鶴岡真美の恩返し
楠木祐
1話 鶴と亀
幼馴染、それは気高く尊い最高の存在だ。昔からの関わりがあり、一番の理解者。そんな存在がいてくれるなら俺はなんだって頑張れるだろう。
俺が捻くれているのも全ては幼馴染がいないからだ。幼馴染さえいれば俺は、俺は……。そんな荒唐無稽なことを考えながら俺は自転車を漕ぐ。
学校に着き、自転車置き場に自転車を置いてから昇降口に行き、ローファーを上履きに履き替える。
階段を上って三階にある一年A組の教室に入ると窓側の一番後ろにある俺の席に人が集まっていた。珍しい光景だった。普段は俺が座っていることもあり、席周辺は閑散としているのだが今日は朝から盛り上がっている。
俺が席に近づくと輪を作っていた奴らが散らばっていく。おかしいな、俺に磁力はないはずなのにクラスメイトが反発した砂鉄みたいだった。それでも一人、砂鉄、ではなく女子が残っていた。
黒髪ロングで端正な顔立ち。清楚系で男からモテるだろうなという雰囲気が漂っている。身長は平均的と言ったところか。それにしてもこんな奴、うちのクラスにいたっけ?
「
疑問系の言葉に俺が曖昧に頷くと彼女はパッと蛍光灯がついたように笑う。
なぜだかとても嬉しそうなので不気味に思えた。
「アンタ誰?」
ぶっきらぼうに俺が聞くと彼女は苦笑してから口を開く。
「
「B組ならクラス間違えているぞ。B組は隣の教室だ」
「それは知ってるよ」
「じゃあ、なんでA組にいるんだよ」
俺の言葉に鶴岡は微笑む。
「亀山くんに用があってさ」
「俺に?」
落とし物をした覚えはないしな。それか、これから雑用を押し付けられるのだろうか。なんにしても面倒な予感しかしない。
「単刀直入に言うね。私と友達になってくれませんか?」
「嫌だ」
俺は即答した。まさか断られると思っていなかったのか鶴岡はとても驚いていた。
「どうして嫌なの?」
小首を傾げる鶴岡に俺は溜息を吐いてから言う。
「お前みたいな明るくてキラキラしている奴は苦手なんだよ。それに、仲良くしていたらお前にも迷惑がかかる」
「迷惑? 全然、迷惑じゃないよ。亀山くんが私と友達になってくれたらとても嬉しいよ」
「そういうことじゃない」
鶴岡は何もわかっていない。俺たちだけが良くても周りが、空気が、それを否定する。そして、俺だけではなく鶴岡にも危害を加えてくる。そんなことになる前に俺は回避する。これまでも、そうしてきたように。
「そろそろ鐘が鳴るから自分のクラスに戻れよ」
寂しそうな顔で鶴岡は教室を後にしようとする。
彼女の華奢な背中を見送って安堵したのも束の間。
「私、諦めないからね」
そんな声が聞こえたような気がした。
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