64.諦めないニワトリスたちと逃げたい俺

 そんな風に過ごして、それから数日が過ぎた。

 モール駆除の依頼は毎日のように冒険者ギルドの掲示板に張り出されていた。(それも複数)それだけ今年はモールの被害が多いのだろう。ほっといたら作物が全部ダメになってしまう。

 それでも、俺がギルドへ顔を出す時間はそれほど早くはないというのに必ず残っていた。


「……モール駆除の依頼って受けてる人いないんですか?」


 受付で聞いたら、捕まえるのがたいへんでワリに合わない依頼なんだとか。確かに土中のモールを普通に捕まえるのは骨だ。俺だってこの間は三十匹のうちの五匹しか捕まえられなかった。従魔たちの行動が早いというのもあるが、俺、ホントにいる? と考えてしまうぐらいである。

 そんなモール駆除なんだが、魔法師の三人も一緒に手伝ってくれている。


「捕まえた分はお支払いしますね」


 と言ったのだが、「金には困ってない」と三人に辞退されてしまった。そういえば貴族の出って言ってたな。


「……なんでそんなにシュワイさんと北の山へ行きたいんですか?」


 つい聞いてしまった。


「簡単に言やあ、箔を付けるためだな」

「少しでも意識していただきたいので」

「オカイイってカッコイイでしょぉ? できるだけあの顔を見ていたいのよぉ」


 ……正直は美徳だ、うん。


「そうなんですか」


 それをシュワイさんも聞いていたので、こめかみに指を当てるような仕草をしていた。


「……オトカ、バカですまん」


 何故かシュワイさんに謝られてしまった。別に謝られるようなことでもない。

 三人は、バカとはなんだと抗議していたが、シュワイさんは取り合わなかった。

 三人が魔法師として優秀だというのはもう理解している。ただ、体力はそれほどなさそうだった。でも三人はどうしてもシュワイさんに依頼を受けさせたいのか、身体も鍛え始めたみたいだった。目的はどうあれ、向上心を持って行動するのは大事だと俺は思う。

 え? 前世の俺はって? 聞いてくれるなよ。

 んで、革鎧と靴ができる日になったので受け取りに行ってきた。


「おう、来たか。できてるぞ」


 ひじ当てとひざ当ても作ってもらえたのが助かる。これで怪我をする危険性がだいぶ減った。

 さっそく装着して最終調整をしてもらった。靴も重すぎず軽すぎずというかんじで、ぴったりだった。さすがは職人さんである。


「ありがとうございました!」


 あんまり嬉しかったので銀貨6枚のところ大銅貨5枚余分に支払った。シュワイさんが何か言いたそうな顔をしたけれど、俺がそれだけの仕事をしてくれたと思ったのである。いい仕事にはそれなりの対価は必要だ。

 防具屋を出て、シュワイさんがため息をついた。


「オトカは人が良すぎる」

「俺が価値を見出したんだからいいじゃないですか」

「……騙されないか心配だ」

「……我もそれは同意する」


 俺の乗り物になっている羅羅ルオルオが同意した。


「えええ」


 なんで俺ってばそんなに信用ないワケ?


「まぁ、物の価格とかは確かに知りませんけど……」


 それは要勉強だ。


「明日はその鎧と靴の具合を確かめよう」

「はい」


 チャムさんの家に戻ったらいつも通り昼食をいただいて、文字の勉強に勤しんだ。

 だいぶつっかえずに読めるようになってきたと思う。



 翌日もモール駆除の依頼を受けつつ、鎧と靴の慣らしをした。

 羅羅は「革臭い」と文句を言っていたが、クロちゃんとシロちゃんはいつも通り俺にぴっとりとくっついていた。かわいいので空き時間はなでなでしていることが多い。畑では虫が付くことが多いので、二羽がつついて取ってくれていた。それを魔法師の三人が嫌そうな顔で見ていた。


「……それニワトリスだろ? 大丈夫なのか?」


 セマカさんに聞かれてしまった。


「うーん、普通の人はダメかもしれませんね」

「ピーチャン、トルー!」


 ピーちゃんは畑ではあまり自分の出番がないせいか、シュワイさんの身体をつついて虫などを取ってあげていた。自分じゃ見えないところに小さな虫が止まっていたりするから、ホント困るんだよな。

 取ってくれると助かる。


「革鎧と靴はどうだ?」


 シュワイさんに聞かれて笑顔で答えた。


「すごくしっくりしてます。ありがたいですね」


 今日はジャイアントモールもいたので、解体用のナイフで首を描き切った。なんか退治すればするほど身体が軽くなっていく気がするのはなんでだろう。やっぱ経験値とかがあってレベルアップしてるとかなのかな。鑑定では出てこないけど。


「ジャイアントモールなんて食べるの?」


 マウさんが呆れたように言った。


「ええ、比較的おいしいんですよ」

「えー? じゃあ食べてみたいなー」


 リフさんが食いついてきた。


「うーん……主に従魔たちのごはんなので、許可が取れないと……」

「そうなのぉ? ブルータイガー、ニワトリスたち、私にも少しジャイアントモールの肉食べさせてもらっていいかなぁ?」


 羅羅はふん、と鼻を鳴らした。


「その頭が悪そうな話し方を改めれば考えないこともないぞ」

「ヤダー」

「ダメー」


 ニワトリスたちは即答した。


「じゃあしょうがないかぁ」


 リフさんはすぐに引き下がった。やっぱ頭は悪くないんだろうな。

 革鎧もできて、靴もひざ当てひじ当ても作ってもらった。こうなってくると北の山へ一緒に行かないといけないんだろうか。

 でも自分から切り出すのもアレなので、とりあえず黙っていることにした。

 だが……うちの従魔たちは黙っていなかった。


「……北の山はいつじゃ?」

「カルー」

「エモノー」

「ナオスー!」


 ……だからどうしてうちの従魔たちはそんなに好戦的なんですかねぇ?

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