第16話 恋慕



「いや、その……」


「もし、いなければ是非もっと私を知って頂きたいです」



戸惑うイアンに、迫るジョゼ。



「はぁ~~~~」



そして長いため息をつくタベル。


その光景を他人事だと楽しむアベルは、意地悪を思いつく。



「タベル殿、よろしければ、ここは当人同士で外の空気でも吸いに行かせたらよかろう」


「左様でございますね。イアン殿、申し訳ございませんが娘を少しばかり頼めますか?」


「はい……」


「まあ、それは嬉しゅうございます」



しかし、イアンの目は、後で覚えてろよ。とアベルに訴えており、アベルの返す視線も、やり過ぎたお前が悪い。。と言っていた。二人がテントから出ると、タバルはお茶を用意し、それを二人で飲みながら帰りを待つことになった。



「このお茶は美味しいですな」


「それはありがとうございます。しかし、あの子は馬車の中で、あれだけ泣き叫んでいたのに。切り替えが早いと言うからなんというか……」


「元気になられたなら良いことです。心の傷は私でも直ぐに治療はできません」


「そうですな……所で治癒士様方一行はどちらまで?」


「このまま北に。各地を教会を巡礼しながら……」


「そうでございますかアベル様」


(!)



アベルの心臓が跳ね上がる。そして鼓動が早くなる。名前はタベルに伝えてない。イアンも言ってないと聞いている。なのに何故この男は俺の名前を知っている。



「ははは。そう、構えないで下さい。以前、あなたに治療して頂いたことがあるのですよ」


「それって?」



してやったりのタベルの顔。答えに驚きつつも、安心してしまい言葉遣いが戻るアベル。



「あなたは覚えてないかもしれませんが、数年前、辺境伯領の村々を行商で回っている時に、魔物に襲われまして。教会もない小さな村に逃げ込めたのは良かったのですが、足をやられましてな。その時、手持ちがなかった私をあなたは無料で」


「えっ!あの時の商人さん?」


「おお!覚えていてくださいましたか!」


「あれからも元気に行商してくれてたんですね」


「はい、しかもあの村の特産品のお陰で、私の商売も軌道に乗り、今ではここまでの規模までになりましたよ」


「そっかぁ~~~~」


「あの時も今回も、本当にありがとうございました。以前の治療費もお渡しした袋に入っております。どうぞ気兼ねなくお受け取りください」


「いえ、そんな!でもこんな偶然ってあるんですね」


「そうですなぁ~しかし何かお困り事ですか?あまりにも、その、似合わない言動だったもので、くっくっくっ」


「あはははは……」



はじめからお見通しだったらしい。そして笑いをこらえていたようだ。それからアベルは信用出来ると感じ、正直にタベルにことの成り行きを話した。



「なるほど……教会がそこまでとは……」


「残念ですが事実です。それに俺はもう教会とは縁を切ってきましたから」


「ならば、先ずは隣国ですな」


「そうですね。ただドワーフ国とエルフ国に向かおうかと」


「ならばドワーフ国がよろしかろう。エルフは治癒魔法を授かる者が多いと聞きます。その点ドワーフは少いそうで、しかも工業が盛んな国。仕事柄怪我人も多く、治癒魔法が使えるアベル様を無下にはしないはずです」


「なるほど……それではどうやって治療を?」


「なのでドワーフ国では、その分薬士の技術が発達していると聞いてます」


「そうですか。薬師が」


「まぁ、もともと頑丈なドワーフですから、酒と薬があれば問題ないそうですよ」


「それは聞こえが悪いですね」


「「はははははは」」



テント内で二人がそんな話をしている時、少し離れた場所でイアンは質問攻めにあっていた。


「おいくつで?ご趣味は?好きな女性のタイプは?いつから冒険者に?お好きな食べ物は?引退して兵士になられます?子供は何人ほしいですか?」

「………………」


答える隙もない連続攻撃。躱すこともままならず、ただ呆然と隣で立ち尽くし聞いていた。





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