107.やる時はやるニワトリスたちと現実逃避したくなる俺

「あと数日ですか……はぁ~……」


 チャムさんが残念そうに言う。できれば夏になる前に別の町へ移動したい。西側の門から出ていくとしたら、一番近いのはキタニシ町かな。そこから更に西へ向かうとキタ市に着くんだっけ。似たような名前が多くて紛らわしい。ちなみにキタ市から更に北へ向かうとキタ町とかキタ村とかがある。もう少し名前を考えろと言いたくなる。

 翌朝もシュワイさんの手料理をいただいてから、ギルドへ顔を出した。一日ぶりである。


「モール駆除に補助金が出るのかー。どうしようかなー」


 ボードの前にいたのはツコソさんだった。そういえば依頼が受けられるようになったんだっけ?


「あ、オトカ君」

「おはようございます、ツコソさん」

「今日も……すごいねー」


 言われる理由はわかる。なにせ俺たちは羅羅ルオルオの上に乗ってるし。前後にはクロちゃんとシロちゃんがいる。羅羅の頭の上にはピーちゃんが乗っている。そしてその羅羅の横にはシュワイさんという布陣だ。みんな過保護すぎて困るんだけど。


「ははははは……」

「この、モール駆除に補助金が出るって話、知ってる?」

「ええまぁ……詳しい金額は知りませんけど」


 もうそろそろでこの町を出るから、あとはここの冒険者たちでがんばってほしい。


「あっはっはっ! 今まで請け負ってたのがあだになったなぁ、ボウズ。補助金ってのはいくらなんだ?」


 後ろから他の冒険者に声をかけられた。彼はすぐに受付に聞く。


「一匹当たり大銅貨1枚が補助されます」

「ちっ、しょぼいな。でもまぁいいか。俺たちが退治してやっから優先して回せよ」

「依頼人に対してあまり態度が悪いと補助金は出ませんから気をつけてくださいね」

「なんだと!?」


 あまり素行のよくない冒険者のようだ。受付のおじさんの胸倉をつかもうとした手をピーちゃんがつついて止めた。


「いてぇっ! なんだこのインコ」

「ボーリョクハンターイ!」


 ピーちゃんは飛んで羅羅の頭の上に戻ってきた。ピーちゃんはけっこう正義感が強いのかもしれない。


「ち、ちくしょう……」


 さすがに羅羅の頭の上で毛づくろいしているインコには手を出せないのか、その冒険者は拳を握りしめて呟いた。


「へー、意外とインコも強いんですねー」


 ツコソさんが呟く。それをピーちゃんが飛んでつつきに行った。


「痛いっ! すんませんすんませんっ!」

「ピーチャン、ツヨイー!」


 そしてまた羅羅の頭の上に戻る。すっかりそこが定位置だ。


「ピーちゃん、あんまりいじめないであげてよ」

「ワカッター!」


 本当にわかってんのかな。ツコソさんに手を振り、ドルギさんが二階にいることを確認してから先に倉庫へ向かった。そろそろ解体してもらわないとシロちゃんが怒り出しそうだったからだ。ホント、うちの従魔たちはフリーダムだよな。

 ギルド裏手の倉庫に向かう。さすがに倉庫では羅羅の上から降りた。シロちゃんがカウンターの上に先日の獲物をドサドサと落とす。とても得意そうで、ふんすという顔をしている。すごくかわいい。


「お、おう……相変わらずすげえな。夕方には終わってるはずだから取りにこいよ」

「はい、ありがとうございます」


 解体専門のおじさんたちは一瞬引いたみたいだ。まぁ何回見ても慣れる光景じゃないよな、これ。


「これ……従魔だけが狩ったんじゃねえだろ?」


 おじさんに聞かれて、シュワイさんが一瞬ビクッとした。


「Sランク冒険者さんよ。もう少し手加減ってものをしてくれねえか?」

「……すまない、つい……」


 俺も思わず生ぬるい視線をシュワイさんに向けてしまった。シュワイさんもけっこう好戦的なんだよなー。

 ちょっとしおれているシュワイさんが面白い。


「うちの従魔たちにつられちゃうんですよね。お守り、ありがとうございます」


 倉庫を出てからシュワイさんに礼を言ったら、シロちゃんにつつかれた。


「いたっ! だっていっぱいお肉あるのに狩りに行きたがるだろっ!」

「カルー!」

「今日は行かないのっ!」


 またつついてこようとするシロちゃんをえーいと抱きしめてだっこする。そうしたらシロちゃんは大人しくなったけど、尾が嬉しそうにびったんびったん揺れているから持ちづらい。もっと身体鍛えないとなと思った。

 ギルドに戻り、シロちゃんをだっこしたまま二階に上がった。


「……どうしたんだ?」


 シロちゃんをだっこしたままだったからか、ドルギさんとルマンドさんに聞かれてしまった。


「だっこしてないとつつかれるので」

「……そうか。たいへんだな」


 もうツッコむのにも疲れたみたいだ。俺もつつかれたくないからしょうがない。もう多分下ろしてもつつかれはしないんだけどさ。シロちゃんがご機嫌だからもう少しだっこしていよう(気持ちいいので)

 シュワイさんが先に口を開いた。


「昨日領主から金をもらっているはずだが?」

「ああ、預かってるよ。確認してくれ。これがオカイイの分で、こっちがオトカの分だ」


 そう言って出された金貨の山を見て俺は絶句した。


「……えええええ?」


 なにかの間違いではないだろうかと思ってしまう。


「こ、これって……」

「ホワイトムースはよっぽど状態がよかったのだな」

「そのようだな」


 シュワイさんとドルギさんが当たり前のように話しているが、何かの間違いではないかと思った。


「こ、こここれって何枚あるんですか……?」

「金貨五十枚ぐらいだな。それと昨日の依頼料で、銀貨五枚だ。オカイイには大銅貨一枚だったな」

「ああ、それでいい」

「やっぱ大銅貨一枚っておかしいじゃないですか……」

「すでに話はついているだろう?」

「そうですけど……」


 ホワイトムースで先に金貨百枚出されていたのに、追加で百枚ってどうなってるんだろう。追加をシュワイさんと分けたから金貨五十枚って、俺は何もしてないんだけどなぁ。とはいえうちの従魔たちが活躍したことには代わりないから、受け取ることにした。

 クロちゃんがすりすりしてきたので、途中でシロちゃんを下ろしてクロちゃんをだっこしたりはしていた。


「オトカー!」


 クロちゃん超ご機嫌。


「……俺、今日歩いて戻ってもいいですかねー……」


 クロちゃんをだっこしながらチャムさんの家へ戻りたい気分だった。


「たまにはいいんじゃないか」


 シュワイさんが同意してくれたので、夕方まで自由に過ごすことにしたのだった。



次の更新は11日(木)です。よろしくー

誤字脱字等の修正は次の更新でします

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