第33話 秘密
「ねぇ夢咲さん、せっかくだし一緒に帰らない?」
どうせ家は近くなのでそう提案すると結姫は快く頷いてくれた。
「いいですね、私もあなたのこと知りたいので」
「よかった、じゃあ帰ろっか」
「あの…そういえばまだ名前を教えてもらってないので聞いてもいいですか?」
「あぁ、そうだったね。俺の名前は双葉乃亜って言うんだ。」
俺がそう自己紹介をすると何かを思いついたような、思い出したような、懐かしむようなそんな表情を浮かべた。
「ふたば…のあ………」
「そう、双葉乃亜だよ」
「のあ…くん、そっか……」
「どうしたの?」
「いや、なんでもないです。それよりあの……乃亜くんって呼んで良いですか?」
そう言って首を斜めに傾げて上目遣いをするのはずるい…。
断れるわけないじゃないか、まぁ毛頭断る気などないんだけどね。
「もちろん」
結姫はぱぁっと満面の笑みを咲かせた。
「その代わり俺にも結姫って呼ばせてくれたりする…?」
「もちろんですよ!むしろこっちからお願いしようかと思ってました」
えへへ、と笑った結姫は少し目を逸らしてはにかんだ。
「前までも下の名前で読んでいたのですか?」
「うん、その時はちょっとした成り行きがあってね」
夢で起きたことと現実がごっちゃになって起きた瞬間結姫のことを呼び捨てで読んでしまった記憶が鮮明に蘇る。
たった1ヶ月ほど前のことなのに遥か遠く昔のことのような気がする。
「成り行きとは…?」
と聞かれても夢で結姫に求婚してたことなんて言えるはずもない。
「ちょっと恥ずかしいから言えないかも」
「そっかぁ、でも逆に俄然乃亜くんに興味が湧いてきました!」
なんでそうなる!?……まぁ興味を持ってもらうのは良いことか。
「あ!そうだ、良いこと考えました!」
何かを思いついた結姫は顔を明るくして笑顔を浮かべた。
「明日の夏祭り、一緒にいきましょうよ!」
「急だな」
「ええ、善は急げですよ!」
ちょっと意味合いが違う気もするがいいか。
「嫌…ですか?」
少し目を潤ませて下から覗き込むように尋ねる結姫。
いわゆる上目遣いだ。
こんなことされなくても断る気なんてさらさらないがな。
結姫は自然にこういうことをしてくるから心臓に悪い。
毎度思うが本当に難攻不落の氷姫は結姫のことなのか?
「嫌なわけないだろ?むしろ俺から誘おうとしてたところだ」
少し先ほどの結姫を真似して言うと嬉しさと怒りがごっちゃになったような可愛い表情を浮かべていた。
「なんでですか…」
「え?それは…まだ秘密かな?」
そう言うと頬を膨らませてぷんぷんと怒った。
可愛いかよ。
すると一転、何かを思いついた顔をした。
「あ!分かりました!」
「何がだ?」
「乃亜くんの口癖です!」
「……え?」
唐突だな。
「ずばり『秘密』ですね!」
ですね、と言われても。
自分ではそんなつもりはなかったのだが。
秘密…か。
「そうかもな」
「えへへ、また乃亜くんのことひとつ知れましたよ!」
「あぁ、良かったな」
なかなかこの結姫は掴みづらいな。
まぁ中身はほぼ中学生みたいなものだからな。
「ちなみにずっと同じ道を歩いていますけど乃亜くんの家はどこにあるのですか?」
「結姫の家から歩いて数十秒のところ」
「へっ!?そんな近いんですか…!?」
そのおかげで仲良くなったからな。
あのマンションを選んでくれた両親には感謝してしきれないよ。
「まぁな」
「へー、今度乃亜くんの家にも行ってみたいです!」
「まぁ俺は良いけどあんまひょいひょい男の家に入るなよ」
「…?どうしてですか?」
「いや…そりゃ、その……狼みたいな男だっているわけだし…」
「狼…?」
「あ…あんま気にしないでくれ、と…とにかく!ひょいひょい男の家に上がるなよってこと」
「乃亜くんだからそう言ったわけで他の人なら言いませんよそんなこと」
俺だからって、今の結姫の中では今日出会ったばっかの人だろ。
まぁ本人もこう言ってるんだし良いか。
「あ、そうこうしてるうちに着いちゃいましたね」
「そうだな」
「乃亜くん、明日は何時集合にしますか?」
「んー、5時半くらいで良いか?7時に花火上がるらしいからその前に色々回りたいだろ?」
「そうですね!そうしましょう!」
「甘いものもいっぱいあるからな、結姫も楽しめそうだな」
「へ?どうして…?」
「だって甘いもの好きだろ?」
「え!なんで知ってるんですか!?超能力者ですか!?」
自分が記憶失ってること忘れてるのかな…?
それにしてもこの結姫は表情がコロコロと変わるな。
「さぁな」
「また『秘密』ですか?」
「そうだな」
「えー、ずるいです。乃亜くんは秘密禁止にします!」
おいおい、俺にプライバシーの権利はないのか?
「それは結姫による俺への強制的情報公開制度か?」
「ふふ、そうですよ」
「俺のプライバシーの権利は
「ふふ、乃亜くんは面白いですね」
なんか手放しに褒められるのは体がむずむずする。
なんてことを高木に言ったらひねくれてんな、とか言われるんだろうな。
「まぁ話を戻して明日は5時半結姫の家の前集合でいいか?」
「はい!よろしくお願いしますね?」
「あぁ、よろしくな」
そう言ってその日はお開きとなった。
なかなかに濃くてハードな1日だったから今日はぐっすりと眠れそうだ。
そう、薄らと浮かんでいる満月を見上げながら感じるのだった。
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