第31話 予感
俺は今結姫の家の前に来ている。
あの事件からは2日がたった。
結局中野は半ば引きずられるように警察に連れていかれた。
俺たちは中野がやったこと、今までやってきたことを全て話した。
撮っていた動画もしっかり提出した。
恐らく中野とその一派は学校を退学になり場合によっては法に裁かれることもあるだろう。
たかがいじめ、されどいじめ。
いじめというのは決して許されていいものでは無い。
本人にとってはなんてことないじゃれあいでもそれを相手が不快と感じ、いじめだと思ったらそれはもう立派ないじめだ。
やった本人はなんとも思ってないかもしれない
でも、いじめられた人の心には一生その傷が残り続ける。
ましてや中野に至っては手も出てきた。
しかもか弱い女子にだ。
決して許される行為では無い。
心に傷が残るどころかトラウマ級だろう。
俺はそんな
正直なところもっとやってやりたい気持ちはあった。
でもこれが法の中でできる俺の精一杯だった。
結姫はあれ以降俺の前に姿を見せてくれなかった。
理由は言わなくても分かるはずだ。
あんなことがあったら誰でも人に会いたく無くなるだろう。
聞くところによると学校にも来てないらしい。
だから俺は今お見舞いとして奴結姫のところに来ていた。
「ふぅー…はぁーー……」
1度大きく深呼吸をする。
心を落ち着かせてからゆっくりとインターホンに手を伸ばした。
ぴんぽーん……
『はい…?』
「あ、双葉です」
『乃亜くん…?』
「あぁ、ちょっとお見舞いにな」
『ごめんなさい…今は体調が悪くて乃亜くんに移しても悪いので……』
「そっか…そうだよな。ごめんな、わざわざ押しかけて」
『いえ、気持ちだけでも充分嬉しいです。ありがとうございます』
「ごめんな、じゃあ」
そう言って俺はその場から離れる。
はぁ…やっぱりダメだ。
俺が不甲斐ないばかりに…結姫に苦しい思いをさせて……。
ゆっくりと心の氷を溶かしてあげないと。
♢♢♢
「おはよう乃亜」
「おはよう高木」
次の日学校に行くと今まで通りの当たり前の日常がそこにはあった。
でも、強いて違うところを言えば高木と奨吾の顔が曇っているところだろうか。
おそらく俺も他人から見たらそう見えているだろう。
あの日を共にした当事者たちはまだヘラヘラと冗談を言って笑い合えるような気持ちは持ち合わせていないのだ。
「夢咲さん、どうだった?」
「うん…まだ、ダメみたい」
昨日予め高木と奨吾には結姫のお見舞いに行ってみるということは話しておいた。
「どうすりゃいいんだろうな」
「夢咲さんが自力で復活するのを待つしか…」
「それじゃダメなんだ。それがいつになるか分からないし、もしかしたら一生になってしまうかもしれない。でもかと言って無理やり俺たちが手を差し伸べるのも違う気がするし……」
「こればかりは俺と奨吾が下手に動いても帰って場を悪くするだけだ。ここは大人しく待つか、乃亜に任せるしかないんだよ」
そうだよな…無闇矢鱈に動いても何もいいことは無い。
少なくとも結姫にとってはそれが正解だとは思えない。
だからこそ、ゆっくりと時間をかけなければいけない問題なのだ。
「とにかく、俺ができるだけ結姫とコミュニケーションを計ってみる。そうすれば何かヒントが出てくるかもしれないから」
「そうだな、それが一番良い。頼んだぞ」
「うん」
結姫のためにも、頑張らなきゃな。
♢♢♢
帰り道、見慣れた光景を誰の歩幅に合わせるわけでもなくゆっくりと歩く。
高木は委員会で奨吾は部活のため一人で帰宅していた。
ちなみに奨吾は夏の大会間近でオフがほぼないらしい。
「応援行ってやるか」
そんなことを考えていると視界の端にふとあるものが映った。
夏祭りを宣伝する旗だ。
「夏祭り…か、懐かしいな」
昔行ったことがあるな。
確かあの時は……あれ?思い出せないや。
でもたしかに心の中に残ってる、懐かしい思い出が。
「2日後か…、行ってみよっかな」
夏祭り…何かが起こるような、そんな気がしたんだ。
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