2話 友達で駄目なら
放課後、俺が帰り支度をしていると鶴岡がやってきた。
「亀山くん、一緒に帰らない?」
俺は溜息を吐いてから答える。
「帰らない」
「なんで?」
「一緒に帰る理由がないからだ」
「私にはあるんだけどな」
鶴岡にはあっても俺にはない。今こうして鶴岡と話しているだけでクラスの連中が俺たちに注目している。その注目が良いものなら良いがそうではない。クラスの陰キャラが他クラスの陽キャラと仲良くしている。それを疎む奴だっているだろう。だから、彼女とは極力関わりたくないのだ。
「友達にはならないと朝言っただろ。それに、俺と友達になっても鶴岡にメリットはない。デメリットだらけだ」
自分で言っていて悲しくなるが事実なのだから仕方がない。
「私、こう見えて諦めは悪い方なの」
「十分、そう見えるよ」
即座にツッコむと鶴岡は苦笑する。
「酷くない? ……絶対、仲良くできるのになぁ」
「いやいや、無理だろ。その自信を俺にも分けて欲しいな」
「友達になってくれたら分けてあげるよ」
自信を他人に分けることなど可能なのだろうか。どうせ、からかわれているだけだろう。
「亀山くん、部活には入ってる?」
「いいや。だから、さっさと家に帰りたい」
「じゃあ、帰ろうか」
「いや、一人で帰りたいんだが」
俺の言葉を軽く無視して、鶴岡は廊下に出る。
並んで歩くと目立つので俺は彼女と一定の距離をとりながら歩く。
こうしているとストーカーの気分になる。
「なんで横並びで歩かないの?」
「他人の迷惑になるだろ」
「今、そんなに人がいないから大丈夫だよ」
階段を降りて昇降口で上履きからローファーに履き替える。
「俺、自転車だから」
「あ、そうなんだ。私は徒歩だよ」
そういう事を言っている訳ではない。通学手段が違うから別々で帰ろうねという話をしたつもりだったのだが伝わってなさそうだ。
仕方がなく、自転車置き場から自転車を押して鶴岡と並んで学校を出る。
「高校には慣れた?」
「別に俺は転校生じゃないぞ」
中学までは何回も転校をしてきたが高校からは転校は勘弁してくれと親父に頼んでいたので普通に入学ができた。
「亀山くんって友達いるの?」
「どこからが友達という定義かによって変わるな」
「そんなことを言う人に友達はいないだろうね」
「うるせえ。別に友達なんかいなくても平気だ」
今までだってそうだった。どうせ時が流れれば離れていくのだから。仲良くする意味も必要もない。
「亀山くんって、やっぱり変わってるね」
「やっぱり?」
俺が首を傾げると鶴岡は首を横に振って「なんでもない」と言った。
「ねえ、亀山くん。友達がいらないなら他に欲しいものはないの?」
欲しいもの、か。
俺が欲しいものと言ったら思い浮かぶのは。
「幼馴染」
俺がそう言うと鶴岡は笑う。でも、その笑いは嘲笑ではなかった。
「じゃあ、私が幼馴染になってあげるよ」
「はぁ?」
幼馴染は昔からの関係がないと作れない。作られない。
「意味がわからない」
俺はまだ明るい空を見上げてそう呟いた。
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