140.付き添ってくれるニワトリスたちと、情報収集をする俺

 昼過ぎだからか、ギルドのボードにはあまり依頼票が貼られていなかった。

 やっぱりここは比較的平和な町なんだろう。

 まだ早く読むのは難しい。珍しい魔物を生け捕りにしてほしいという依頼を見て、俺は不機嫌になった。

 なんつーか狩って狩られてとかならいいんだけど、生け捕りにしてペットとして飼うとかそういうのは違うと思うんだよな。相手は魔物だから、人間に飼われたいとは思わないだろうし。


「……ん?」

「どうした?」


 ちょっと気になる依頼を見つけた。

 これは知らない言葉だ。でもなんかの調査みたいなことが書いてある。


「シュワイさん、これってどこを調査するんですか?」

「ああ……これは近くにあるダンジョンだな」

「だんじょん?」


 そういえばどこかにダンジョンがあるという話は聞いたことがあった。

 そうか、これはダンジョンと読むのか。


「ダンジョンで火魔法のオーブを探してほしいという依頼だ。依頼料はそれほど高くはないが、ちょっと行ってみるか?」

「是非!」


 シュワイさんに聞かれて俺は即答した。

 ダンジョンと言ったら宝の山? 一攫千金? と目がお金になってしまう。

 そうだよ、冒険者になったんだからやっぱりダンジョン踏破とかしたいじゃん!


「とはいえこのダンジョンは二層までしかないし、火魔法のオーブもそう簡単に出るものじゃない。依頼は受けないで見に行ってみようか」


 シュワイさんに説明されて、「お任せします」と答えた。

 二層までしかないってことは初心者向けのダンジョンなのかな?

 魔法のオーブというのは、それを使うと魔法が覚えられるというやつだ。俺が使っても魔法を覚える枠がないんだからきっと覚えないんだろうな。それか持っている魔法と入れ替わったりするんだろうか。

 でもなぁ、浄化魔法も鑑定魔法も大事だから入れ替わるのも困るんだよな。


「キールーダンジョンはここから更に北西の方向にある。魔物の強さはそれほどでもないが、ワナが少しあるな」

「どれぐらいかかるんですか?」

「大人の足で歩いて一日半ぐらいだが……走っていけば今日中に着くだろう」

「うーん……じゃあ明日行きたいです」

「そうしようか。少し準備をしていこう」


 方針が決まったところで、ギルド長のイカワさんと副ギルド長のネコノさんが階段を降りてきた。


「オカイイ、ちょっといいだろうか」

「……厄介事なら聞かないぞ」

「そんなつれないことを言わないでくれないか?」


 イカワさんは苦笑した。

 上へと促されたので、俺たちは二階のイカワさんの部屋に向かった。ソファに腰かけ、ネコノさんに出してもらったお茶を啜るとイカワさんが切り出した。


「この依頼、本当に受けてもらうことはできないかな?」


 そう言って出されたのは、未開封の封筒だった。シュワイさんへの指名依頼かとそれを見て気づいた。


「……依頼者はリバクツウゴか」

「よく知ってるね」


 イカワさんは楽しそうな顔をした。絶対に楽しんでるよな、これ。

 悪趣味だなと思う。従魔たちにも水をもらったので、みなおいしそうに飲んでいる。一応もらった際に全て鑑定魔法はかけさせてもらっていた。いくら魔物に毒が効かないといっても本当に効かないかどうかはわからないし、毒が入っていないかどうか調べるのも大事なことだ。


「リバクツウゴからの依頼は一切受け付けないと言ったはずだ。そう他のギルドにも通達してくれ」

「ど、どうしてそこまで……」


 ネコノさんが口を挟む。


「オトカ、いいか?」

「話してもいいですよ」


 今日のことを話すのに俺の許可を求めるとか、シュワイさんてどんだけ気遣いのできる人なんだろう。

 シュワイさんは頷くと、今朝のホテルでの出来事を話した。シュワイさんの肩に止まっているピーちゃんが、「アイツ、キライー」と合いの手を入れる。ネコノさんは頭を抱えた。


「あの人は……」

「ネコノ君、辞表は受け付けないからね」

「なんでですか!?」

「あの領主の相手は君にしかできないからだよ」

「ああもうなんであんなのと親戚なんだろう!」


 話がわからなくて俺は目をぱちくりさせた。イカワさんの補足によると、ネコノさんはリバクツウゴの親戚の息子(三男)で、親戚がネコノさんの仕事の斡旋をリバクツウゴに依頼したことでここの副ギルド長になったらしい。どうりで若いはずだと思った。


「特にやりたいこともなかったからいいんですけど、それでことあるごとに自分の依頼を優秀な冒険者に受けさせろと圧が強いんです……」

「領主って、ギルドにコネとかあるんですか?」


 ネコノさんの境遇はともかく、俺はコネの有無が気になった。ソファで俺の隣にもふっとなっているクロちゃんが俺にぴっとりとくっつく。あんまりかわいすぎて膝に乗せそうになってしまったが我慢だ我慢。


「たまたま人手不足のところを紹介されたってだけだから、コネとは違うかな。ネコノ君が優秀だと思ったから副ギルド長になってもらったしね」

「……物は言いようですね」


 ネコノさんがため息をついた。


「ってことは、副ギルド長にしろと言われたわけではないんですか」

「就職させろとは言われたけど、役職までは指定できないよ。こっちも仕事だからね。ネコノ君が優秀なんだよ」


 イカワさんはさらりと答えた。ネコノさんはがっくりと首を垂れる。

 副ギルド長というぐらいだから給料は悪くないんだろうけど、仕事もたいへんなんだろうなと思った。


「依頼を受ける気は全くないんですけど、あの領主の依頼内容ってなんなんですか? 珍しい魔物を生け捕りにしてこいってやつですか?」

「それです」

「自分で生け捕りにすればいいのに」

「私もそうしてほしいと思ってます……」


 ネコノさんは苦労性だなと思う。俺はクロちゃんの羽をなでなでした。

 依頼は受けない方向で階段を降りたら、見知った顔があった。


「あれ?」

「セマカ? リフ?」

「久しぶりだな」

「この間ぶりね~」


 セマカさんの髪はブロンド、リフさんの髪は黒になっていた。


「えっと、どうしたんですか?」


 会えて嬉しいけど、思わずそう聞いてしまったのだった。


次の更新は、7日(木)です。よろしくー

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