クリスマスの不思議な体験

短編(読切)

今日は12/25クリスマスだ。


街は華やかなイルミネーションが輝き、その写真を撮りながら騒ぐカップル達の声で賑わっていた。


何がクリスマスだ。馬鹿馬鹿しい。


誕生日をセックスの口実にされるキリストの身になってみろという話だ。


俺は昔から彼女など出来たこともなく、大学生時代は某動画サイトで「リア充爆発しろ」だの「今年のクリスマスは中止です」だとかそんなくだらないコメントして暇を潰していた。


そんな俺も、もう29歳今では立派なアラサーサラリーマンだ。


学生時代は俺みたいなやつが会社勤めなんか出来るかと思っていたが、案外なんとかなるものだなと思う。


俺はコンビニの喫煙所に立ち寄りひしゃげたタバコに火をつけた。


一緒に入った会社の同期は去年係長に就任したらしい。


4歳年下の後輩は長年付き合っていた彼女と入籍した。


俺はなにも変わっていない。


特別仕事ができるわけでもないので平社員止まり。

こんなキモメンに彼女なんてできるわけもない。


学生時代の友達とも卒業してからは会っていない。


なんだかこの会社に入った時から時が止まってしまったようだ。


「俺、何のために生きてるんだろうな…」


安定した仕事に就いているし生活の不自由はない。


そこそこホワイトな会社なので自由な時間もある。


きっと自分は恵まれているのであろうと思う。


しかし…


「お悩みのようですね」


いつの間にか隣に見知らぬ男が立っていた。


髭を生やしたいかにも紳士という感じにおじさんだ。


喫煙所で暇つぶしがてら話しかけられることはよくあるので特に驚きもせず俺は返事を返す。


「ええ…なんか楽しそうにしてるカップルを見ていたら、俺の人生って何なんだろうなって考えちゃって」


自嘲的な笑みを浮かべる俺におじさんはこう言った。


「あそこで笑ってるカップルだって意味がある人生を送ろうだなんて思っちゃいない」


「ただ自分が楽しいと思ったことをやっているだけだ」


「人はね、本当に欲しいものは既に手に入れてるか、近い将来手に入るものなんだよ」


「君は愛する彼女や、会社での地位、信頼できる友達、それらを心の底から望んだことはあるかい?」


「それは…」


俺はおじさんの言葉になにも言えなくなってしまった。


確かにそうだ。


俺はカップルを見て爆発しろだとか妬む気持ちはあったが自分が彼女を作ろうなどと考えたことはなかった。


会社での出世だってそうだ。


自分には能力がないと初めから諦めていた。


友達だって、たまにでも連絡して飯でも行っていれば疎遠にはなっていなかっただろう。


全て俺が選択したことだ。


「俺、捻くれ者の馬鹿だな」


なんだか今までの自分の人生が恥ずかしく思えてきた。


それと同時に、今のくだらない人生を作っているのは自分だと思ったらもう少しいろんなことに挑戦してみてもいいかなと思った。


まだまだ後軽く50年は生きることになるだろうし、せっかくなら楽しまないと損じゃないか。


「もう少し頑張ってみるか」


俺はそう決意した。


ここでふと気になることが…


「そういえば俺会社の話とか友達の話なんてしたっけ?」


俺はおじさんにそんなこと話していない。


なのにおじさんは全てわかっているような顔で俺に語りかけてきた。


不思議に思いおじさんの方を見たが既におじさんの姿はなかった。


「なんだったんだ…?」


一体おじさんは何者だったのだろうか。


「もしかしたらあのおじさんはサンタクロースだったのかもしれないな」


子どもの時からプレゼントなんて貰ったことがなかった俺への初めてのプレゼント。


なんて、我ながらロマンチックなことを考えるものだ。


タバコの火を消し白い息を吐き、俺は明るく輝くイルミネーションの方へ一歩踏み出した。

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クリスマスの不思議な体験 @Zen_yuka

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