63.やる気満々なニワトリスたちと回避できない俺

 でも、なんでこんなにモールが多いのか疑問だった。

 俺たちの村では一つの畑に出ても三匹ぐらいだったのに、ここはとても多い。農家のおじさんに「毎年こんなに出るんですか?」と聞いたら十年周期ぐらいで増えるのだという。今年はたまたまモールが多い年だったということだろう。迷惑な話だ。

 ま、その分俺が小遣い稼ぎさせてもらってるけどさ。

 ちなみに、クロちゃんが尾で跳ね飛ばしたモールが顔面に当たったセマカさんは、ピーちゃんの治癒魔法で治してもらっていた。

 ピーちゃんは、


「ナオレー! ナオレー! ナッオッレーッ!」


 と言いながらセマカさんの周りをぐるぐる回って治癒魔法を発動していた。

 治るのはいいけど、これ毎回やるのかなと思ったら笑えてきた。

 セマカさんは治癒魔法は使えないらしい。


「礼を言う。……インコは治癒魔法が使えるものなのか? それともこの個体だけか?」


 とぶつぶつ言っていた。治癒魔法はそれなりに貴重な魔法のようだった。

 三人の内、治癒魔法を使えるのはリフさんのみで、リフさんもすごく疲れるからあまり使いたくないと言っていた。ピーちゃんは疲れないらしい。


「……オカイイ、どうなんだよ」

「私たち、役に立ちました?」

「北の山ー、行こうよぉ」


 そういえばモール駆除の手伝いをして、彼らが使えると判断したら北の山へ行くんだったっけ? 俺はできれば参加したくないけど、うちの従魔たちはすっかりその気なんだよなぁ。はぁ。


「……セマカとマウテアーはもう少し検証が必要だな。リフナはまだましだが、北の山で狩りをしたいのならばお前たちはもう少し鍛錬をした方がいい。身体強化魔法を使ってもその程度では役に立たん」


 シュワイさんは淡々と三人にダメ出しをした。


「マジかよ……」

「……そこの少年は? 乗ってただけじゃない」

「マウ、オトカ君はぁ、モール退治してたよぉ?」

「リフはどっちの味方なのよ!」


 マウさんが切れた。


「事実しか言ってなぁい」


 とりあえず面倒くさいので依頼完了のサインを木札にもらい、「他にもモールで困っているところがあったらギルドに依頼を出してもらうようお伝えください」と農家のおじさんに告げてギルドへ移動した。

 シュワイさんも当たり前のように三人を置いていく。

 土壁は作ってもらえたから助かったけど、それ以外はなぁ。

 ギルドでお金をもらい、シュワイさんと共に途中買い物をしつつチャムさんの家へ戻った。

 お昼を食べてから文字を習う。その間羅羅ルオルオはピーちゃんと庭でお昼寝していたりするが、シロちゃんとクロちゃんは俺の側にいる。


「シロちゃん、クロちゃん、僕は文字を習ってるだけだから楽しくないよ? 外にいてもいいからね?」


 と言っているのだが、


「マモルー」

「オトカー」


 と言って聞かない。そんなわけでたまにもふもふしながら今日もシュワイさんに文字を習っていた。


「オトカは物覚えがいい。地頭がいいのだろうな」

「褒めても何も出ませんよー」


 別に俺は頭がいいわけじゃない。中身が43歳のおっさんというだけだ。

 今日もシュワイさんがおやつを作ってくれた。今度は平たいパンに焼いた肉を挟んだ形の物が出てきた。肉はまだまだたくさんあるので言ってくれれば出すと伝えてある。魔物の肉なんだけど、普通の家畜の肉よりもうまいらしい。不思議なものだと思った。

 焼いた肉を少し切り分けて、シュワイさんは羅羅やニワトリスたちにおやつとして出してくれた。ピーちゃんには野菜の葉っぱを。


「うむ、うまい」

「モットー」

「オイシー」

「オイシーイ!」


 シロちゃんがどさくさに紛れてねだっていた。シュワイさんは更に一切れずつうちの従魔たちにあげてくれた。みんな大満足である。

 夜、チャムさんが帰ってきてから、北の山の話になった。


「北の山で魔物を狩る、ねぇ……まぁ確かにそろそろ間引かないといけない時期ではありますね」

「え」


 チャムさんが怖いことを言い出した。


「普段、北の山から魔物が出てくることはないんですよ。ですが、一定の周期で魔物が北の山から降りてくることがあるんです」

「そ、それって……どのぐらいの周期なんですか……?」


 聞きたくなかったけど、おそるおそる聞いてみた。


「五年に一度、二、三頭が降りてきて、十年に一度、十頭ぐらいが一度に降りてくるみたいですね」

「えええええ」


 どっちなの、ねえどっちなの? それって、もしかしなくてもこの町を早く出て行く方がいいんじゃないのか?


「こ、今年はどっちの周期なんですか……?」


 チャムさんがにっこりした。これはよくない笑みだと思った。


「今年は……十頭ぐらいが降りてくる年ですねぇ……」

「……俺、革鎧と靴ができたら出て行きますねっ!」

「まぁ、そう言わずに~」


 それがわかってたら絶対作ろうと思わなかったのに。


「大丈夫だ」


 シュワイさんが俺を見て言う。何が大丈夫なんだ?


「北の山の魔物は確かに強いが、今年は私がいる。それに、羅羅もニワトリスもいるだろう? あの三人も魔法の使い方には長けている。問題はない」

「……もしかして、あの人たちがこの町に来たことと関係してるんですか?」


 なんかピンと来た。先に魔物を間引いてしまおうという話なんだろうか。


「おそらく町の領主から魔法師協会に話がいったのだろう。北の山の魔物を間引いてほしいとな。それであの三人が来たのだと思う」


 ん? と思う。

 十年周期って、どっかで聞いた話だな。


「もしかして、魔物が北の山から降りてくるのと、モールの大発生って因果関係あるんですかね?」

「……それを考えたことは、ありませんでしたね」


 まぁ農家と防衛隊じゃあんまり接点はないかもしれないな。普通は俺ほどモールの駆除を請け負う冒険者もいないらしいから、これはある意味新事実なのかもしれない。ま、ただの偶然かもしれないんだけどな。


「……北の山の魔物は強いが……その分肉がうまい」


 ぼそっとシュワイさんが呟いた。それをうちの従魔が聞き逃すことはありえなくて。


「十頭か、腕が鳴るな」

「カルー」

「カルー」

「ナオスー?」


 あああああ。

 なんでピーちゃんもやる気なんだよー。

 魔物が降りてくるまでに町を出ることはできそうもなかった。



今月中に更新頻度を下げますー。19日(月)頃から週二回の更新にシフトしていきますのでよろしくお願いします。

更新頻度は下がりますが、更新は止まりませんのでご都合のいい時にお読みくださいませー

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