崩壊

ソードメニー

崩壊

ハデス消滅

ハデスが消滅した。それは、この世を構成する半分の消滅と同じ意味だった。生きる者には聖物質と暗黒物質がある。その内、暗黒物質を司る神がハデスだった。

「このままではこの世は崩壊してしまう・・・!」

そう言ったのは、ゼウスだった。ゼウスは聖物質を司る神である。ゼウスの側近、ミズーリオはゼウスに尋ねた。

「ハデス様がいなくとも、聖物質を司るゼウス様がいれば、この世が消滅することはないのでは?」

ゼウスは大きく首を振り、言った。

「思い出したまえ。この世は二つで成り立っている。例えば、男と女、陸と海、そして、聖物質と暗黒物質。片方が無ければこの世は崩壊する。」

「しかし、暗黒物質が消滅したわけではありません。」

「そうだが、ハデスがいなくなれば、暗黒物質は乱れるだろう。そうなれば、この世は簡単に崩壊する。ああ!どうしたものか!」

「落ち着いてください、ゼウス様。」

「・・・すまぬ。我が取り乱してはいけない。まず、暗黒物質を安定させることが第一だが、どうしたものか・・・」

ミズーリオは歩み出た。

「私がその役目を受けます!」

「本当か!ちょうどそれがいいと思っていた。お主ならハデスほどではなくとも、暗黒物質を操ることができる。」

「はい!お任せください。」

ミズーリオはシンボルタワーに向かった。ゼウスは腕を組み、言った。

「しかし、なぜハデスは消滅したのか・・・」


ゼウス苦悩

ゼウスに思い当たることがあった。元地球人と合流してから間もなく、それはシンボルタワーの頂上で起きた。

「これが…神の力…」

頂上にある聖杯を手にした者に、ゼウスは言った。

「やめるんだ!それはこの星を支える力の源。しかし、それは扱えるものではない!」

聖杯を手にした者はその場で取り押さえられた。しかし、その後も聖杯を狙う者が後を絶たなかった。そこで、ゼウスは討議大会を開いた。元地球人はゼウスらに守られるだけの現状に満足していなかった。その現状を変えるため力を欲していた。それを聞いて、ゼウスは仮に与えた力で戦い、勝利すれば認めることにした。そして、ゼウスは闘技大会を開いた。トーナメント方式の大会だった。はじめ元地球人は予想外に善戦したが、最後に進むにつれて敗戦して全滅した。

「我らの勝利に終わった。今後も従来通りに進むことが決定した。まあ、我々に任せて気楽に過ごすがよい。あと、仮に与えた力は回収するので、順番に並んでください。」

ゼウスは顔をしかめた。

「あの時、仮に与えた力を回収しきれていなかったのではないか。しかし、あの力では、百年程度で効果が切れる。もうとっくに効果が切れているはずだ。大した問題ではない。はて?」


大発見

二度目の地球が誕生してから約千年が経っていた。一つの探検隊が遺跡を発見した。隊長のリンクが言った。

「あった!誰も到達したことがない遺跡があった!みんな、入るぞ。」

遺跡の最深部で、探検隊はほこりまみれの研究室を発見した。

「一体ここは何だ?見たことのない道具や物であふれているぞ!」

そして、リンクはある物を見つけた。

「みんな、これを見てくれ!」

探検隊の隊員全員が驚いた。

「これは大発見だ!」

「これがあればあの帝国にさえ勝てるかもしれない!」

隊長のリンクは言った。

「ああ!これはまさしくオーパーツ。そうだ。これを希望の石“奇石”と名付けよう!」

その後、探検隊が持ち帰った“奇石”は、研究家によって現在の地球にはない未知の物質だと判明した。それは前に現在の地球より進んだ文化があったことを意味していた。


セブン消滅

それから、数十年の時が流れた。1つの星に停まった宇宙船の外で、九使徒の一人、アグルは言った。

「ミズーリオ様が籠られてから消滅することは起きていない。しかし、この胸の不安はどうして高まるのだろうか」

その問いに、相棒のラウスが答えた。

「それは君の愛してやまない地球が関係しているんじゃないか?」

「そうかもしれない。一度滅び、生まれ変わった後、見ているが特に異変はない」

眉間にしわを寄せるアグルに、ラウスが言った。

「でも、何かが起きそう、そう言いたいのか?」

「その通りだ。正確には言えないが、怪しい気配を感じる」

「長年見守り続けている君の言うことならきっとそうなんだ。それにしても、セブン、遅いな」

「息子からの連絡で、離れてから待っているが何かあったのだろうか」

腕組みをする二人の元に、セブンが現れた。

「やっと来たか。ん?何か様子が変だ」

セブンの元から怪獣が飛び出した。その直後消滅した。

「アギラ!」

続けるようにして、他の怪獣たちも消滅した。アグルとラウスが慌ててセブンの元に急いだ。

「何が起きている!?」

「時間が無い!息子のレイも私の目の前で消滅した。ここは危険だ!離れろ!」

徐々に消滅していきながらセブンは最後に言った。

「九使徒に会え・・・」

「セブン!!」

「アグル!戻るぞ!」

アグルとラウスは宇宙船に乗り、急発進した。その後、二人は宇宙の果てで活動する九使徒を探した。


帝国

 地球の大部分を占領したのは、ゴリアテ帝国だった。帝国の全権を握る者は、グレートという男だった。グレートは、帝国直属の軍の執行官であり、自分の側近のナイルに命じた。

「ユートピア教といったか、あの不気味な集団を早いうちに片づけてほしい。」

「承知しました。それは最優先でしょうか?」

「そうだな。影響が大きくなるのだけは避けたい。」

グレートの視線の先に見える森の奥に、黒いフードを被った集団がいた。その中の一人が怪しい呪文を唱えると、他の者たちも同じように唱えた。徐々に声が大きくなり、両手を高く挙げた。その後、沈黙が続き、また一人が呪文を唱えると同じように唱えた。彼らはそれを繰り返すだけだった。しかし、帝国の支配を恐れた人々の中には、彼らに交じる者もいた。それは、帝国の絶対服従から逃れる唯一の方法だった。グレートは首を振った。

「逃げないほうがいい。帝国に任せたほうが安全だ。」

グレートは曇り空を見て、頷いた。


九使徒

 アグルとラウスは目の前の光景に驚いていた。

「何だ?この数は!」

そこには、おびただしい量の怪獣がいた。あることにラウスは気づいた。

「ん?今、あっちでは怪獣が消えた。あっちでは怪獣が増えた。一体どうなってる?」

「セブンは九使徒に会え、と言っていた」

宇宙船を近くの星に停め、二人は外に出た。二人は聞き覚えのある声を聞いた。

「うおおおお!何のこれしき!!ナンバーシックスのシードは負けん!」

声はシードのものだった。九使徒の六番手シードは、荒々しい性格だった。そのシードが三本の爪で怪獣の攻撃を防ぎ続けていた。

「何故だ?」

「見ろ!怪獣が消滅した!」

二人はシードのもとに着いた。

「これは、新入りトリオのうちのお二人さん。手伝いに来てくれたのかい?」

「状況は?」

「見ての通りだ。まあ、怪獣の奴らは俺たちが増やしたんだが、おっと!」

シードは怪獣の攻撃を避けた。怪獣は消滅した。

「この通り、怪獣よりも恐ろしいものを相手にしてるってわけだ」

「そうか。他の九使徒は?」

「アルフレア兄さんらもそれぞれ同じく戦ってる。得体のしれない敵とな」

「ありがとう。私たちも加勢する。どこに行けばいい?」

「助かるぜ。ここって言ったら兄さんらに叱られるか?」

「その時は私たちも叱られる」

二人はシードに加勢した。


脱出

 帝国の絶対服従の一つは、領地から出ないことだった。領地から出ようとした者は、その場で即死罪となった。ある民家で、友達の二人が話していた。

「本当にやるの?」

「うん。もうこんな生活は嫌なんだ。ライラもそう思うよね?」

「そうだけど、上手くいくと思えない。」

「大丈夫。この帝国兵の服を着たらバレない。」

「私はともかく、弱虫のマローにできるかしら。」

「やってみせるよ。」

その夜、二人は帝国兵の服を着て外へ出た。人通りはなかった。領地の端にある橋には、見張りの兵がいた。二人を見て、兵は言った。

「おや?もう交代か?」

マローが話せないのを見て、ライラが答えた。

「いえ、見回りに。」

兵は考えて、言った。

「そうか。ユートピア教の警戒が厳しいからか。気を付けろよ。」

二人は橋を渡ってから話した。

「緊張した…!」

「マローは何もしてないじゃない!でも、出られたわ、帝国から。これもシュンのおかげね。」

「そうだね。彼がいなかったら、この帝国兵の服は手に入らなかったから出られてない。先に出た彼を探そう。」

二人は暗い森を進んだ。


牢屋

 森の奥に来て、マローとライラは怪しい物を見つけた。

「何よ、これ!」

「これは、骨…!」

二人は驚いて、走り出した。

「はあはあ…もうダメ…」

「走れないや…」

二人は座り込んだ。そこに、近づく者がいた。

「わ!来ないで!」

「僕だよ。シュンだ。」

「シュンか。驚かせないでよ。」

二人が落ち着いた時、シュンは二人に手錠をかけた。

「どういうつもり?」

「実は、僕は本当に帝国の兵なんだ。」

「嘘をついていたの?」

「ごめん。」

シュンは瓶のフタを開けた。怪しい煙が立ち込め、二人は眠った。マローが目を覚ますと、牢屋の中だった。

「ここは、牢屋…?」

マローがぼんやりしていると、そこにグレートとナイルが来た。シュンは言った。

「これだけの人数が集まりました。」

「ほう。よくやった。」

「君たちは選ばれた。理由はただ一つ。ユートピア教に潜入してほしい。」

牢屋の中にいる一人が叫んだ。

「誰がそんなことするか!」

「威勢のいい者がいるようだ。君たちに拒否権はない。私のお気に入りになれるよう健闘を祈る。」

グレートとナイルが立ち去った。

「待て!」

「ロンド、静かにしないと出さないよ。皇帝グレート様の仰ったように、ユートピア教に潜入する。目的は、ユートピア教の崩壊だ。失敗は許されない。この意味は分かるはずだ。」

全員静かになった。


連絡

 アグルとラウスがシードに加勢してから数十時間後。

「おかげで前より楽になったぜ。」

「それならよかった。」

「怪獣を倒さないで攻撃を受けるのもしんどいなあ…。ん?連絡?」

3人は、霊界ウルトラの者たちが使う脳内での連絡を受けた。

「こちらゼウス。九使徒の諸君。任務ご苦労様。今回連絡したのは、消滅が発生した原因について調査するためだ。もし、余裕があれば、私のもとまで来てほしい。では。」

3人は顔を見合わせた。

「ゼウス様、何か思い当たることがあるのかな?」

「そうかもしれない。」

「二人が来たおかげで余裕が出た。あとは誰が行くか、だ。」

3人はまた連絡を受けた。

「こちらグッド。先ほどのゼウスの連絡の件だが、私とラックが行こうと思う。」

シードが脳内で答えた。

「兄弟か。ゼウス様の息子の二人が最初に行くのは当然だ。異論はないぜ。」

「他の者も異論なしだろうか?」

「こっちにアグルとラウスもいるが、異論はない。ゼウス様によろしく。こっちは心配ないぜ。」

「こちらアルフレオ。私、タイフーン、クェークも異論はない。ゼウス様によろしく。」

「了解。こちらはよろしく頼んだ。では。」

シードは言った。

「聞いての通りだ。今度は二人が抜ける。また状況は逆戻りだ。」

アグルが怪獣の攻撃を剣で防ぎ、言った。

「こっちは心配ない。そう言ったのは君だ、シード。」

「そうだったな。何も心配はいらねえ。このナンバーシックスことシードがいるかぎり!」

シードは力をためた。

「俺は兄弟のいた方へ行く。ここは任せたぜ。」

シードがいなくなり、アグルは言った。

「私たちはまだシードほど戦いに慣れていない。二人力を合わせよう。」

「ああ。セブンの分まで戦おう。」


移動

 牢屋から出たのは7人だった。一般人の6人と帝国兵のシュンだった。6人は軍の車に乗せられた。シュンは言った。

「僕が運転する。静かにしていてくれ。」

車が発進した。外が見えない車内で一人が言った。

「僕はクリス。よろしく。」

「俺はロンド。一つ聞いていいか。お前たちもシュンに騙されたのか?」

「ええ。私はレイピア。帝国兵の服を盗んだから良かったら一緒に逃げ出さないか、と言われたわ。」

「やっぱりか。だが、俺には分からん。なぜ直接捕らえなかったのか。」

マローは心の中で確かにと思った。クリスが答えた。

「確かに。もしかすると、僕たちを試したのかもしれない。」

マローは心の中でなるほどと思った。ロンドが言った。

「なるほど。無事逃げ出せたのが俺たちだった。残りのお前たちの名前は?」

マローはぎくりとした。ライラが言った。

「私はライラ。隣にいるのがマロー。私たちは幼なじみよ。」

「あと一人、お前は?」

全員が残りの一人を見た。

「…私は、ナタリー。」

「これで全員か。ところで、ゆーとぴあきょう、って何だ?」

クリスが答えた。

「ユートピア教…。宗教の一つさ。今生きることにつらさを感じる人たちが大勢集まっているみたい。」

「そうか。帝国はユートピア教が怖いのか。崩壊させるなんてできそうにないが、俺たちは選ばれたんだ。こうなったら何があっても生き延びるぞ。」

全員が頷いた。それからしばらくして、車が止まった。6人の乗った扉が開いた。

「さあ。行くよ。」


ユートピア教

 車が着いたのは森の奥だった。そこには大勢の黒いフードを被った者たちがいた。シュンが言った。

「彼らがユートピア教の信者だ。君たちは信者のふりをしてくれればいい。何か質問はあるかい?」

ロンドが言った。

「いろいろと心配だらけだが?」

「大丈夫。彼らは信者には優しい。食事の面も問題ないだろう。信者のふりは話を合わせて、怪しい呪文を唱えていれば大丈夫だ。」

黒いフードの者が近づいてきて、言った。

「シュン。彼らがそうなのか?」

「ガル。その通りだ。紹介しよう。彼は先に潜入していた帝国兵のガルだ。」

「これが君たちの分だ。」

ガルから受け取ったのはユートピア教の服だった。7人は着替えると、怪しい集団の中に入った。黒いフードを被り、疑う目つきで様子をうかがっている集団を見て、マローは不気味に思った。ガルが言った。

「広場の奥にいるのが教祖ビドー様だ。」

教祖がふとこちらを見た。目が合った気がしてマローはぞくりとした。教祖は怪しい呪文を唱え始めた。すると、周りの者も怪しい呪文を唱え始めた。シュンは言った。

「合わせて、といっても無理か。よく聞いて。」

全員怪しい呪文に耳を澄ませた。ガルは言った。

「この呪文は、帝国を恨む内容になっている。その中に、太陽を奪ったとある。帝国は曇天化政策を進めている。それによって作物が育ちにくかったり、憂鬱になったりする被害が出ている。しかし、彼らは知らない。人類は太陽の光を浴びると、数時間後、死に至るという“日射病”を生まれつき持っていることを。」


日射病

 マローは聞きなれない言葉に疑問に思った。

「日射病?」

ガルは答えた。

「知っているだろう。原因不明の感染症の噂。外に出ると、突然死が起こる。それは、太陽の光が原因なんだ。」

ロンドが言った。

「どういうことだ!」

大きな声に反応して、呪文が静まり、注目を浴びた。

ガルが何やら不思議な動きで合図をした。すると、再び呪文が始まった。クリスが尋ねた。

「今のは?」

シュンが答えた。

「問題ない、という合図だ。上の立場の者が使う。ガルは副教祖なんだ。」

6人は驚いた。ガルは言った。

「あまり大声は出すな。不審がるぞ。日射病について詳しいことは分からない。しかし、帝国は間違っていない。それだけ分かればいい。」

それから、呪文は休憩を取りながら、一日中続いた。集団はぞろぞろと移動を始めた。ライラが言った。

「どこへ行くの?」

シュンが答えた。

「集落さ。僕たちも行こう。」

集落には、幾つものテントが張ってあった。その中で、他より大きなテントの前でガルは不思議な動きをした。

「これは、また明日、という合図だ。」

シュンも同じ合図をした。シュンが促し、6人も真似をした。シュンが言った。

「僕たちのテントはあっちだ。」

テントの中には、他にも大勢いた。シュンが不思議な動きをした。他の者が同じ合図をした。シュンが言った。

「これは、お疲れ様、という合図だ。ちなみに、僕も幹部なんだ。今日はゆっくり休んでほしい。明日、任務を遂行する。」

寝袋に入りながら、マローは明日の事を考えていた。


真犯人

 グッドとラックは、ゼウスのもとに着いた。ゼウスは言った。

「よく来た。早速だが、ここにある聖杯に手を当ててくれ。」

グッドは尋ねた。

「何のためでしょうか?」

「手を当ててみれば答えが出よう。」

グッドは頷き、聖杯に手を当てた。しかし、何も起こらなかった。ゼウスは言った。

「うむ。グッドは問題ない。続いて、ラック、手を当てたまえ。」

ラックは言った。

「何故か分からないが、俺たちは任務がある。早く済ませるか。」

ラックが聖杯に手を当てた。すると、聖杯は光り点滅した。ゼウスは言った。

「うーむ。ラック。問題ありだ。」

ラックが答えた。

「何のことだ!俺は何もしていない!」

ゼウスは言った。

「元地球人との闘技大会。あの後、与えた力を回収した。その時、回収しきれなかった者が此度の消滅の原因だと私は考える。」

ラックは聖杯から手を離した。

「まさか。俺のせいで、ハデスが…」

「ラック。任務を与える。その者を見つけ出せ。私がその者を割り出した写真を渡す。」

ゼウスはラックに写真を渡した。

「分かった。行ってくる。兄さんは任務に戻っていてくれ。」

ラックは地球に向かった。ゼウスは言った。

「これで解決に近づいた。」

ラックは途中で月に異変を感じた。

「これは、消滅だ。だが、広がっていない。何かが抑えているようだ。これは、セブンのブーメラン。周りには、霊界の天使の群れ。セブンの遺志を感じる。俺も任務を果たす。」

ラックは地球に降り立ち、任務を開始した。


ゴールド家

 “ゴールド家”。それは、世界一の貴族の呼び名だった。所有する建物はすべて金色に統一されていた。世界に買えないものはなかった。お金の使い道として、ほとんど世界平和のために使われた。例として、国同士の戦争をお金で鎮めたことがあった。帝国の資金提供はほぼゴールド家が占めており、ゴールド家は帝国の一部といえた。グレートは、ゴールド家の代表者、マリに連絡した。

「お世話になっております。ユートピア教が爆弾を購入したのは間違いないですか?」

「ええ。ゴールド家が所有する武器倉庫から買われました。あれを使用すれば、帝国どころか地球が無事ではないでしょう。」

「そうですか。ゴールド家からの資金提供も断り、武器を手にしたなら、私たちと戦うとみて間違いない。それほど私たちが憎いのでしょうか?」

「そうではなく、自分たちを守ろうとしているのでしょう。」

「なるほど。確かに帝国は自由を奪った。自由はお金より大事だということか。そうだとしても、見過ごすことはできない。」

「お客のようです。失礼いたします。」

「では、失礼します。」

ゴールド家のメイドがマリに言った。

「ただいま、人探しの者が来て、この写真の者を知らないか尋ねられました。」

「知らないわ。念のために、グレートさんにも送りましょう。その方に待ってもらって。」

「はい。」

ナイルがグレートに言った。

「ただいま、マリ様からこちらの写真の者に心当たりがないか連絡を受けました。」

「この者は、ユートピア教の潜入任務中の一人じゃないか。」

メイドはマリに言った。

「返答を承りました。ご存じのようでした。」

「では、その事を伝えて。」

「はい。」

メイドが写真を手渡しながら言った。

「この方は、ユートピア教の本拠地にいるそうでございます。」

「ありがとう。助かった。」

ラックはユートピア教の本拠地に向かった。


発火

 ガルは起きると、グレートに連絡を入れた。

「おはようございます。」

「いよいよ作戦決行日だ。またユートピア教の設立記念日でもある。世界中の教徒が集まる。」

「はい。もうすでに数十万の信者が集まり、森を埋め尽くしています。」

「そうか。教祖ビドーが挨拶をする時がその時だ。そして、すべてが終わる。」

「始まった日に終わるわけですね。」

「それを終わらせるのは君だ。健闘を祈る。」

ガルは電話を切ると、決意の表情でビドーのもとへ向かった。ビドーはガルに言った。

「遅いぞ。」

「申し訳ございません。念のため、天気の確認をしておりました。」

「雨が降るかどうか全く分からないものな。帝国の雲のせいで。挨拶では、それに奪われたものを伝えたいと思う。」

ビドーは、木で組まれた高台に上がり、話し始めた。マロー他5人は、他の信者と共に話を聞いていた。マローが言った。

「シュンは、何もせず見てればいいと言っていたけど、何か起きるのかな?」

ライラが言った。

「分からない。でも、何か起きるのは間違いなさそう。」

クリスが言った。

「教祖のそばに、武装した信者もいる。帝国の攻撃を警戒しているんだ。」

レイピアが言った。

「あの教祖の命は今日までね。」

ロンドが言った。

「側近と信じた者に殺されるのか。悪くはない。」

ビドーが帝国の話に入った。

「これだけ多くの信者が集まる理由はただ一つです。帝国が奪った自由を取り戻すためです。帝国が奪ったものはもう一つあります。太陽です。それにより、作物が育たない、憂鬱な気分になるという二つが挙げられます。この二つだけでも非常に甚大な被害です。しかし、帝国は変えようとしません。なぜなら、支配を続けるためです。太陽を奪うことで、我々の心身に甚大な被害を与え、支配しているのです。帝国は強いです。しかし、諦めてはいけません。我々は信じましょう。自由な楽園、ユートピアを。」

その時、ビドーの頭上だけに雲間から光が差した。それを見た信者たちは、後光が差した、と騒ぎになった。しかし、その直後、ビドーは全身が燃え出した。


発射

 その後、ビドーは焼死した。悲しむ信者たちの前で、ガルが言った。

「今見たものが真実だ!我々は太陽の光を浴びると燃えて死ぬ、言わば日陰族だ!そのことを帝国は発見し、曇天化政策を進めた。我々は帝国に守られていた。それを知ってもまだユートピアを信じて帝国に抵抗するのか!抵抗しない者はその場に座りたまえ!」

信者たちの半分は座った。しかし、半分は立っていた。その中にシュンがいた。マローが言った。

「シュン、どうしてあそこに?」

シュンは一歩ずつガルのもとに進んだ。ガルは言った。

「帝国はユートピア教を壊滅する決定をした。抵抗するものは、教祖と同じ結末になる。それでも抵抗するか!」

シュンは駆け出すと、一瞬でガルのもとに着いた。シュンはガルの持つコントローラーを蹴って奪った。ガルは、シュンが構える銃で身動きできなかった。

「何の真似だ。シュン。」

「僕は、二重スパイだったんだ。ユートピア教は、この怪盗ミラーがいただく。」

シュンはテントの方に駆け出した。ガルはそのあとを追った。さらに、信者たちも後を追った。シュンは瞬足でテントに着くと、爆弾の装置を手に取った。直後、ガルが現れて言った。

「そうはさせない!」

ガルはシュンの持つ装置を蹴り上げた。飛んだ装置をガルが掴んだ。しかし、シュンは予想して再び蹴り上げた。ガルとシュンはつかみ合いになった。

「シュン!正気か!爆弾を起動すれば多くの犠牲が出るぞ!」

「承知の上だ!僕は孤児院で育った。帝国に家族を奪われた仕返しをするんだ!君がユートピア教に家族を奪われた仕返しをしたように!」

「そうだ。親は信者の誘いで太陽の光を見に行って死んだ。俺はそれを止めたのに。だが、シュンのしようとしていることは大量殺人だ!」

ガルは銃を撃った。シュンも銃を撃った。倒れたのはガルだった。シュンが言った。

「すまない。」

テントの外で一部始終を信者たちは見ていた。その先頭にマロー他5人がいた。ライラが言った。

「私も孤児院で育った。だから、辛い気持ちはわかるわ。」

その時、爆弾を搭載したロケットが発射した。

「そんな…」

ロケットは凄まじい速度でゴールド家の屋敷に着弾した。凄まじい爆発が起きた。ラックもそれに飲み込まれた。

「なんてこった。足が折れてやがる。俺としたことが油断したぜ。それにしても金ピカの建物が真っ赤に燃えている。これが崩壊か。」

その時、空が割れたのをラックは見た。

「おや?あれは消滅の前兆。いよいよこの星にまで来たか。」

木が消滅していき、徐々に近づいてきた。見えないものがラックに迫った。それをグッドが救った。

「兄さん。来たのか。」

「ゼウスが行けと言った。分からず屋のラックは一人で行くから後を追ってきた。」

「死ぬときは一緒というわけか。引き分け屋の兄さんらしい。」

「まだ死なない。」

グッドは、目を閉じ、地面に手を当てた。無限に増殖する木に消滅は足止めされた。

「今のうちだ。」

二人が向かい始めたとき、地震が発生した。


断罪者

 セブンは生死の境を彷徨っていた。このままではいけない、と内なる声が聞こえ、目を覚ました。

「レイ!いたら返事をしてくれ!レイ!!」

そこはどこまでも続く真っ白な空間だった。彷徨っていると、空間が歪み、人の姿の黒い影が現れた。セブンは言った。

「誰だ!」

影は答えた。

「我は断罪者。宇宙の乱れを正す役目を担う者である。我に触れたにもかかわらず、死を受け入れない者を断罪しに来た。」

「私のことだな。ということは、レイを奪ったのは貴様ということか。」

「如何にも。」

「何故だ!一体レイが何をした!」

「我は断罪者。宇宙の乱れを発見次第、新たな宇宙を構築する為現在の宇宙を消滅させる。其即ち、断罪である。」

「話が通じない相手だな。」

「話など不要である。我は断罪者。すべてに導きを与えん。」

影がセブンに触れようと迫った。その動きは遅く、セブンが横にずれるだけでよけられた。影は言った。

「この空間は生きるエネルギーが溢れている。その原因となる者を探し出さなくてはならぬ。」

影は無数になり、四方へ散った。セブンも影を追った。

「発見した。この空間の創造者よ。」

「そうはさせん!」

セブンが両手から光線を弾のように放った。

「大丈夫か!アギラ!」

アギラと呼ばれた怪獣は嬉しそうに跳ねた。

「底知れぬ聖物質の波動を感じる。」

「アギラはアナスタシア様の聖物質から生まれた。当然のことだ。」

影は集合し、蛇の形に変化した。

「この空間こそ現在最大の乱れである。我の力を削ろうとも消滅させん。」

セブンの光線を受けても、影はすぐに再生した。押しつぶされるとき、現れた怪獣がビームを放ち、押し返した。

「ウインダム!よくやった!」

「機械ごとき…」

「ウインダムはかつて存在した宇宙人の最新型だ。普通の機械ではない!」

別方向から迫った影をもう一機が押し返した。

「俺モイルゾ!」

「ジョー!そうだったな。」

「シカシ、燃焼切レダ…もう一度来タラ…」

影は二度も押し返され、更なる力を高めた。

「すべてに導きを!!」

「そこにいるのは、ミクラス!優しい心を持った戦士よ。私と共に戦え!」

セブンとミクラスは、アギラの力で、全身に聖物質を纏った。

「あの竜を倒して、ここを出る!!」

激しい衝撃により、影が消失した。同時に、セブンと仲間たちは意識を失った。


伝説の剣

 宇宙の果てで戦う九使徒は消滅が弱まったことに気付いた。それを受けて、行動を開始した。アルフレオ、クェーク、タイフーンの3人は、霊界ウルトラに戻った。シードは念のためにその場に残った。アグルとラウスの2人は、地球に向かい、その途中、月に異変を感じ、立ち寄った。地面にブーメランが突き刺さっていた。アグルが言った。

「セブンのものだ。まだ熱がある。」

ラウスが言った。

「それはつまり、テンシの力を使っていたことを意味している。ここで、消滅を食い止めてたんだな。」

アグルはブーメランを抜き、腰に携えた。

「地球で何か起きようとしている。」

「グッドとラックが先に向かったが、いまだ連絡がない。消滅は弱まったが、完全に収まっていない。何か他の原因があるはずだ。」

「それを突き止めるためにも行こう。」

「ああ。」

2人は、地上に降り立った。そこには黒い煙を上げる焼け跡があった。

「もともと大きな建物だったようだ。」

「アグル!こっちに来てくれ。」

ラウスのそばに大きな地割れがあった。

「これは、地震の跡か。それもかなり大きい。」

「そうじゃなくて、この写真だ。」

「これは…まさかゼウス様が見つけた元地球人の写真か?」

「そうだろうな。」

「ということは、兄弟はこの中に落ちたということか。」

「おいおい、地球人ならまだしも、霊界ウルトラの九使徒だぜ?普通に考えたら、落ちたとは思えないぞ。」

アグルは顎に手を当てて考えた。

「おそらく、普通ではないことが起きた。やはり何かが地球で起きようとしている。」

「アグル!誰か来る!」

2人は身を潜めた。現れた数人が話した。

「そっちはどうだ?」

「見つかりません!」

「もう一度よく探すんだ!ゴールド家の所有する伝説の剣、アブソリュート=スィンは名誉ある7つの武器だ!奇跡を起こすと言われる剣を何としても見つけ出せ!」

「はい!」

2人は耳を澄ましていた。ラウスは言った。

「アグル、こっちに来てくれ。」

「これは、剣じゃないか。」

「まさか、さっきの話の剣か。折角だから、貰っておこう。」

ラウスは剣を腰に携えた。

「結構重いな。」

「ラウス、写真があったことはこの近くにこの人物がいる可能性がある。急ごう。」

「ああ。」

2人は森の方へ向かった。


獣化

 森にいる人々は山の向こうに立ち昇る煙を見ていた。すると、山から大群の鳥が飛び立った。大群の鳥は四方へ別れ、その内の一羽がこちらに飛んできた。鳥は突如大きくなり、森にいる人々を襲い始めた。その人々の中の一部の人は苦しみ出し、狼のような外見になり、凶暴化した。あたりは逃げ惑う人々で騒然とした。マロー他5人もその場から離れようと走った。6人は人影のない場所まで来ると休んだ。ライラが言った。

「もう限界…急に何が起きたの?」

クリスが言った。

「分からないけど、小説のような出来事が起きて、かなり危険というのは事実だ。」

ロンドが言った。

「帝国の奴隷になったと思ったら、帝国の奴らが仲間割れした。そう思ったら、人が獣になって襲われるだと!どうなってんだ!」

レイピアが言った。

「ナタリー?どうしたの?震えてるわよ。」

ナタリーが言った。

「…怖い。」

マローが言った。

「何が怖いの?自分が獣になるかもしれないこと?」

「…違う。わたしは動物が好き。それよりもっと…ああ!」

「ナタリー!」

「追おう」

5人はナタリーを追った。ロンドが言った。

「あいついねえぞ。なんだか足が速くなってねえか!?」

ライラが言った。

「まさか…ナタリーはもう…あ、あそこ!」

複数の獣に囲まれたナタリーがいた。ナタリーが言った。

「わたしはここでお別れ。かれらと生きる。」

ナタリーは足から徐々に変化し、白い獣になった。マローが言った。

「ナタリー…きれいだ。」

周りにいた翼の生えたライオンや大きな翼の鳥、子犬ほどの大きさの虎がマローらに近づいてきた。マローらが後ずさりした。その時、周囲の木々が変化し、四方からツルが伸びてきた。そのツルを獣たちが防いだ。白い獣が舞うようにツルを防いだ。そして、首を動かして合図した。マロー他4人はその場から逃げるしかなかった。その頃、アグルとラウスは巨大な樹と交戦していた。ラウスが言った。

「他のより強いぞ!」

アグルが言った。

「この樹から聖物質を感じる。おそらく兄弟が消滅を防ぐとき作り出した樹だろう。」

「そうか。このアブソリュートなんとかで弔ってみせる!」

ラウスがツルを斬り、中心部分に差し掛かると、ふいうちで捕まった。そこをアグルが剣に変化した腕で止めを刺した。

「油断するな。」

「すまない。」

二人は森の奥に進んだ。


事件

 同じことが帝国内でも起きていた。ある劇団が劇を行うステージでは歓声が悲鳴に変わった。

「落ち着いてください。みなさん、どうか落ち着いてください。」

「サイモン。俺に任せて。」

「ピヨ丸。わかった。」

「『生きろ。生きてこそ意味がある。武器を取り戦うんだ。心の中の武器を!』」

ある合奏団でも同じだった。

「みなさん、落ち着いて。」

「僕に任せてくれないか。」

「ギルバート。わかった。」

「指揮者はいなくなった。何人か演奏者もいなくなった。それでも残った僕らで演奏を続ける。僕に合わせてほしい。」

それぞれの場所で最後まで戦い抜いた者たちがいた。ある屋敷にいた探偵とその仲間たちは戦っていた。

「どうした!」

「おかしい。頭の中に声が聞こえるんだ。うっ、また…」

「何て言っている?」

「『すべてに等しく導きを』…あああ!!」

銃声が響いた。

「何事だ!」

「ホークスさん…逃げてください…」

探偵は階段を駆け下りた。

「これは、自殺…?突然、なぜ?」

屋敷に獣が扉を破り入ってきた。

「ホークスさん!ここは俺が!」

「だが」

「ホークスさんのために死ねるなら本望です!」

「行くぞ!ワシスン!」

探偵と助手は町の中心部まで走った。

「あちこちで被害が出ているようだ。」

「…危ない!」

助手は探偵を庇った。

「ワシスン!息がない。飛んできた瓦礫による打撲の跡。あれは!」

探偵が見たのは屋敷より大きく巨大化した人間だった。その巨人はわけもわからず物を投げていた。探偵は逃げ遅れた子供を見つけた。

「君、危ない。早くこっちへ!親は?」

「はぐれた。探偵に会いに来たのに…」

「私が探偵だ。」

「ほんとう?いつか探偵になるのが夢なんだ。」

「そうか。きっとなれる。私が保証しよう。」

探偵は帽子を子供にかぶせた。

「やった!」

「とにかく生きるんだ。じゃあな。」

探偵は子供の背中を押した。そして、子供がいなくなると、静かに倒れた。

「…難事件に巻き込まれた。」


反旗

 帝国兵たちは獣化が起きたことの対応に追われていた。

「アルモンド兵士長!報告いたします。第3区画への隔離が成功しました。」

「いつ同じことが起きるとも分からない。警戒を怠るな!」

「兵士長!新たな被害者が第4区画に出現しました!」

「第4区画、ここじゃないか。どこだ?」

兵士長が見たのは同じ故郷出身の者の変わり果てた姿だった。

「ポンペイ中将…」

兵士長は剣を抜き、立ち向かった。凶暴な歯で剣を噛まれ、後ろに倒れた。

「ポンペイ、許せ!」

横から現れた者が兵士長を救った。

「ピーナッツ中将、助かりました!」

「案ずるな。私も助けられた。」

「どういうことですか?」

「ポンペイは実は帝国に反旗を翻そうとしていた。この機に乗じて、それを実行に移そうとした。当然、私は止めようとし、剣を抜いた。私は押されていたんだ。その時、ポンペイは苦しみ出した。」

「そうですか。とにかくご無事で何よりです。」

「もう君しか頼る者はいない。共に生き残ろう。」

「はい!」

他にも帝国へ反旗を翻す者たちがいた。

「君、何をしているかわかっているのかね?」

「当然です。今まで生きた心地がしなかった。最後の時くらい解放されたいのですよ。」

「ならば、我ら“近衛衆”が全力で相手をしよう。」

「望むところです!」

その者は無音で相手の後ろに回り込む技を得意とした。

「さすが、暗殺部隊長タチェット。その技で今まで独立する国々を統一させてきたのだろう。感謝する。しかし、反旗を翻すことは予想された。その技も対策済みなのだよ。大人しく捕まるんだ。」

「そうはいきません。」

「何!」

そこに倒された他の近衛衆と暗殺部隊員が入ってきた。

「情熱的な暗殺を!」

「なめらかな暗殺を」

「礼儀を込めて気絶させていただきました。」

そこへ近衛衆筆頭が駆け付けた。

「ナイルさん、総司令官様のそばへいなくていいのですか?」

「グレート様の命令だ。邪魔者を排除せよ、と。」

そこに入ってきた者によって暗殺部隊員が殺された。

「獣!」

「我、の名は、ボル、ボ・ロ、ア。」

「ボルボ・ロア。聞いたことがある。裏社会の何でも屋、受けた依頼を何でもこなす、と。」

「一時休戦です。まず、同僚の仇を取らせて頂きます。“背浪拳(はいろうけん)”」

暴れ狂う獣はタイミングよく背中を向き、打撃を加えた。

「油断した…最大の敵は自分自身か」

残るは近衛衆と獣となった。

「ルシナンテ。倒れたヒヨウを守るぞ。」

「帝国の栄光のために。」

暴れ狂う獣は力をためた。

「4は、死、と志、必、ず、任務を、遂行す、る」

近衛衆の二人は暴れ狂う獣の突進を受け流し、斬り伏せた。


洗脳

 ユートピア教の本拠地がある森の状況はより深刻になっていた。獣化、巨大化のほかに自分の意志ではない行動をしてしまう洗脳が起きていた。レイピアが言った。

「ローザンヌ。どうしてあなたと戦わなくてはならないの。折角再会できたのに。」

レイピアは自分の首を絞める手を解いた。ローザンヌは言った。

「わたしもこんな事したくない。…いや、こうしたかったのかもしれない。憧れのあなたと戦う事を。」

ローザンヌは一本の槍を投げた。レイピアは受け取り、言った。

「これは、バステトランス。故郷の最強の戦士に贈られる槍。どうして?」

ローザンヌはもう一本の槍で攻撃しながら言った。

「それは私のものよ。あなたのは?」

レイピアは攻撃を受け流しながら言った。

「帝国に没収されたわ。それより、強くなったわね。動きにキレがある。」

「私は必死だった。あなたという目標に追いつくために!」

ローザンヌはすべて急所を狙った。しかし、レイピアは舞うように受け流した。そして、レイピアの目の色が変わった。

「まずい。私もおかしい。ローザンヌ、逃げて。」

「出来ないことわかってるでしょ?」

「そうね。じゃあ、言うわ。これは摸擬戦じゃない。本気で来ないと死ぬわよ!」

「それはお互い様よ!」

激しい攻防の隙を突き、レイピアが勝った。

「やっぱりあなたは強いわ…」

「ローザンヌ、あなたも強かったわ。」

レイピアは離れた位置にいたマロー他4人を見ると走り出した。

「逃げて!」

マローらよりレイピアの方が速く、間に合わないと思われた。そこに槍を持つ女性がもう一人現れた。レイピアが言った。

「それは7つの武器、グングニル。夢に見た武器が見れてよかった。」

レイピアは一突きを受けて、倒れた。マローが言った。

「レイピア…あなたは?」

「私はパキラ。ここは今世界一危険地帯よ。何故なら、最強と自称する獣がいるからよ。私と仲間たちはその獣を追ってきたの。あら、ちょうどいたわ。」

霧の奥から人型の獣が見えた。


融合

 爆音を響かせてロボットが一機現れた。ロボットが人型の獣の拳を受け止め、言った。

「パキラ!待たせたな!」

ロボットの頭がパカッと開き、リンクの顔が現れた。リンクはパキラを見て微笑んでいると、人型の獣の拳を受け吹き飛んだ。人型の獣は続けて畳みかけようと瞬間移動した。そこに部族が現れ、電撃を放った。電撃を防ぎ、人型の獣は引いた。部族は言った。

「リンク!大丈夫?」

「ハヤテ。助かった。オーパーツを搭載したこの“オメガン”スーツを着た俺は無敵だ。ちょっと油断した。」

「リンク、前!」

人型の獣は突っ込んできた。リンクは獣の上に引っ付いた。人型の獣は振り落とそうと上空へ高く跳んだ。直後、光が発し、凄い勢いを上げ落下した。リンクはゆっくりと着地し、言った。

「ほら、無敵だ。」

マロー他3人はその様子を呆然と見ていた。ロンドが言った。

「かっこいい!あんなに強え人、初めて見た!やっと見つけたぞ、親父。あの人が俺の師匠だ。」

クリスが言った。

「待って。危ないよ!」

クリスがロンドの手を握った。その時、異変が起きた。ライラが言った。

「うそよ、こんなの。二人が半分ずつ一人になってる…」

パキラが構えて、言った。

「何事!」

クリス&ロンドは叫んだ。

「どうなってるんだ!」

クリス&ロンドはパキラの槍を掴み、折った。クリス&ロンドは自分たちの力に驚いていた。

「すごい力だ。」

「俺はリンク師匠のところへ行きたいんだ。」

クリス&ロンドは引きずるように移動した。パキラはハヤテに言った。

「あれは怪物よ!危険が及ぶ前に倒すのよ。」

「了解!」

マローが言った。

「待って…」

その時、人型の獣から波動が放たれ、誰も動けなかった。リンクは言った。

「ついに、本気を出したか!ウォーリー博士の最高傑作VS最強の獣“オーマ”の決着をつける!最大出力、発射!」

リンクはレバーを引いた。ビームが人型の獣に命中した。しかし、人型の獣は同じ姿で立ち、リンクを地面に押し付けた。部族も含めて誰もが諦めかけた。そこへアグルとラウスが来た。


最強の獣

 アグルとラウスはここに来るまで様子を見ていた。人型の獣が普通でないことから二人は全力を出すことにした。二人は言った。

「合体!アグラウス!」

パキラが言った。

「また融合した!」

ハヤテが言った。

「でも、あの二人は違う。」

人型の獣の波動をアグラウスは片手で防いだ。腰に携えた剣に手を置いた。

「居合“アブソリュートカッター”!」

剣から波動が放たれた。人型の獣は瞬間移動で躱した。腰のブーメランを持った。

「セブン、力を貸してくれ!」

ブーメランは人型の獣を追いかけ続けた。人型の獣はブーメランを掴んだ。ブーメランを投げ返そうと手を振った。一瞬、ブーメランが光った。投げられたブーメランはアグラウスに命中した。クリス&ロンドが言った。

「そんな…」

リンクが言った。

「いや、まだだ。」

セブンは意識を失っていたが、まだ力が残っていた。そして、ブーメランを通して戻ってきた。

「三人合体!アグラウセブン!」

アグラウセブンは剣に力を込めた。そして、頭上高く掲げた剣を振り下ろした。

「シン・アブソリュートカッター!」

人型の獣は命中して地面に落ちた。リンクが言った。

「やったのか!?」

注目していた人たちは目を疑った。クリス&ロンドが言った。

「嘘だろ…増えた!?」

人型の獣は3体になっていた。3体はアグラウセブンを囲んだ。アグラウセブンは光線を撃つ構えを取った。

「絶対破壊光線(アブソリュートクァンタムストリーム)!」

高速回転をしながら光線を撃つことで3体に同時に命中した。人型の獣はダメージを受け、3方向に逃げた。アグラウセブンはアグルとラウスとセブンに戻った。アグルは言った。

「このまま見過ごすことはできない。手分けして倒そう。」

ラウスは言った。

「そうしよう。セブン、よく戻った。」

セブンは言った。

「また生きて話そう。」

3人が飛び立った。リンクが言った。

「彼らは何者だったんだろう。」

クリス&ロンドが言った。

「一体誰だったんでしょう。ん?危ねえ!」

クリス&ロンドは飛んできた槍を避けた。パキラは槍を引き抜き、クリス&ロンドに突き刺そうとしたが、マローが叫んで止まった。

「待ってください!」

パキラが言った。

「何故止める?さっきの者たちもこの者たちもやはり危険だわ。今すぐ排除しなくては。」

「二人は何もしてない。」

「何かしてからでは遅い!」

「それでも信じたいです!」

クリス&ロンドが苦しみ出した。マローが言った。

「そんな…」

パキラが言った。

「私はまだ何も…うっ、これは毒の霧だ!」

あたりは紫の霧に覆われた。


奇石

 獣も巨人もすべて等しく死んだ。一部の人たちは例外だった。リンクは言った。

「ついにオーパーツの力のお披露目だ!」

リンクが着たスーツに仕込まれた“奇石”が光り輝き、紫の霧を晴らした。クリス&ロンドが言った。

「すごい!もう苦しくない。」

安心したのも束の間、洪水のように大量の水が流れてきた。マローが言った。

「溺れる…」

上空をグライダーで飛ぶシュンが言った。

「高い所へ移動するんだ!」

マローは必死に高い所へ向かって泳いだ。パキラは流されていた。クリス&ロンドが手を差し伸べた。あまりの流れの速さでうまく泳げなかったが、“奇石”が光り輝き、地上へ上がることができた。パキラが言った。

「かたじけない。助かった。」

クリス&ロンドが言った。

「いえいえ。困った時はお互い様だ。」

マローが言った。

「信じてもらえましたか?」

パキラは頷いた。ライラが言った。

「どうして次々と起こるの?もう滅亡が近いのかしら。」

そこへ凄い速さで剣が飛んできた。クリス&ロンドが飛び込み、腹で受け止めた。

「リンク師匠、逃げてください…」

クリス&ロンドが剣を粉々にして、倒れた。リンクが言った。

「間違いなくいい弟子だった!」

剣は一本だけではなかった。すべてリンクを狙っていた。リンクは走った。しかし、剣は部族の電撃を受けても止まらず“奇石”とともにリンクを貫いた。

「…命を救う石で命を落とすことになるとは、おもしろい。」

その時、電撃により森の木々が燃え出した。ライラが言った。

「今度は火事なの!」

ライラはマローの手を握った。ライラの手は震えていた。マローは強く願った。その時、マローが光り輝き、火が収まっていった。ライラが言った。

「すごいわ!マローは奇石と同じ力があるの?まさに奇跡ね!」

パキラが言った。

「水の勢いが増しているわ。行くわよ。」

そこに剣の群れが飛んできた。マローを次々と剣が貫いた。

「…僕は不運だから、こうなるのも仕方ない。」

ライラが泣くのをパキラたちは見ていた。


 帝国の総指令室に総司令官と近衛衆がいた。ルシナンテが言った。

「水の量が増しています。このままでは曇天化の装置の故障も目前です。」

ナイルが言った。

「それよりも沈没するのが早いと思われます。」

グレートが言った。

「いずれにせよ、地球は得体のしれないものによって滅亡間近というわけだ。」

その時、天井が燃え、穴が開いた。ルシナンテとナイルはグレートを庇った。

「ここまでか。悪い夢だ。」

地球上のものがすべて等しく燃えた。たった一人は例外だった。マローは言った。

「…熱い。あれ?ここはどこだ!?」

アグルが言った。

「君はそうやって何度も死んで生き返っていたのか。私たちの霊界ウルトラの力を使って。」

マローが言った。

「あなたは?なんで火事が起きているのですか?」

アグルが言った。

「説明は後だ。ついて来てもらおう。」

アグルは巨大化しマローを手に包み、霊界ウルトラに向かった。ゼウスは言った。

「アグルよ。よく連れてきてくれた。彼こそ回収しきれなかった力を持つものだ。さあ、今こそ力を返したまえ。」

アグルは手を差し出した。マローは手を置いた。アグルが言った。

「そうか。君は前の地球の生き残り、シンメンタケゾウの親戚か。悪運が強いのは似ている。」

マローが言った。

「シンメンタケゾウ?」

アグルが言った。

「君はすでに千年生きている。千年前にいた人間だ。」

ゼウスが言った。

「これで一件落着か。ミズーリオに頼んで、やり直せばいい。」

そこに影が現れ、言った。

「本当にそれでいいのか?」

影はとてつもない勢いで吸い込もうとした。霊界ウルトラの人々は影から離れた。影は巨大な竜の頭の形になり、言った。

「我は“神龍”。すべて等しく導きを与えん。」

ゼウスが言った。

「何故だ。宇宙の乱れを正したはずなのに。私たちや地球に生きた者たちは無駄だったのか!」

地球から一人の戦士が現れた。アグルが言った。

「あなたは、宇宙の危機に現れるという伝説の戦士ですか?」

戦士が言った。

「そうだ。地球の者たちが弱い生き物だった。しかし、支えあう姿は尊敬でき、私は好きだった。」

神龍が言った。

「“やり直し”では再び同じ運命を辿る。一度滅ぼし“再生”することを望まん。創造主、ガイアよ。賛同するだろう?」

ガイアが言った。

「賛同しよう。但し、一つ頼みたい。ゼウスらの意志を尊重したい。」

神龍が言った。

「どうする?」

ガイアが言った。

「お互いすべての力を出し切り、ぶつけ合う。」

神龍は頷いた。その後、力と力がぶつかり、激しい爆発が起きた。そして、あらゆる可能性が生まれた。

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崩壊 ソードメニー @sordmany

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