【書籍化決定】異世界旅はニワトリスと共に

１３９．更に食べるニワトリスたちと、会いたくない奴に会ってしまう俺

　また昼から豪華な料理をいただいてしまった。

　料理長がホワイトディアーの肉を見て張り切ってしまったらしい。

　メインにステーキが出てきた。

　自分たちで焼くよりもすんごくおいしい。さすが料理人だと思った。うまいうまいと食べていたら、料理長がやってきた。

「今回も貴重な食材をいただけたこと、誠に感謝しておりますっ！」

　また感動している。俺はステーキに夢中だったから、気にせず頷くに留めた。

「こちらもどうぞお召し上がりください」

　ホワイトディアーの煮込み料理みたいなのを差し出されて無言で受け取る。ホント、ここの料理っておいしいよなー。さすが高級ホテル～。

　隣に腰掛けているクロちゃんがあーんと嘴を開けた。クロちゃんにもってことかな。

「ステーキの方あげるねー」

　小さく切ってふーふーしてからクロちゃんにあげた。あんまり火を入れたのは食べないから、熱い物は冷ましてあげた方がいいと思うのだ。

「オイシー！」

「よかったー」

　俺は煮込み料理に取り掛かる。

　うまっ！　肉の塊にナイフ使わなくても切れるってどんだけ？

「うまいっ！」

「最高の食材をいただいておりますので！　今まで手に入らなかった食材で料理をさせていただけること、何よりの幸福でございます！」

「うん、うまいな」

　シュワイさんも機嫌がよさそうに食べている。煮込み料理には野菜も入っていて、それをシュワイさんがピーちゃんにねだられるままあげている。

「オイシー！　サイコー！　リョーリチョー、サイコー！」

　ピーちゃんが嬉しそうに身体を揺らした。ピーちゃんはグルメっぽいから、そのピーちゃんに褒められるって相当だと思う。

「まだございますので、必要でしたらお声がけください」

　ステーキをもう一枚もらって従魔たちにも分けてあげた。みんなご機嫌である。おかわりでもらったステーキには味をあまり付けない状態で切ってあげたから、塩分過多の問題はないと思う。（つーか魔物に塩分過多の問題って生じるものだろうか？）

「……くっ……私に身体強化魔法が使えさえすればっ！」

　料理長が遠くを見て叫んだ。

「それさえ使えれば、冒険者になりお客様に付いていくことができるというのにっ！」

　えー、と思った。

「チノイリウリ、冒険者になるには冒険者としてのセンスも必要だ。まして私たちに付いてこようとするなら生半可な能力では死ぬ」

　シュワイさんが無情に答えた。

「……わかっております。しかし夢ぐらいは見てもいいでしょう」

「そうだな」

　おいしい料理に舌鼓を打ってから、俺たちはホテルを出た。のんびりとギルドへ向かう。

　今のところ明後日の朝にはホテルを引き払う予定だから、どうしようかなといったところだ。

　ギルドに着いた途端、扉が勢いよく開いて先ほどホテルで見た太ったおっさん―リバクツウゴが出てきた。兵士だか従者だかを二人連れて。

　うわぁ、と思った。

　全く、なんてタイミングなんだろう。思わずため息を吐きそうになった。

「せっかく副ギルド長に推薦してやったというのに、なんと使えない奴なんだ！　ん？　お前たちは、さっきの！！」

　おっさんは悪態を付いてこちらを見た。連れている二人がバッとおっさんの前後に移動した。とっさに守ろうと動けるのはすごいと思う。おっさんの肩には変わらず繋がれたサルが乗っている。

「……ギルドに用がある。通してもらえないか？」

　シュワイさんがそう言うと、おっさんはしぶしぶギルドの扉の前からどいた。

　俺は羅羅の上に乗ったままシュワイさんに続く。

「ふ、ふんっ！　所詮は冒険者風情が泊まるような宿だったということか」

　おっさんが負け犬の遠吠えみたいなことを言いだした。小物感がすごい。

「その冒険者に依頼をする為にここに来たのではないのか？　あまり我々をバカにしない方がいい」

　シュワイさんが足を止めて反論した。ちょっとハラハラしてしまう。

「その依頼も満足にこなせないようだからハッパをかけにきてやったのだ。おいお前、テイマーならうちで雇ってやってもいいぞ」

　おっさん、今度は俺に声をかけてきた。勘弁してほしい。

「お断りします」

「ガキのくせに態度の悪い奴だ！」

　おっさんはそう捨て台詞を残すと、ドスドスと足音を立てながらどこかへ行ってしまった。まあ、シュワイさんにかなわないのはよくわかっているからだろう。

　とりあえずクロちゃんとシロちゃんが彼らをつついたりしなくてよかったと思った。

「……オトカ」

　珍しくシュワイさんが低い声を発した。

「？　どうしました？」

「……斬り捨ててきてもいいだろうか？」

「えっ？」

　シュワイさんは一応短剣を持っている。それに手をかけているのを見て、やばいと思った。

「だめです。ほらほら、中に入りましょう。依頼を見たいです！　羅羅、シュワイさんを押して！」

「うむ」

　シュワイさんは羅羅に頭でぐいぐいと押されて観念したのか、そのままギルドの中に足を踏み入れた。ギルド中の視線が俺たちに集まったが、俺たちだと確認してすぐに平常通りになった。さっきのおっさんが戻ってきたのかと思ったのかな。

　それにしてもシュワイさん、何気に沸点が低くて困る。でもきっと俺が悪く言われたから怒ったんだよな。いいお兄ちゃんだなーと改めて思ったのだった。

次の更新は、11/4（月）です。よろしくー