本章
朝、誰かがどこかを叩く音で目が覚めた。僕は、またかと思い、カーテンを開けると
「優、オッハー!今日もいい天気だね」
と最後に、にこにこマークでもつきそうな調子で挨拶してきた。
こいつの名前は、北村笑愛。僕と同じ高校で、しかもクラスも一緒なのだ。付け加えるならとんでもないスポ根なやつで、クラスマッチ等ではけっこう活躍して周りから注目されていると同時に、悪魔として恐れられている。ちなみに、朝の出来事は、あいつが最近ハマっている僕に対するイタズラだ。
「このイタズラするの何回目だと思う?やめてくれないかな」
「ん〜、3回?」
「いや、もっとやってるよ!こんなことして何が楽しいの?」
「あっ、そういえば今から走りに行こうと思うから君もついてこい!」
「途中で話をそらすな。後、命令口調をやめろ」
と、言い終わらないうちにサッと窓を閉められた。一応行かないという選択肢もあったが、そのあとが怖いので、しぶしぶジャージに着替えてから玄関を開けると、彼女がすでに立っていた。相変わらず準備の早い奴だ。僕が自転車を取りだし乗ろうとしたら、
「なんで自転車に乗ろうとするの?私は君と走る気満々できたんだけど?」
「いや、ひとつ言わせて。そう勝手に思い込むな!あと僕は走らないからな」
と、僕は言い終わるか終わらないかのところで自転車にまたがりこぎだした。彼女は悔しかったのか頬をふくらませながら隣に並んできた。僕はいつも彼女にやられてばっかなのでこういう時は、してやったりと思えて楽しくなる。まぁ、あっちもあっちでイタズラをしてくるので、これでおあいこだろう。そんなことを考えながら振り返ってみたら、彼女はのんびり歩いていた。僕は、びっくりしてそこまで一気に戻り
「おい!走るんじゃなかったのか」
「ん?走るのがめんどくさい」
「清々しく言われても、こっちが困る。そう言ったんなら、最後まで走れ!」
「あっ、そういえば、さっきまで調子こいてたでしょ」
「なわけないでしょ。好きなアニメのことを考えていただけ」
「まぁいっか」
彼女のこういったあっけらかんとしている性格は、僕にとってけっこう救いだったりする。でも、少し疑われているような気がするが……。その後、他愛もない会話をしながら家まで戻り、朝食を食べ制服に着替えてから通学路を歩いていた。すると、肩を叩かれたので誰だろうと思い振り返ろうとすると頬に指が当たった。彼女だった。
「何してんの?」
「いやー、君を見つけたからやっただけ」
「だからってするな!あと、イタズラはやめてお願いだから」
でも即答で
「無理」
と、返ってきた。
「なんで無理なの?理由を言って現に僕は困っているんだから」
すると彼女は困ったような難しい顔になったが、すぐにいつもの笑顔に戻り、
「えっ?単に君の反応がおもしろいからに決まってるじゃん」
「………」
「あっ、もしかしておこっちゃたかな?ならごめんねー。へへへー」
「それ、僕に対して謝るつもりなんてないよね?」
「あ……、ばれた……」
「ばれたじゃねえよ!」
内心「うざい」と思いながら、一緒に歩いていた。けど、はやく自分の席で小説をから歩くのが早くなってしまう。そんな僕において行かれないように最初はついてきていたが、学校に着く頃には、後ろにはいなかった。多分途中で友達でもみつけて一緒に来ているんだろう。学校に到着し、やっと落ち着くことが出来ると思ったが彼女が
「オッハー」という挨拶でクラスに入ってきた
「げっ」
「げっ、とはなによ」
「ごめん。でも、本を読んで落ち着こうと思ったところに君がクラスに入ってきたことにびっくりしただけだよ」
「失礼な!私は本を読んでいる君を邪魔したことある?」
「今のところ、3回はある」
「ふーん。そうなんだ。あっ、そんなことより今週の土曜日にカラオケに行くから、君もついてこい」
「朝も言ったけど、なんで命令口調なの?」
「それじゃぁ、約束だからね!」
「無視するな!」
けど断ろうとすると、そそくさとどっかに行ってしまった。その後も断ろうとするが、どうしても連れていきたいのか僕を避けてきたので、なかなか断れず結局諦めてカラオケに行くことになった。そして土曜日になった。
「あっ、来てくれたんだ」
「諦めたんだよ。だって君が僕を避けるから断るタイミングが無かったんだよ!だから諦めた」
「よし!計画通り」
「なんでだよ!」
で、カラオケはというと彼女は主に、アイドルグループなど、僕の知らない歌ばかり歌っていた。点数は80点台だった。僕はというと、ちょこちょこアニソンを歌っていた。でも心なしか彼女が少しひいていたような気がした。僕は、途中でイタズラをされるのではないかと思い、身構えていたが彼女は歌うことに熱中していてそれどころではないらしい。
「あー疲れた。今度はなにしようかなぁ」
「そうだね。僕は本屋に行きたいね」
「えー、本はつまらないじゃん!」
「ならいいよ。一人で行くから」
が、結局彼女はついてきた。僕は、1冊手に取り読み始めた。そして、気が付くと1時間が経っていた。その本をレジに持っていき、購入した。そして店を出ようとしたら「待ってよー」という彼女の声に気が付いて存在を思い出した。
「ごめん。きみの存在を忘れていたわ」
「ひどい!この私のことを忘れるなんて。あっも
しかして私の影、薄いのかな?」
「なわけねぇよ。お前は存在感がありすぎなんだよ!僕と違って」
「えっ?そう!」
彼女の落ち込んだ表情が一瞬にして明るくなった。僕は買った本をバックにしまい一緒に帰路に着いた。
そして月曜、クラスでウトウトしていると、カメラのシャッター音が聞こえた。また、彼女の仕業かと思ったら目が覚めた。が、別の人だった。
「ナイスな顔が撮れた」
「なんだお前か。で、何してんの?」
「君の寝顔を写真に撮っただけ」
彼の名前は、倉本竜生。僕と同じ図書委員で部活動は、陸上競技部だ。委員会繋がりで仲良くなり彼も意外と本好きで、最近話題の小説や、アニメの原作小説について語り合う間柄だ。
「で、その写真どうするつもり?」
「最近話し合っている委員会の発表で使うつもり」
「へぇ〜…え、今なんて言った?」
「だから、発表で使うつもり」
「やめろ!」
「で、さっきなんでウトウトしていたの?」
「あ〜、それは一昨日買った小説が面白くて、夜更かししてしまったんだよ!」
「ん?一昨日と言うと土曜だよね」
「そうだけど?」
「一昨日、女子とカラオケいってなかった?その人って彼女なん?」
すると、彼女がいつもの挨拶でクラスに入ってきてそのまま僕のところまで直行できやがった。
「この前のカラオケ楽しかったね!」
まじでやめて欲しいと思ったが、彼女はそんな僕の気持ちに気づく様子もなくまた、話そうとしてきた。
「あー、もうわかったからその話はまた後で」
「はいはーい」
彼女は、適当な返事をすると自分の席へと戻っていった。話を戻そうと彼の方を見たら、何を勘違いしてるのか、ニヤニヤしていた。
「どうしたの」
「いやー、あれが優の彼女か」
「なわけねぇだろ。僕に彼女はいらない」
「彼女いいなー。いいなー」
結局、何とか誤解をとき、その日は一応何事もなく学校は終わった。
家に帰り、好きなアニメを寝転がりながら観ていたら、「お邪魔しまーす」という彼女の声が聞こえた。そして僕のいるリビングまで来た。
「何か用?」
「何も無いけど来た。あ、これが君の見ているアニメか。私、ちょっと引いたわ」
「ほっとけ。好きなんだからいいだろ。あと、勝手に入るな!」
「えっ。でも、君のお母さんから勝手に入ってもいいと言われてるんだけど?」
そうだった。幼馴染という理由で、家への自由な立ち入りが許されているんだが、めっちゃ頻繁に来るしいじってくるので、とても迷惑だ。
その後も散々僕をいじり、帰って行った。そして、入れ替わりでお母さんが帰って来て、夕食を食べ、風呂に入り、部屋で小説を読んで寝た。そして、いつも通りイタズラをされながら登校していると、彼が合流というかいつの間にかいた。
「優、おはよう」
「おはよ。で、こいつどうにかしてくれないかな?」
「えっと、こいつ誰だっけ?」
「笑愛だよ。僕の幼馴染で、君のクラスメイトでもある」
「あっ、思い出した!優の彼女か」
「だから違う!」
「冗談だよ、冗談。あっ、おはよう」
僕は、、彼の助けもあって彼女のイタズラを回避することが出来た。そして、このあとから先この三人で登下校をすることが多くなった。学校に着き、僕の好きな教科を集中してうけていると、後ろの席の人から手紙を渡された。僕は、真面目なので貰うつもりはなかったが、彼女からと言って笑愛を指したので仕方なく受け取って机の中にしまいこんだ。
ちなみに、昼休みにその手紙を読んだら、『再来週にボウリングに行きます❤』だった。最後のハートマークがウザイと思いながら手紙を、とじた。
放課後になった……
「ねぇ、あの手紙みた?」
「手紙?なんの事だっけ?」
「授業中に渡した手紙のこと」
「あ〜、あれか。僕、お金が無いから無理」
「そんな事言わないの。私が君の分も出すから。あと、倉本くんも誘ってね」
「あーはいはい」
「約束だからね~」
一週間が経ち、よくよく考えてみると、ほとんど彼女に言いくるめられているような気がした。多分、その原因は、僕の語彙力のなさだと思う。そこで、夕食の時に母に相談したが、結論から言うと、「そんなことなら笑愛に訊きなさいよ。優よりも頭がいいんだから」といわれた。僕は、後日嫌々ながらも質問してみた。
「語彙力をつけたいんだけど、どうすれば良いと?」
「おっ、珍しいね。君が質問してくるなんて」
「まぁ、色々あったんだよ」
「じゃあ、もっと勉強しろ!」
「勉強はやだね」
「そんなことだから、勉強ができないのよ」
「余計なお世話だ」
最近だが、彼女と話すのはまだ苦手だ。けど、そんな会話を心のどこかで楽しんでいる僕がいることに気が付いた。
そして、ボウリングの日が来た。
「みんな集まったね。それじゃあボウリング開始ーー」
「じゃあ最初は笑愛からで、次に竜生で、最後に僕でいいね?」
「「いや、お前からいけ」」
「なんでだよ!僕は嫌だ」
「分かった。じゃあ私からいくね」
「いや、俺から」
「……じゃあ…僕から」
「「どうぞどうぞ」」
「やっぱりな!もうやらん!」
「そんなに怒るなって」
「で、なんで最後がいいわけ?」
「いや、最後がいいなぁ〜と思って」
「じゃあ、最後が駄目と言ったら?」
彼女が、ニヤニヤしながら聞いて来た。これは、逃げられないと感じて、
「運動……音痴だから…最後がいい」
そう。実は、僕は運動が苦手すぎてほんとにやばいんだ。例えば、体育で陸上をするとスタートで転けるしサッカーをしても足を捻りまくるほどの運動音痴だ。
「なーんだ。そういう理由なら早く言ってくれればいいのに」
と、彼が言った。それに彼女も同意した。正直言って笑愛は分かっていたよなと思った。
僕は結局、最後にしてもらったが、やはり恥ずかしい……。そして僕の番が来た。
「じゃあ……、投げるよ」
「「どうぞ」」
「えい!」
ガターだった。彼女たちは、「まだ、最初だから」と言って、気にしてない様子だったが、その後もガター続きだったので」
「嘘、そんなに下手だったのか」
と、唖然としていた。
昼になり、
「お腹空いた~」
「隣がラーメン屋だからそこで食べる?」
「「さんせーい」」
その日はラーメンを食べて、解散となった。ちなみに、今回の一位は、倉本くんで、彼女は1ピン差で2位だった。
その日の夜、僕はとてもリアルで不思議な夢を見た。
それにしても変な夢だなぁと思っていたら
「ねぇ聞いてるの?」
「あぁ、そういえばさ、不思議な夢をみたんだけど」
「へぇー、それはどんな夢なの?」
「それがよく覚えてなくて……、どんな感じだったけな」
「なら良かった」
「ん?なんか言った」
「なんでもないよ。そんな夢は私でも見るから。ようするに気にしすぎってこと!」
「そうだね、あっやばい!このままじゃ遅刻だ」
僕達は、始業のチャイムギリギリで席についた。
最近になってこういう夢を見ることが多くなり、少し考えてみたが、考えついたのが、小説の読み過ぎだと思われそうなので却下した。そして色々考えているうちに学校が終わった。僕は、昨日手に入れた好きなアニメのDVDが早く観たかったりしたので急いで帰った。アニメを観ていると、彼女がまた家に入って来た。
「また邪魔しに来たの?」
「いや違うけど?君が昨日買ったDVDを一緒に観てあげようと思って」
「なぜそんな偉そうなの?あと、そんなに威張るな。それになぜ、僕がDVDを買ったことを知っていると?」
彼女は、少し慌てた様子で、
「あ、ほら今日な昼休みに言っていたじゃん」
「言ったけな?」
「言った言った!それより早くアニメの続き観ようや」
何をそんなに焦っているのか不思議だったが、
「じゃぁ何もするな!」
「あいあい、分かりやした〜」
一時間後、彼女は目をキラキラさせながら
「めっちゃ面白いね」
「!」
「どうした?!」
「今なんて言った?面白いって言ったよね」
「う、うん。言ったけど」
「だよね!面白いよねこのアニメ」
一気にテンションが上がった僕はそのアニメの説明を始めた。
一時間後
「そうであってこの話は……」
さらに三十分後
「ということで終わり」
そして、得意気になって彼女方を見たら普通に寝ていた。多分、途中で僕の話に飽きたんだろう。
「……てっ、おい!」
「ヒャッ、も〜驚かさんでよ!」
「寝ているのが悪い!で、ほんとに面白かったね」
「そうだね」
その後、僕からその原作小説を借りて帰っていった。でも彼女は本を読むタイプではないので読みきれるか心配になった。次の日、
「あ〜、頭痛い」
「……、どうした?」
「昨日借りた小説を全部読んだらこうなっちゃった」
「逆にそうなったか。お前はもう少し小説を読め!それでよく現文のテストの点数が取れるのが不思議だわ」
「それ、関係あるの?」
「あるよ。多分だけと。だって僕がその方法を使っているんだもん」
「興味なし!だって私はそんな方法を使わなくても点数が取れるんだも〜ん」
「うざい」
そこで彼女が笑った。しかもバカでかい声で。周りの人達が、その声にビックリして、僕たちの方を一斉に見た。僕は注目されることが苦手なので、彼女に笑いを止めるように頼んだが、いっとき「くくっ」と笑っていた。昼休みから倉本君も交えた三人で話をしていたがそこでもイジられることとなった。それは家に帰りつくまで続いた。そして宿題をしながら
「あー疲れた!宿題なんてなければいいのに」
ちなみに今日の宿題はというと、僕の一番苦手な数学なのだ。一切分からなくて、プリントと睨み合いもう一時間は立っていた。でもやはりわからない。彼女におしえてもらおうとおもったが、いじられる原因を作っているような気がしてやめた。結局諦め半分で「こうかな〜」的な感じで式と答えを書いてみた。次の日の丸付けのあと彼女がすごいドヤ顔をしながら、
「このプリント何問正解できた?私、一問間違い」
「えっと僕は全問正解」
何故か適当に書いた式と答えがあっていたのだ。
「……?」
彼女はまだ理解していないのか首を傾げていた。
「だから満点、全問正解なの!」
「へえー君が満点か。……え満点?君が?こんなバカがあり得ない」
「うるせーな」
彼女は開いた口が塞がらないのか、口をポカーンと開けたままだった。その時の顔は多分だけと面白すぎて忘れる事はないだろう。
彼女はというと、よほど悔しかったのか家に帰り着くまで睨まれ続け「何でこいつが」と、連呼していた。
「そろそろ機嫌を直したら?」
「無理です。君が私よりバカだと認めない限り直りません」
彼女は、頬にたくさん食べ物を詰め込んだリスみたいに膨らました。
……すねた。子どもみたいにすねた。ていうかバカとは言ってないしと思ったが僕が勉強が苦手だということはあっているので認めることにした。
「分かりました。僕はあなたよりバカです。そうですバカです」
「だよね〜。私が君に負けるはずがないもの」
彼女の機嫌が一気に戻った。
「単純だな」
「ん?なんか言った?」
「いや何も言ってないけど」
そこから少し彼女と話をして、僕は家の中に入った。
それから三日後、僕は夜道を走っていた。誰かはわからないがあとをつけられているからだ。最近、夜外に出るたびにあとをつけられているのだ。そいつから逃げるけどなかなか振り切れないのだ。
次の日、学校でいつも通りの日常を満喫していると、
「ねぇ、今度カラオケに行かない?」
と彼女が聞いてきた。
「行かない」
「即答だね!じゃあさ、倉本くんも誘って」
「無理だね。ていうかさ僕の残念さを忘れたの?」
「ん?覚えているけど。だから君と行きたいの!」
「あんたは鬼か!!」
「うそうそ、単に今のうちに人生を謳歌したいのよ」
「なんか縁起でもない言葉だな。まぁいいけどさ」
「やったぁ」
と言って笑顔になった。その笑顔を見たら何故か胸がキュっと締め付けられた。家で寝ようとしたが、その笑顔がチラついてなかなか寝れなかった。
土曜日、三人でカラオケに行った。そこでも彼女と彼はハイスコアを出しまくっていたが、僕はというとボウリング同様、残念な結果を出し続けていた。
その四日後、日中なら大丈夫だろうと思っていたが、またあとをつけられ、その後も度々あとをつけられていた。でも友達や親にも相談する気にもなれなかった。
ある日、好きなアニメのブルーレイが発売されていると聞いたので、彼女を呼んで一緒に行くことにした。
「珍しいね、私を呼ぶなんて」
「まぁ、最近あとをつけられているから、二人なら大丈夫かなと思った」
と相談してみた。
「そうなんだ……。じゃあ、あなたは私が守るから。何があっても」
「本当に大丈夫?」
「うん!任せて!」
しかし、あの日から彼女のことを意識してしまいなかなか話が続かない。うまく話せないまま到着し買い物をして店を出た。
次の日、学校で「最近笑愛と会話してると意識してしまうし胸がキュっと締め付けられるんだよね」すると彼は「それは恋だな」と言ってきた。すると、タイミングが悪いことに彼女来た。
「なんの話をしてるの?」
「いや、なんかコイツお前にほ…」
「あーあー!なんでもない、なんでもないから。本当に。だから気にしないで」
「ん〜?何か、隠し事でもしてるのかなぁ?その慌てようからして……?」
「うん!コイツ…」
「だ〜が〜ら〜言うなと言っているじゃねーか!」
「まぁいいや。そのかわり放課後に白状させるからね!」
と言って彼女は選択授業に行ってしまった。この授業は、僕と彼女で選んでいる科目が違うので唯一彼女からのイタズラを受けないのだが、でも最近は彼女がいないととてもつまらなく感じるのだ。そして帰り道、
「ねぇ、あのとき倉本くんは何を言おうとしていたの?」
「え〜っと、言いづらいのと、もしこのことを言って僕と彼女の今の関係が崩れるのが嫌なんだよ」
「別に大丈夫だよ?私と君の関係はこのぐらいでは崩れたりしないから。絶対に」
「う〜ん、でも……」
「大丈夫だからね。言ってみ?」
そう言って微笑んだ彼女の顔を見て、僕は
「分かった」
そう言い鼓動が速くなるのを感じながら
「あなたのことが好きになりました。僕とセンニチコウを育てませんか」
そういった瞬間一気に静かになり風がそよぐ音しか聞こえなかった。彼女を見ると笑顔なのになぜか瞳からは涙がこぼれていた。僕は慌ててハンカチを差し出した。
「大丈夫?!」
「大丈夫だから……。ただの嬉し泣きだよ」
「じゃあ返事は気持ちが落ち着いてからでいいよ」
「まって、今言うから、返事」
彼女はそう言ってまた微笑み、そして
「いいよ、付き合っても」
その夜、僕は嬉しくてなかなか寝れなかった。
それからの日々は、いつもより楽しく過ぎていった。
「ついに告ったか〜!いいなぁ〜。俺も彼女ほしいわー。でもよかったじゃん」
「まぁね!」
「まぁ、色々な話だな」
「ねぇ、優、今度デートしない?」
「このリア充め!でも二人ともお似合いだな!」
「「ありがとう!」」
「息ぴったりだなお前ら」
「「どうも〜」」
「だからそこ!!」
と彼が突っ込み、二人で笑った。その後は、彼女と二人で弁当を食べて(ちなみに倉本君はというと、俺がいたら邪魔だなと言ってどっかに行ってしまった。)学校が終わると一緒に帰った。でも付き合ったと言っても、まだ手も繋いでいない。恥ずかしいというか照れるからだ。
そして日曜日、当初はいつものカラオケに行こうとしたが、予約でいっぱいになっていたので、映画を見ることにした。そして観終わり、映画館をあとにした。
「今日カラオケに行けなくて残念だったね」
「そうだな!でも映画も面白かったし限定グッズももらえたから、別によくない?」
「やね!」
その後は、大型商業施設の服屋さんで彼女が買いたいと言っていた服の試着が終わるのを待っていた。その間に、さっきもらったグッズを見ていた。
「終わったよ〜。あっまたそれ見てる!そればっか見ないで私の服装も見てよね!」
「あ、ゴメン」
「それで私の服装似合っているかな?」
と、彼女は髪をくるくるいじりながら聞いてきた。彼女の意外な一面や似合いすぎてるその服装にビックリしてしまい出てきた言葉は、
「カワイイね」
の一言だった。
「どこカワイイか言って!」
「全部がカワイイ」
「全部じゃなくて一番どこがカワイイの?」
「そういえばさ、最近僕をいじったりしてこないね?」
「あ〜、話をそらした!ていうか忘れてた。でも、まぁいいや。だって優をいじるより何気ない会話をしてる方が楽しいとわかったから」
「確かに、僕もそうだと思ったんだ。あ!そういえば、センニチコウの花言葉知ってる?」
「知らない。なんやと?」
「色褪せぬ愛だよ!僕たち付き合っているじゃん。だから死ぬまで一緒だといいなぁと思って」
「そうなんだ!私達にぴったりだね!私も今の幸せを失くすことが嫌だし、優といつまでも一緒がいい!」
そういった彼女の顔は今にも泣き出しそうだった。が、すぐにいつもの笑顔に戻った。僕はとっさに彼女を抱きしめていた。
「なんかあったと?」
「大丈夫だよ……。ちょっと……嫌なことを思い出して」
彼女を家に送り、その後、自室のベッドで彼女が何故あんなふうになったのかそのことが頭から離れなくなった。
朝、二人で登校していると、
「そういえばさ、この辺りで、不審死がおこっているんだよね」
「あー、確かに。そういうのって怖いよな」
「だからよ。夜に一人で出歩かない方がいいよ」
「きみは心配しすぎだな。大丈夫だから」
ちなみに僕と彼女が付き合い出したことは一気に学年中に広まっていた。そのことを広めた人物は、倉本くんだった。しかも周りの男子からは冷ややかな目線を感じるようになった。僕は、こういった感じで注目されることが苦手なので、少しずつストレスが溜まっていった。
「ねぇ、倉本くん。なんで僕たちが付き合っていることを広めたの?あれほど言うなと言っていたのに」
「ん?駄目だったん?」
「あぁ、もちろん。そのせいで僕はだいぶストレスが溜まっているんだけど」
「わりーわりー。そんなに嫌だった?てももう遅いじゃん。みんなに広まってしまったんだし。残念でした。ハハッ」
倉本はそのままスマホゲームを始めてしまった。僕はその態度に苛ついてしまい
「残念でしたじゃねぇだろうが!」
「ん?残念でしたとも思っているし、ざまあみろとも思っているけど何か?」
その一言がぼくの引き金を引いた。「ふざけるな!」そう言った僕は倉本を殴り飛ばしていた。教室の喧騒が止まった。
「イッテーな……。なにすんだよお前!俺が何をしたっていうんだよ!!」
「何もクソもねぇんだよ!お前のせいで僕は周りの男子から変な目で見られるようになったんだよ!」
「知ったことか!第一に俺はお前が気に入らねぇんだよ!学年一の人気者と幼馴染がどうかは知らねぇが、お前みたいな最底辺の陰キャはあいつには似合わねぇんだよ!さっさと別れろや」
「陰キャで悪かったな!でも笑愛は、僕を選んでくれたんだ。だからバカにするな!」
そこに先生が間に入ってきたため喧嘩は、いったんおさまった。
次の日のからは、倉本とはすごい険悪ムードで、周りの人からは、無視されるようになった。理由としては多分だけど昨日のことが関連していると思う。無視されることが一週間続いたある日、
「ねぇ大丈夫なの?無視されているけど?」
「今のところ。別に、危害を加えられているわけでわないし、いっときほったらかしとけばいいと思う」
「うん、わかった。でもきつくなったら相談してね!」
「あぁ、わかった。じゃあな」
「また明日!」
次の日、教室に入るとクラスメイト全員が僕の方を見てクスクス笑っていた。それを無視して、机に近づくと、引き出しや上にゴミや悪口が書かれていたりした。僕はすぐに片付け始めてそれをみたクラスメイト全員は、笑いながらヒソヒソと何か言っていた。それも僕は無視をして片付け続けた。その日からイジメはエスカレートしていき、わざと水をかけられたり、全て拒否したが、パシリなどに使われそうになったりいきなり、首を絞められたりなど担任に相談はしているが、「そんなことは知らん」の一点張りで、話に応じてくれなかった。
「そろそろ限界…。でもこんなことでくじけたらもってのほかだ」
そう自分に言い聞かせて、普段通りに過ごしていた。しかし、ある日の昼休みに、笑愛が教室を出ていったところを見計らい、何人かの男子が僕のとこに来るなり机を蹴り飛ばした。
「お前さぁ、調子に乗ってんじゃねーよ!アイツと付き合えたからって図に乗ってんじゃねーよ!」
「……」
「こいつ俺の話を聞いてんのか?」
「聞いてるけどそれがどうかした?」
「その態度がムカつくんだよ!さっさといなくなれや!」
そういうと、僕の髪を掴み腹を殴ってきた。僕は、床に倒れ込んだが、怒りを我慢して周りにも聞こえる声で
「人をいじめて何が楽しんだよ!なにか得することでもあるのかよ!」
しかし、この問いかけも虚しく「うるせーな!クズが俺らに説教すんじゃねー!」そう言われ五人から一気に殴られ途中で意識が途切れた。目を覚ましたときには、保健室のベットに横になっていた。
「あれ、僕は教室にいたはずなんだけど?なんでだ?」
「あっ、やっと起きた。大丈夫だった?」
そこには心配そうな笑愛がいた。
「あぁ、なんとか…」
「嫌なことがあったら私に相談してといったでしょ!アイツら絶対ふっとばす!」
「ごめん、あとありがとう……」
「別にいいよ」
あとから聞いた話、意識を失った僕を運んでくれたのは笑愛だったらしい。あと、このイジメの原因は、やはり倉本の嫉妬だった。だから、もともと僕のことをよく思っていない連中と手を組んで、僕たちを別れさせようとしていたのだ。
次の日から学校に行こうとすると激しい腹痛や頭痛に襲われベットから一歩も動けなくなりその日から登校ができなくなっていた。
しかし、この間にも笑愛が様子を見に来てくれた。毎回学校に来る約束はしているのだがいざ学校に行こうとするが、恐怖心や、頭痛に襲われなかなか行くことができない。でもある日、そろそろ単位がやばいということで、学校に勇気を出していってみた。久しぶりの学校だが、今日はなんか、行けそうな気がしてクラスに入ってみると
「あっ、なんか変なやつがが入ってきやがった。もうお前の居場所なんてないんだよ!さっさと消えろ!ていうか死んでくれたらいいんだけどな」
あぁ、まただ…と僕は思い、教室の雰囲気に耐えきれずそのまま飛び出していった。無我夢中で走り続け、途中で笑愛とすれ違った気がしたが、そんなことはどうでも良かった。もう死にたいとしか思えなかった。
「もう自分なんてどうにでもなってしまえ!」
そうつぶやきながら駅のホームに立っていた。電車の来る合図が聞こえ、
「やっと楽になれる」
迫ってくる電車に身を投げたそうと体重を移動させて倒れようとした。
瞬間、誰かに腕をつかまれて引き戻された。誰かと思い、後ろを振り返ると涙目になっている笑愛がいた!
「なんだよ!はやく楽にさせてよ!」
バシンという音が響き、頬に痛みが走り、抱きしめられて、
「バカ!なんで死のうとするの!もし君が死んだら残された家族や私がどんな思いをするか考えてよ!もうこれ以上心配をかけないでよ…」
そう言った彼女は、その場にへたり込み、一緒に僕もその場に座り込んだ。
「ごめん…」
その一言しか僕は言えなかった。
「ううん、それは私のセリフ。そんなになるまで抱え込んでいるって気づかなくてごめん…。あと、止められなくてごめん。」
翌日、笑愛にお礼をとおもい、話を振ってみたが、覚えてないという。
イジメのほうわというと、今回のことで学校も隠しきれなくなり、倉本を中心のグループは、退学処分となった。それから数日後、家のポストに手紙が入っていた。宛名は、僕になっており、差出人は、笑愛と書いてあった。
優へ
やっほー!元気にしてる?あと最近学校の調子はどう?もちろん休んでいないよね?ホントはね、君に告白された時にこうなることを伝えようと思ったの。でも、なかなか伝える勇気がなくて、ズルズルと君が死ぬ日になってしまったの。だからあの時、すれ違ったときに追いかけたんだ。二度も君をなくしてたまるかという思いでね…。でも実際のことを話すと、君は、私の手がわずかに届かず、目の前で死んでしまったの…。私は、君という存在を失くしてから見えている世界が、全てモノクロに見えて、助けることができなかったことを悔やんで一時期不登校になってしまって学校までもやめてしまったの。そのまま就職してある朝目が覚めたら君の自殺する一年前にタイムリープしていたの。さすがに最初は夢だと思ったよ。だけどさ、君に触れてみたりしたらちゃんと脈や体温があったからさ、これは夢じゃなく現実なんだと感じたの。だから、これは神様のくれたチャンスなんだと思って君の自殺や、危険な目に合うこと、取り除こうと思ったの。あと、君がいっとき誰かにあとをつけられているといったよね?あれホントは、私なの…。君がいつ危険な目に合うのかが心配だったから。怖い思いをさせてごめんね…。
ちなみに今までの私に関する記憶は、優以外みんな上書きされるからさ。でも安心して、付き合っていたことは、過去でも同じだからさ。私は、もとの世界に戻るだけだから。それじゃあお幸せに。(なんか他人事みたいだね)
PM二十三時十一分 未来の笑愛より
「なんだよ……。結局僕は、あいつに迷惑しかかけてねぇじゃねぇか!」
自然と涙があふれ出していた。ひとしきり泣いたあと、深呼吸をし、彼女に今すぐ来てほしいと電話で伝えた。
「そういうことだったんの」
手紙を読んだ彼女は涙目になりながら言った。
「ねぇ、優はさ、今でもというか、ずっと私のことを愛してくれるよね?」
「急にどうしたの?」
「未来の私から、お幸せにということだったやん。だからさ聞いてみたの」
「あぁ、もちろん!何があっても君を守り抜いてみせるし、死ぬまで愛し続けるからな!未来の君からの約束だしな」
そう言って彼女の方を見たら、はにかんでいた。
「あっ、そうだ!告白もう一回してよ」
「わかった。じゃあついてきて!」
僕は、彼女の手を引いてあるき出し、目的地に近づいたので目を閉じてもらった。
「目を開けてもいいよ」
「わぁスゴイ、こんなところがあったんだ!」
あたり一面ピンクに染まっていた。
「あなたのことが好きです!僕と一緒にセンニチコウを育てませんか?」
彼女は、嬉しそうな顔して、「はい!」と答えた。そんな二人を祝福するかのように風が足下のセンニチコウをなびかせた。
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