第15話 少しだけ悲しくて

「で?今これはどういう状態なの?」


「わ、私にもさっぱり…」


 俺と結姫は2人して目の前の惨状(?)を眺めていた。


「枕投げ…懐かしいな」


「私はやったことも無いです…」


「まぁそうだよな、俺は小学生ぶりかも」


「くーらえっ!!」


「いでっ…」


 結姫と話してぼんやりとその光景を眺めていると高木に巻き添えを食らった。


 くそ、やったなこのやろう。


「仕返し!くらえっ!!」


「もう、乃亜くんまで…」


 隣で結姫がため息をついている気がしたが今はそれどころじゃない。


 高木と夜宵からの集中砲火を避けなければならない。


 まぁ初対面だから胡桃さんは遠慮して投げてこな……って、めっちゃ投げてくるなぁ!


「へへへ、くらえ乃亜ー!!」


「ちょ、3対1は卑怯だって!」


 みんな枕投げとは思えないほどのスピードで俺になげつけてくる。


 まるで親の仇みたいに……あれ?これ本当に親殺しちゃってたとかないよね?


 枕投げとは思えないほどのスピードに若干困惑しつつも華麗に(?)避けていく。


 ちなみにみんな高校生なので下の階や隣の部屋の人に迷惑がかからないように飛び跳ねたり壁にぶつけたりはしてない。


 って、そんなことはどうでも良くて。


「みんな強いって!親の仇みたいなスピードで投げつけるやん!」


「まぁほぼそんなもんだしなっ!」


 と言いながら投げつけられた枕も華麗にキャッチし高木に投げつける。


 て、え?今親の仇ってとこ肯定しなかった?


「だってお前ゆうひさんと付き合っておきながら俺になんの報告もなかったからな!」


「え?付き合ってないよ?」


 まったく、急になんてこと言い出すんだこいつは。


 まぁいつかはそれを実現したいところではあるけどな、今はまだ、だよ。


「は?」

「え?」


 すると高木と胡桃さんが同時に声を出した。


 やっぱり恋人だな、息ぴったりだ。


「そもそも好きでもないやつと付き合ってるとか言われると結姫が可哀想だろ」


 するとワンテンポ置いて高木が口を開こうとして辞めた。


「はぁ……お前なぁ?」


「それはさすがにだよ?双葉くん」


「乃亜、やよ少しがっかり」


 え、なに?みんな揃いも揃って怖いんですけど?


「とりあえず枕食らっとけ」


「そうだね」


「だね〜」


 と言って3人いっせいに枕を俺目掛けてなげつけてきた。


 それは見事俺の顔面に3連クリーンヒットした。


 くそ、もう周りは敵だらけか……でも俺には取っておきの切り札となる助っ人がいる!!


「結姫、助けて」


「嫌です」


 そういうなり結姫は思いっきり俺の顔面目掛けて枕を飛ばしてきた。


 ショックと衝撃により後ろに倒れ込みみんなの方を見ると何故かみんな「そりゃそうだ」みたいな顔をしてた。


 なんでだ……


♢♢♢


「はぁ、疲れましたね」


「そうだな、意外と子供らしい馬鹿みたいなことも楽しいもんだな」


「えぇ、そうですね」


 正直枕投げなんていつぶりだっただろうか。


 最後にやったのが小学生、という記憶しか残っていない。


 だが意外と大人になってからやると楽しいものである。


「相変わらず高木達はイチャイチャしてるな」


 俺はすぐ近くでイチャイチャしている高木胡桃カップルに目を向けた。


「琥太朗はいいなぁ」


 すると俺の右隣にいた夜宵が口を開いた。


 ちなみに枕投げにおいて夜宵がいちばん優しかった。


「ちなみに結姫と胡桃さんってどういう関係だったの?」


「ん〜、強いて言うなら親友に近いでしょうね」


「ふーん?小学校も同じ?」


「はい、小学3年生の時からの旧友です」


 はー、昔からの友達なんだな。


 今日の胡桃さんと結姫の会話を聞いてるとやけに慣れてる感じがあったからなぁ。


「でも高校は別々になってしまい少し悲しかったんです」


 結姫はでも、と言って続ける。


「こうやって乃亜くんのおかげで再会できた訳ですし本当に嬉しいです」


「そっか、良かったな」


「はい、乃亜くんもありがとうございます」


「いえいえ」


 まぁ俺はほぼ何をして無いに等しいんだが結姫の感謝は素直に受けとっておこう。


 そしてまたふと高木胡桃カップルの方向に目を向けると今度は何やら2人とも悪そうな笑みを浮かべていた。


 なんだ…なんか嫌な予感がするぞ。


「じゃあ寝るか!」


 そう言いながら高木は俺の方へと近づいてきた。


「あぁ、まあご飯も食べたし時間も時間だしそうするか」


 時刻は今11時を回っていた。


「じゃあ女子たちおやすみね」


「おやすみー」


「すみー!」


「おやすみなさい」


 さすがに女子たちと寝るところを同じにする訳にはいかなかったので(理性的に)別々にすることにしている。


 具体的に言えば女子3人はすぐ近くの結姫の家に泊まることにした。


 え?じゃあなんでそんなに枕があったかって?……なんでだろうな?


 結姫の家まで女子3人を送って行って家に帰ってから高木と寝ることにした。


 別れる時に高木と胡桃さんが親指を立ててグッドマークをして目配せしていたがそれは今は置いておこう。


 家に帰ると先程までとは一転静かな雰囲気が漂っていた……訳でもなくて高木がうるさかった。


「おい高木、もう寝るからお菓子食べるのやめてテレビ消して布団敷くぞ」


「やーん乃亜お母さんみたいー」


 やけに気持ち悪い声を出した高木を無視して俺は寝る準備を進める。


 そして子供な高木を何とか説得して布団に入った頃には時刻は12時を回っていた。


「はぁ、いつの間にかこんな時間に…」


 胡桃さんは本当にこんなやつ高木琥太朗が彼氏でよかったのか?


 まぁ魅力は人それぞれだしな…


「明日も学祭あるんだから早く寝るぞ」


 俺はそう言って目をつぶった。


 程なくして高木も目をつぶったのか静かな時間が数瞬流れた。


「なぁ乃亜」


 そして高木がゆっくりと口を開いた。


「なんだ?」


 そして高木は言葉を口にする。


「お前さ、ゆうひちゃんのこと好きだろ?」


 はぁ、これは長い夜になりそうだな——

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