51.いい子にしているニワトリスたちと失言する俺

 ここ数日が濃すぎるせいか、この町に着いてからもう一週間ぐらい経った気分だ。

 でもさ俺、一昨日の夜にこの町に着いたばっかなんだよね?

 一昨日の夜に着いて冒険者登録をして従魔登録もして、バラヌンフさんちに泊って。冒険者ギルドに行ったのは昨日の朝が初めてだ。

 バラヌンフさんとチャムさんに話を聞いたところ、タイガーというのはその存在だけで脅威だから、従魔であるという首輪をつけていたとしても恐怖を感じるのが当たり前だと言っていた。冒険者は従魔を連れている人もいるが、それは魔物を手懐ける魔法を持っている人限定だからそもそも数も少ない。それにその人がどれだけの強さがあるかも関わってくるので、せいぜいピーちゃんぐらいの大きさの従魔を連れている人がいるぐらいだという。

 それならばギルドの受付の職員が嫌がるのも納得だ。あんまり態度に出すのはどうかと思うけど。

 そして今回はうちの従魔だけでなく、シュワイさんにも視線が集まった。シュワイさんは顔をしかめた。そういえば引きこもりだったな。

 またギルド長を呼ばれそうになったので、「倉庫に行ってますから」と断って裏の倉庫へ向かった。

 これ、声をかけるだけなら俺だけギルドの中に入ればよかったな。羅羅ルオルオが下ろしてくれないからドーンて入って出てくるかんじにはなるけど。……扉を壊しそうでこわい。

 倉庫に向かえばおじさんたちが忙しそうにいろいろ解体していた。


「ボウズか。ちょっと待ってろ。これで最後だ」

「ありがとうございます」

「圧巻ですねー」


 チャムさんがにこにこしている。クロちゃんとシロちゃんにすりすりされてしまった。魔物の肉が食べられるのが嬉しいってところかな?


「もうちょっとだって。待っててね」


 ニワトリスたちをなでなでする。シュワイさんも驚いていた。


「……すごい数だな。オトカの従魔が狩ったのか?」

「そうなんです」


 解体を終えたおじさんたちを浄化魔法でキレイにし、解体したものリストをもらった。そこに書かれた金額の計算はシュワイさんがすぐにしてくれた。肉は全て回収である。


「金貨1枚と銀貨3枚、大銅貨2枚か。妥当なところだな」


 とうとう金貨1枚を稼いでしまったらしい。金貨1枚って言ったら百万円だよ。確かに昨日と同じぐらいの数がシロちゃんのアイテムボックスから出てきたけど、いったいどんだけハッスルしたんだうちの従魔たちは。

 中にはバイソンも一体あったらしい。チャムさんがリストを見て涎を垂らしそうだった。他にもポイズンボアというのがあって、どんな味がするのか楽しみである。


「そういえば、ポイズン系の魔物って解体するのたいへんそうなんですけど、大丈夫ですか?」


 ニシ村ではポイズンオオカミを解体してくれていた人がしびしびしていた。


「ああ、素手で解体しなきゃ大丈夫だ。ポイズン系を扱う時専用の手袋もあるしな」

「それならよかったです」


 ほっとした。


「それはいいんだが、ポイズン系の肉なんかどうするんだ? 食ったら物によっては死ぬぞ」

「うちの従魔たちが中心に食べるので大丈夫です」

「そういや魔物ってのは毒のあるのも普通に食うんだったか」

「はい」


 そう答えて、今日のところはそれで撤収することにした。で、帰ろうって頃になってドルギさんとルマンドさんがやってきた。


「お! チャムじゃねえか。ソイツは……」


 ドルギさんがシュワイさんを見ていぶかしげな顔をした。


「オカイイさんですね? 依頼を受けにいらしたのですか? 実はSランク指名の依頼があるんですよ」


 ルマンドさんは笑顔でシュワイさんに話しかけた。


「あ! オカイイか。……真っ黒じゃなかったか?」

「変装魔法だ。もうその必要がなくなったから解いた。明日、オトカとまた来よう。指名の依頼は内容による」

「オトカ君とパーティーを組まれるのですか?」


 ルマンドさんにそう言われて、俺がびっくりした。


「オトカがよければパーティーを組ませてもらいたいとは思っている」

「えええ?」


 俺Fランクなんですけど? って、うちの従魔と一緒にいたいのか。


「だがなぁ、ボウズは冒険者になりたてだろ? 従魔連れとはいえ、FランクとSランクが組むなんつーのは聞いたことがないぞ?」


 さすがにドルギさんは難色を示した。俺もドルギさんの言うことはもっともだと思う。


「……ならば今はパーティーを組まずに、オトカのランク上げの手伝いをしよう」

「……それはだめだろ」


 ドルギさんからツッコミが入った。うん、俺もそれはだめだと思う。


「ああ、だがな。大量の買い取りをさせてもらったから、ボウズは明日からEランクに昇格だ」

「えええ?」


 どうやら魔物の買い取りも実績に加算されるらしい。


「この調子で行けばDランクもすぐじゃねえか? さすがにCランクに上がるには試験があるから無理だろうがよ」


 冒険者ギルドに登録して三日でランクが上がるって、それはどれぐらいの早さなんだろう。なんとなく普通じゃないってことはわかるが、ここで聞くのもアレなので、「ありがとうございます」と礼を言い、チャムさんの家に戻った。

 シュワイさんも何故かついてきた。


「シュワイはもう家に帰っていいですよ?」

「先ほどのオトカの言い回しが気になってな」


 羅羅から降りて首を傾げた。俺、ヘンなこと言ったかな。


「オトカ」


 シュワイさんが、俺にくっついているクロちゃん一羽分ぐらい離れた場所で声をかけてきた。


「はい」

「解体した肉のことだが、ポイズン系は”従魔が中心に食べる”と言っていたな?」


 ギクッとした。嘘は言いたくなかったから曖昧な言い方をしたのだ。気づかれてしまったみたいだ。


「……ええ、それがどうかしましたか?」


 道すがら、俺の体質について話してはいたが、そこで思うところがあったのだろうか。これだから頭のいい奴は。


「もしかして、オトカも食べるのか?」


 バレた。

 でもまだごまかせるならごまかしたい。


「ええ、食べます」

「ええっ? 食べられるのですか!?」


 チャムさんが食いついてきた。


「ええまぁ……ポイズン系の魔物の肉って、焼くと毒がなくなるんですよ。もしかしたら焼いてもなくならない魔物もいるかもしれないんですけど、少なくともポイズンオオカミの肉は焼いたら無害化されたので……」

「ふむ……」

「それは食べてみたいです!」

「……うちの従魔たちが特に好んで食べるので、少しだけですよ? あ、もちろん鑑定しながら焼きますけど」

「……それは、私もご相伴に預かってもいいだろうか?」

「かまいません。でも少しだけですよ」


 一応念押しした。

 このポイズン系の肉が食べたくて羅羅とシロちゃんがハッスルしたんだからな。

 とりあえず先に庭で従魔たちにポイズンオオカミの肉を切ってあげる。ピーちゃんには今朝チャムさんが買ってきた野菜を出した。


「うまい!」

「オイシーイ!」

「オトカー」

「オイシーイ!」


 他の魔物の肉よりも食いつきが激しい気がする。そんな従魔たちを、シュワイさんも優しい目で眺めていたのだった。



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オトカはなんだかんだいってやらかす(謎

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