58.いつも通りなニワトリスたちとちょっとげんなりする俺

 翌朝、その日の予定をチャムさん、シュワイさんとの三人で話した。

 俺はできれば冒険者ギルドで依頼を受けたいと、希望を言った。今の時期ならば他にもモールの被害でたいへんな農家があるのではないかと思ったからだった。

 うちの従魔たちのおかげでそれほど金に困っている状態ではないが、モールの被害は見過ごせない。アイツらは特に農作物を食べるわけではないが、土中の虫を漁って食うが為に、そこに生えている植物の根などをズタズタにしてしまうのだ。だから春から夏にかけてのモール駆除は村の一大イベントだったのだ。うまく捕まえれば肉になったし。あんまりうまくはないけど、たんぱく源は大事だった。

 チャムさんは防衛隊の仕事だ。

 シュワイさんはできるだけ俺のサポートをしてくれるらしい。


「でも……いいんですか?」


 思わず聞いてしまった。


「何が?」

「だって、昨日の人たち、諦めてなさそうでしたよ?」


 俺が食べている肉の欠片を、すぐ横で待っているシロちゃんクロちゃん羅羅にあげる。ピーちゃんにはサラダの野菜を少し。それをシュワイさんもすぐに覚えてくれて、俺のごはんの分量は多めにしてくれる。(シュワイさんが調理担当になってしまった)

 ホント、気遣いがすごくできる人なんだよな。

 魔法師の学校でも、人に関わらないようにしていたと言いながら自然といろいろやってたんだろう。


「うまい」

「オイシー」

「オトカー」

「オイシーイ!」


 従魔たちには先に庭でごはんをあげているので、これはおやつみたいなものだ。従魔たちが嬉しそうにしているのを見て、シュワイさんもにこにこしている。シュワイさんはもふもふが好きなんだよな。

 みんなの口を布で拭いてあげてから、布に浄化魔法をかけた。


「彼らは、朝は遅いだろうから依頼を受けるのは問題ない。……依頼を終えて来てからだな」

「じゃあ依頼達成後のギルドへの報告は僕らだけですればいいですね」

「依頼完了までは見守らせてほしい。その後はここに」

「わかりました」

「……周知が必要だな」


 シュワイさんはこめかみを指で抑えた。お疲れ様だなぁと思った。

 チャムさんと別れ、昨日と同じように冒険者ギルドへ向かった。

 ギルドに着くと、入口の扉に張り紙があった。絵と文字が書かれている。

 虎、ニワトリス、鳥とわかる絵の下に文字が書かれていて、それが建物の中に入るような描写と、従魔たちが危害を加えられているような絵、そしてその横にバツが書かれている。


「これは……」

「字が読めない者でもわかるように描かれているな」


 意味は、虎やニワトリス、インコなどの従魔が出入りすることがある。決して攻撃しないように。

 もし攻撃して反撃をされた場合、冒険者ギルドでは責任を負わない。

 というようなことが書かれていたみたいだ。

 ……昨日の三人があれからなんかやらかしたのだろうか。

 それにしても絵ってのはいいかもなと思った。俺はあんまり絵を描いたことがないから、うまく描けるかどうかはわからないけど。

 そしてギルドに入ったら、職員に「オカイイ様とオトカ君たちは二階に上がってください」と言われてしまった。

 やだなぁそんな顔パス。

 というわけで二階へ。


「お、来たか」


 ギルド長とルマンドさんがいた。

 俺は過保護な従魔たちにより、羅羅の上である。なんか心理的には羅羅の上に乗ったまま人の話を聞くというのは嫌なんだが、下ろしてくれないんだからしかたない。諦めるしかないのだ。前にいるクロちゃんをもふもふして気を鎮めることにする。


「あのー……僕、モール駆除の依頼があったらそれを受けたいんですけど……」

「それは下の掲示板で確認してくれや。オカイイ、昨日の連中の件だ」

「……魔法師たちが何か?」


 じゃあなんで俺もここに呼ばれたんだよ? と思った。シュワイさんに依頼している立場ではあるけど、俺たちはセットじゃないぞ。


「お前らアイツらを撒いたんだろ?」

「ああ」

「はい」

「それであのブルータイガーはなんだとギルドにケチをつけてきたのですよ。身体強化魔法は使えるようでしたが、元々あまり身体を鍛えていないのでしょう。貴方がたに追いつけなかったらしくしきりに悪態をついていました。どうしてもオカイイさんと組みたいようなので、また出没すると思います。表に張り紙もあることですし、あまり絡まれるようであればニワトリスのつつきまでは許容します。ただし麻痺の解除はオトカ君が責任持ってするようにいいかな?」

「……ああ、そういう……」


 ルマンドさんに説明されて頷いた。

 確かにルールを一応決めておかないとうちの従魔たちが何をしでかすかわからないからな。それで追われるようなことになっても困る。


「ありがとうございます」


 礼を言うと、ルマンドさんは目を見開いた。


「……何故礼を言うのかな?」

「だって、うちの従魔たちが捕まったりしないように考えてくださったわけでしょう?」


 どうあっても捕まることはないような気がするけど、今町を追われるのは困るしな。まだ皮鎧と靴を受け取ってないし。


「……本当に君は十歳ですか?」

「……えええ」


 一瞬ギクッとしたけど、俺が元43歳の転生者だなんて聞いたって誰も信じないだろう。クロちゃんをぎゅっとして心外だという顔をしてみせた。


「オトカー」


 嬉しそうなクロちゃんが超かわいい。身体を揺らしているのが癒される。


「ま、そういうことだ。自己責任で頼むわ」

「わかった」

「はーい」


 というわけでまた下に降りて掲示板を確認し、今度は町の外の畑へモール駆除へ向かったのだった。

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