66.やる気満々なニワトリスたちとフラグが立った俺
そういえばずっと町の中にいたなーと思う。(依頼で西門の外でモール駆除をしていたのを除く)
ひのふのみの……数えてみると町に着いてからすでに十日以上が経っていた。
そんなことを考えていられるのも、
羅羅の横を当たり前のようにシュワイさんが走り、羅羅の後ろからどうにかセマカさんとリフさんが走って付いてきている。彼らはここ数日真面目に身体作りに取り組んでいたようだ。
元の世界だったら数日身体を鍛えたぐらいでどうにもならないだろうと思うのだが、元々彼らの身体能力は高い上に魔法の使い方がすこぶるうまい。すぐにコツを覚えて身体強化魔法だけでなく他の魔法(俺にはよくわからない)も使って付いてきているみたいだった。
町を出てしばらく進み、分かれ道を左に行ったら北の山だけどそっちへは行かない。そのまま道を越えて走り、森に突っ込んだ。
町から森までは大人の足で歩いて二時間ぐらいはかかるらしいんだけど、ゆっくりめとはいえ体感的に二十分もかからなかった。うちの羅羅はどんだけ早いんだよ。
遠い目をしそうになりながら羅羅の背の上で揺られていた。
森に入って一時間も進んだだろうか、羅羅が足を止めた。
「羅羅?」
「……主よ、おかしいぞ」
「えっ?」
何がおかしいんだろう。
「そうだな」
シュワイさんが同意した。どういうこと?
ぜえはあと荒い息を吐きながらセマカさんとリフさんが追い付いてきた。
俺の後ろにいたシロちゃんが羅羅の背から降りた。クロちゃんは変わらず俺の前にいる。
なんかあるらしい。
そう考えてみると、羅羅の足で一時間以上も駆けてきたのに獲物らしい獲物に遭遇しなかったのは奇異だった。これだけ走れば普通何か獲物が見つかるはずである。
森が、異様に静かだとここでやっと気づいた。
クロちゃんを抱きしめながら神経を研ぎ澄ませてみる。
「?」
なにがどう、というわけではない。だが、森の様子が違っているような気がした。
「え? 待って? なんか来てない?」
しかも北の方角からやヴぁい気配が近づいてくるのを感じた。
ちょっと待ってくれ。これはもしかしてフラグか? 北の山には行かないって言ったけど森と北の山は繋がっているわけで。
「主よ、降りろ」
「……腕が鳴るな」
羅羅に言われて、クロちゃんをだっこしたまま降りた。勘弁してほしい。そしてシュワイさんはなかなかに好戦的だ。
「え? マジかよ……」
「あらぁ……少年はもっと後ろにいなさいねぇ」
リフさんの指示に従う。なんかやヴぁい気配が近づいてきていることは間違いない。俺は少し離れたところにある頑丈そうな木の上に登った。クロちゃんのサポートによってである。
その間にドドドドド……と何かが駆けてくる音がどんどん近づいてきていた。
しかも地まで揺れている気がする。どんなでかくてやヴぁい奴が突っ込んでくるんだよー!
しばらくもしないうちにそれが姿を現した。
「……ヘラジカの、巨大版?」
真っ白いとんでもなくでかいシカである。それが角で木をなぎ倒しながら迫ってくる様子は「死ぬ」の一言だった。
その顔に向かってシュワイさんは魔法を使い、横からは羅羅が突進し、シロちゃんはその巨大な身体を横からつつきまくった。セマカさんとリフさんも一瞬遅れて魔法を行使する。
その結果、10mも走らないうちにでかいシカはバタッと倒れた。俺が上った木のところまでは辿り着かなかったのでほっとした。
「……まさかこんなところまで来るとはな」
シュワイさんがため息をついた。
シロちゃんがだめ押しのようにシカをつついているから、死んではいなくてももう動けないだろう。顔は透明な何かで覆われている。たぶん水魔法で水球を作って溺れさせたのかもしれない。確かにその方が始末は早いかもしれなかった。
木から降りて近づく。念の為、10mぐらい距離は取った。
「……これってもしかして、北の山の魔物ですか?」
おそるおそる聞くと、シュワイさんは頷いた。
やっぱりー……。
ピーちゃんは別の木に止まっていたらしく、パタパタと戻ってきて得意げな顔をしている羅羅の頭の上に止まった。
「これはホワイトムースだ。北の山の上の方に生息しているはずなんだが……ここまで降りてくるとはまずいな」
ムースって確か英語でヘラジカのことだっけ。まんまだな。
「これが、北の山の魔物か……」
「すごいわねぇ……」
セマカさんとリフさんは青ざめていた。やヴぁいと思ったんだろうな。
「……これで一体は倒したわけだが、セマカ、リフ、お前たちはどうするつもりだ」
「えっ?」
「そうねぇ……」
セマカさんは何も考えていなかったらしい。北の山の魔物だと聞いて、リフさんは少し考えているみたいだ。
「……今は北の山の魔物が活動期だと聞いているわ。もう一体ぐらい狩って、報告はしたいわねぇ」
「それならば問題ないだろう」
「腹が減ったぞ」
「キルー」
「オトカー!」
「ゴハンー?」
そんな緊迫した状態でもうちの従魔たちはいつも通りだった。羅羅の口からは涎が垂れてるし、シロちゃんとクロちゃんの目はきらっきらしている。ピーちゃんはよくわかっていないようで、コキャッと首を傾げていた。……みんなかわいいなぁ。(現実逃避)
「……シロちゃん、こんなにでかいのは俺じゃ解体できないから、ギルドで解体してもらおう。しまっておいてくれる?」
「エー」
シロちゃん的にはでっかい獲物をこの場で食べたかったみたいだ。
「シロちゃん、頼むよ。俺が解体するよりギルドの人に頼んで解体してもらった方が絶対においしいよ?」
と言えばしぶしぶアイテムボックスにしまってくれた。
「ありがとう、シロちゃん」
浄化魔法をかけてからぎゅっと抱きしめた。
そうしているうちにおなかが鳴ったので、お昼ごはんを食べることにしたのだった。
なんか時間的に早い気がするけど、まぁいいだろう。
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負ける要素が一切ない
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