転生した中ボスはレベルを999にして主人公を迎える〜勇者はカンストレベルを99と見誤っているようです〜

神伊 咲児

第1話 魔公爵は転生者

 視界には青空が広がっていた。


 青い月と赤い月がぼんやりと浮かぶ。


「ここ……。どこだ?」



 と、手を伸ばすと肌が青かった。


 え?

 この肌は??


 額には小さな角が生えている。


 後頭部が痛い。


「ザウスさま! 大丈夫でございますか?」


 俺の元に駆け寄ってくる女は美少女だった。

 メイドの格好をして木刀を構えている。


 彼女は……。

 そうだ、メエエル。

 俺の世話係だ。


 どうやら、剣技の最中に転倒して後頭部を打ったらしい。


「今、回復魔法を使いますので。ジッとしていてください。 回復ヒール!」


 すると、後頭部の痛みはたちまち消えた。


 ああ、そうだ俺は、剣と魔法の異世界の住民だったんだ。


  都仲となか はじめ。32歳。

 それが以前の俺だった。

 ブラック企業に勤める社畜。若くして過労でこの世を去った。


 俺は生まれ変わったんだ。

 魔公爵の息子、ザウス・ジャーメルに。


 今は15歳。

 ここは魔公爵城。


 青い肌と額の角は魔族の証だ。


 しかし、色々と聞き覚えがあるんだよなぁ……。

 今まで何気なく暮らしてきたけどさ。


「魔公爵……。ザウス……。メエエル……」


 あ……!


「これ、ブレイブソードクエストの設定と同じだーーーー!!」


「ど、どうされたのですかザウスさま?」


「……いや。なんでもない」


 そうだ。

 彼女はメエエル。

 ブレイブソードクエスト、略してブレクエの超人気キャラクター。

 主人公である勇者セアの恋人になるヒロインキャラだ。


 この神スタイル。爆乳具合。

 白い肌に大きな瞳。

 間違いない。彼女はブレクエのメエエルだ。


 そして、俺は、中ボスの魔公爵ザウス。

 勇者セアに殺された父親の仇を討つために戦いを挑む。

 そして、彼に倒される運命なんだ。


 なんてことだ!

 前世では社畜の過労死。

 今は転生してゲームの中ボス。主人公に倒される運命だとぉ!?


 最悪だぁああああ!!

 なんだこの人生ぃいいいい!?

 神はいないのかぁあああ!?

 ふざけんなぁあああああ!!

 なんで俺の人生こんなについてないんだよぉおおおお!!


「ザウスさまぁああ!! 大変でリザぁあああ!!」


 そう叫ぶのは部下のリザードマン。

 トカゲが顔の人型モンスターだ。


「ご主人さまがぁああ!! ご主人さまが勇者に倒されてしまったリザぁあああああ!!」


 ああ……。

 完全にゲームと同じだ。


 奴隷狩りで村を襲った魔公爵ゴォザックは10歳の主人公に倒される。

 主人公のセアは勇者の力を持っていて、覚醒した力で魔公爵を倒すんだ。

 

 ぐぬぉおおおお……。

 このままだと、父親の爵位を継ぐことになってしまう。

 爵位を継いだ俺は魔公爵ザウスになってしまうじゃないくぁああああ!

 そして、主人公に倒される運命なんだぁあああああ!!


 ブレクレは大好きなゲームだった。

 高校生の頃に一番ハマったゲームだといってもいいだろう。

 設定集を読み漁り、攻略本を片手にプレイしまくった。

 だから、裏設定だってよく知っているんだ。


 ゴォザックが倒されたのは、息子である俺が15歳の時だ。 

 ザウスは5年間、主人公のことを恨み続け、20歳の時に戦いを挑むんだ。

 その時の主人公は15歳。レベル40くらいかな。

 ザウスはレベル66でさ。圧倒的な強さなんだよ。

 でも、主人公の特殊能力、勇者の一撃で倒すんだよな。

 あの時は痺れたな。なにせ、格上の相手を一撃で倒すんだからさ。


 ブレクエの面白い所はこれがチュートリアルって部分なんだよな。

 実はレベルのカンスト値は999。これは説明書にだって書いてないんだよ。

 てっきりレベル99が最高と思いきや、999だからね。熱中したなぁ。

 

 えーーと今は……。


「ステータスオープン」


 ああ、ちゃんと空中に表示されるじゃないか。

 便利な機能だな。


 そこにはレベル10と表示されていた。


 5年間でレベル66まで上げるわけか。

 そして、勇者に倒される運命。


 せめて、ラスボスの魔王だったら良かったのにぃ……。

 よりにもよってチュートリアルの中ボスかよぉ。完全に雑魚だってばぁ……。


 ブレクエはシンプルなRPGだ。

 勇者が魔王を倒すだけの王道ストーリー。

 でも、ゲーマーのツボは押さえていて、レベルアップによる強化は当然のこと、サブクエスト、モンスター育成システム、レアアイテム集め、レア武器生成とやることは盛りだくさん。

 メーカーの売り文句は『300時間遊べる最強のゲーム』だったかな。まぁ、実際は千時間を超えてるユーザーがザラにいたっけ。メインストーリーは40時間程度だけどさ。アナザーストーリーが永遠に遊べるんだよな。


 特筆すべき部分はヒロインたちとの恋愛パートだろうか。恋愛シミュレーションゲームさながらに分岐があって最高にやり甲斐がある。裏技を使えば、全部のヒロインをモノにするハーレムルートもあるしな。ユーザー感では「こっちが本編」とばかりに大人気だった。

 あと、乗り物とかロボット作ったりとかさ。料理と釣り。農地開拓なんかもあったっけ。とにかく、王道の中にやることがいっぱいあってめちゃくちゃ楽しいんだ。しかも、その全てが冒険と完璧にリンクしている。恋愛パートで親密度を上げればバトルではボーナスがもらえるしな。他にも、バトルや冒険で使える恩恵が盛りだくさんだった。

 いかん……。想像したらまたやりたくなってきたぞ。たしか、メインストーリーをクリアして、裏ダンジョンに潜って……。レベル700くらいまで上げたんだったよな。ヒロインは全員コンプしてたしさ。ふふふ。裏技を使えばハーレムモードになって全員とゴールインできるんだ。めちゃくちゃ楽しかったなぁ……。

 

 ああ、ノスタルジーに浸っている場合ではない。

 今は現実を見つめ直す時間だ。


「「「 ううう……。ご主人さまぁ…… 」」」


 部下のモンスターたちは泣いていた。

 主人である魔公爵ゴォザックの死を悲しんでいるのだ。

 

 父親の死なんかどうでもいい。

 ゴォザックは極悪非道な悪魔みたいな男だったしな。毎日、誰かを殺して楽しんでいた。

 死んで当然の存在だよ。

 問題は爵位を継いだ俺なんだ……。


 どうしよう?

 逃げようかな。

 爵位を放棄すれば運命は変えられるかもしれないぞ……。


 しかし、こんな異世界でどうやって暮らす?

 そもそも、公爵領を預かっているのは魔王からだ。

 俺が逃げれば魔王に命を狙われるだろう……。


 最悪だ。

 今逃げれば魔王に命を狙われて、5年後には勇者に倒される運命。


 八方塞がりとはこのことか。


 どう転んでも最悪の運命。


「ザウスさま……。お気をたしかに……。このメエエルがついております」


 そういって柔らかい手を俺の体に添えてくれた。


「これからはザウスさまが公爵さまになります。魔公爵城の主人でございます」


 ……待てよ。


 俺の周囲ではモンスターたちが泣いていた。

 それは豚の顔をしたオークとか、ゴブリンたち。


 よくよく、思えばこいつら全員が、俺の部下だよな?


 そして、立派な魔公爵城……。


 横には美人なメイド……。


 あれ?

 なんかそろってる??


 俺が勇者に殺されるのは5年後……。


 逆をいえば5年間は生きられるってことだ。


 ゲームのザウスはレベル66で倒されたから……。


 5年間で勇者に倒されないだけ強くなればいいんじゃね??


 あれ?

 いけるかも。


 

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