。ククク。


最上級エキストラ 回復ヒール


 こいつのダメージを全快させる。


「なにぃいい!? 俺様を治しただとぉおお!? どういうことだガオォオ!?」


「ククク。おまえには聞きたいことがあるのさ。このまま死なれては勿体ないんだ」


「ぐぬぅう! 魔王軍の情報を聞き出すつもりかガオォオ!?」


「まぁ、そういうことになるな。貴様を殺すのは、情報を聞き出してからでも遅くはない」


「ガオォオオオ……。お、俺様は誇り高き魔族の戦士だガオ。裏切り者に加担なんかしないガオ!」


「ふぅむ……そうか」


 こいつがプライドが高いのは知っている。

 ゲーム中でも、意外と好きなキャラだったんだよなぁ。

 獅子の顔がカッコよかったしさ。フィギュアとかも持ってた。


 んじゃあ、こういう攻め方はどうかな?


「おまえの部下獅子人たちは苦しそうだな。スターサの撃った魔法弾はしっかりと命中しているが、まだ命はあるようだぞ? 今すぐ、治療すれば助かるかもしれん」


「ぐぬぅ! 部下の命を人質にするとは! ひ、卑怯ガオ!!」


「ハハハ! 俺は魔公爵だぞ! どんな手段でもつかってやるさ」


「ガォヌゥウウウ……………! い、言わん! 言わんガオ!! 魔王軍が不利になるような情報は絶対に吐かないガオ!!」


 ふむ。


「では、メリットを与えてやる」


「メ、メリット!?」


「俺の部下になれ」


「なにぃいいいいいい!?」


「おまえたちが俺の配下に加われば情報の共有は簡単だ。おまえの部下も助かるし、おまえだって忠義にこだわる必要はないだろう」


「な、なにを言ってるガオ? おまえは裏切り者ガオ!! 魔王さまに楯突いた愚かな魔族ガオ!!」


「ふん! だったらなんだ? 魔王にどれだけの魅力があると思う?」


「な、なんだと!? なにをいっているガオ!?」


「魔族なら魔族らしくあれ!」


「!?」


 俺は握り拳をグッと前に押し出した。




「強さこそ正義だ」




 ふふふ。

 これこそ魔族の証。

 魔族として生まれたからには絶対のルール。


「魔王に従っているのは魔王が強いからだろう?」


「そ、そりゃあ……。当たり前だガオ」


 こいつはイケメンダールからレベル上限の限界突破を受けた。

 その影響でレベル600まで上昇している。その強さはこの世界の魔王、ヘブラァ王と拮抗しているんだ。

 こいつらモンスターはステータスを見ることができないからな。自分の強さがどれほどのものか気がついていない。

 魔王のレベルは666。レベル600のガオンガーが従うほどの魔族じゃないってことなのさ。


「さっきの戦いで、わからなかったか? 俺は魔王より強いぞ」


「うう……」


「強い魔族に従うのは魔族のルールだろう? 強さは正義だ」


「うううう……」


「さぁ、俺の部下になれ! 俺のものになるんだ!」


「うううううう!!」


 やれやれ。


 じゃあ、こいつらを使うしかないか。


「さぁ、早く決断しないと部下獅子人の命がないぞ?」


「うう! や、やめるガオ! そいつらに罪はないガオ!!」


「ククク」


 俺の手の平には火の玉が出現した。

 

「火炎魔法を使えば、一瞬にしてこの部下獅子人たちを消し炭にできるだろう」


「やめろガオーーーーーー!!」


「さぁ、決めろ! 決断するんだ!!」


「うぐうううううううう!!」


「さぁ!!」


「うぬぐぅううううううう!!」


「さぁ! さぁ!!」


「うぐがぉおおおおおおお……!!」


「俺の部下になれ!!」


「ぬがががぉおおおおおおおお!!」


 あーーーー!

 もう面倒くさい!!


「交渉決裂だな」


「や、やめろガオーーーー!!」


最上級エキストラ 回復ヒール


「へ?」


 部下獅子人たちの傷は全快した。


「ったく。強情なやつだなぁ」


「え? え?? ……な、なぜ治したガオ??」


「このまま死なれたら、俺の部下になった時に手駒が減るだろうが」


「だ、だからって治す必要があるガオ?」


「当然だろ。部下は大事な労働力なんだからさ」


「いや……。お、俺様はまだ配下になるとは言っていないガオ!」


「わかってるよ。でも、早く治療しないと命が危険だったからな。蘇生魔法は魔力の消費が大きいんだ。だったら回復魔法で回復させている方が効率がいい」


「……な、なんだか理屈がよくわからんガオ」


「おまえらの命くらいいつでも奪えるってことさ」


「うう……」


「とにかく、俺の部下になれよ。魔王軍よりはメリットがあるからさ」


「お、おまえは裏切り者ガオ!」


「強情なやつだなぁ。俺の配下になったら良いことばっかりだぞ。獅子人の村は絶対に発展するしな」


「な、なんだと?」


「俺の領土で獲れる収穫物の共有はもちろんのこと。ザウスタウンで発展している産業物の恩恵が受けれる。俺の領土内は薬学の発展が著しい。病気の治療には大いに貢献するだろう。最近はモンスター専門の学校を建設中だからな。子供育成にも尽力するつもりだ。あとはなにかな……。あ、そうそう。ランドソルジャーが仲間にいるからさ。下水工事とか道路の補修はかなり捗るぞ」


「ラ、ランドソルジャー? ……もしかしてカクガリィダン様の尖兵かガオ?」


「ああ。よく知っているな」


「全滅したと聞いたガオ?」


「いや。俺の部下になっているよ。1匹残らずな」


「な、なんてことガオ……」


「俺は魔王領を支配するつもりだ。このまま戦いが加速すれば犠牲者は増えるだろう。獅子人の村だって一緒だよ。俺の敵なら殲滅せざるを得ない」


「うう……」


「今が決め時だと思うがな」


 ガオンガーは、傷が治って元気に笑顔を見せる部下獅子人を見つめていた。


「………………………………わ、わかった。配下になるガオ」


 その顔は釈然としない様子だった。

 凛々しかった耳はペタンと垂れて、完全に服従した猫のようになっていた。


 俺は、その場で彼らと主従契約を結んだ。


 ガオンガーの手の甲には奴隷紋が刻印される。

 これで俺に攻撃を加えることはできないし、俺の命令は絶対になった。


 さて、魔王軍のことを聞きたいんだがな。

 ここはヨルノ村の前だしな。まずはこの村の占拠が優先だろう。


 獅子人たちは、魔王の命令で、この村の護衛を担当していた。

 彼らの手引きがあればすんなりと村長と会うことがでるだろう。


 案の定、すんなりと話しは通った。俺の配下に獅子人が加わった状態で、村長が反抗することはなく。

 ヨルノ村はすんなりと俺の領土になったのだった。


 その夜。

 魔公爵城では勝利の宴が開かれていた。

 大勢の獅子人たちを交え、酒と料理で労を労う。

 料理に出ていたのはヨルノ村名物。スーブッタ。

 まぁ、いわゆる酢豚だな。ヨルノ村の料理人が、わざわざこの城まで来てくれて作ってくれたんだ。


 みんなは大喜び。

 魔神殺しの剣士、アルジェナはかなりお気に入りの様子だった。


「へぇ。豚肉の唐揚げにパイナプールを入れてるんだ。甘酸っぱくて美味しいわね! 好きかも!!」


 そんな中、スターサはつまらなさそうに眉を寄せた。


「あーーあ。なんだかんだで、ザウスさまに手伝ってもらっちゃったな」


 そういえば、ヨルノ村の交渉は俺も付いて行ったんだよな。

 外務大臣の彼女にしてみれば、俺の介入は不本意だったか。

 とはいえ、獅子人の件があるしな。俺が付き添った方が明らかに話しは早いんだ。


「まぁ、そうしょげるなよ。ヨルノ村の細かいすり合わせは、全部おまえに任せるんだからさ」


「あ、いえ……。そういう意味じゃないですよ。ザウスさまにお手間を取らせてしまったのが申し訳なくて……」


「あれは仕方ないよ。まさか、ガオンガーのレベルがあそこまで上がってるとは思わなかったからな。おまえの判断に一切のミスはないさ。それどころか、俺の計算ミスをおまえがフォローしてくれた形になったんだ」


「え? わ、私がザウスさまのフォローを?」


「ああ。敵の成長を見誤った。俺の判断ミスさ。なにせ、ゴブ太郎1匹でカクガリィダンの尖兵を倒せたからな。ヨルノ村くらいは、リザ丸とハピ江だけでなんとかなると思ったんだよ。怖い思いをさせて悪かったな。あのままだと、大事な部下を失うところだったよ。色々とありがとうな。外務大臣をおまえにして正解だった。助かったよ」


「えへへ……。えへへへへへへへへへ」


「なにか特別な報酬を──」


 と、言いかけたところで、スターサは頭をこちらに向けていた。


「で、では、お願いします」


 と、期待に胸を膨らます。


 やれやれ。

 本当にこんなのが褒美なのだろうか?

 お金とかレアアイテムとか好待遇とかさ。

 求めるものは他にあるだろうに。


「ザ、ザウスさま……。ダ、ダメですか?」


 いや、ダメじゃないけどさ。

 まぁ、こんなのでいいならやってやるよ。

 人の価値観てのは千差万別だからな。


「よしよし。よくやってくれた」


 と、優しく頭をなでなでする。

 彼女にとってはこれが極上の褒美なのだ。


「えへへ。ザウスさまぁ。私、もっと、もぉっと頑張りますからね! うふふふぅぅ!」


 やれやれ。マタタビを与えた仔猫みたいになってるや。


 と、そこにリザードマンの子供が2匹やって来た。


「お姉ちゃん。お父ちゃんを助けてくれてありがとうリザ」


 ああ、彼らはリザ丸の子供だな。

 子供の後ろからは女のリザードマン。リザ丸の奥さんがやって来た。

 どうやらスターサに話しがあるようだ。

 俺がいては話しにくかろう。少し離れといてやろうか。

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