第13話 君と朝の日常

「ねむ…」


 俺の一日はこの言葉から始まる。


 眠い目をこすり体を起こす、そして時間を確認し当たりを見回してから一言。


 そうは言っても毎日同じ言葉なわけじゃない。


 時には「ねみ…」だったり、「ねむい…」だったり、「ね……」だったり。


 最後に関しては二度寝してる気がするが気のせいだろう。うん、きっとそうだ。


 そして動かない体に鞭打って頑張ってリビングまで行く。


 そしてそこには天使がいる。


 美しく手を伸ばしても届きそうにないほど高嶺の花の可愛らしい存在。


 その天使も俺が起きてきたことに気づくと振り返って笑顔で言う。


「おはようございます」


 100億点満点の笑顔に侵され大抵の不安事はどっかにすっ飛んでいってしまう。


「おはよ、ねむいねきょうも」


「ふふ、なんか小さい子みたいで可愛いですね」


 最近は起きるとその天使に可愛いと言われることが多い。


 なぜだろうか、心当たりは無い。


「ご飯もう少しで出来ますのであと少しだけ待っててくださいね?」


「うん……わかったぁ」


「ふふっ」


 すると結姫は少しだけ笑うと俺の頭をポンポンと撫でた。


 嫌な気持ちになるどころか少し心がぽかぽかとあったかくなるような気がしたので大人しく受け入れた。


「ほら、着替えてきてくださいね?」


 一通り頭を撫で終えると結姫はそう言って俺を部屋に戻した。


 結姫と話したことによって目が冴えてきた。


 とりあえず今日も学校があるので制服に着替えて再びリビングへ向かう。


「着替えてきたよ」


「あ、ちょうど良かったです!今ご飯でき上がりましたよ」


「おぉー、美味しそう」


「へへへ、」


 俺が褒めると結姫は少し気恥しそうに頬をかいた。


「食べるか」


「そうですね」


「「いただきます」」


 そして2人で手を合わせて朝ごはんを食べま始めた。


「ん、美味しい」


 最初に口をつけた味噌汁は少し薄めの味付けだったが濃い味をあまり好まない俺にとってはとても合ったものだった。


「やっぱり結姫の作るご飯は格別だなぁ」


「えへへ、うれしいです」


 俺が正直な気持ちを伝えると結姫ははにかんでみせた。


 その顔に見とれてしまい少し固まってしまった。


「これも美味しい」


 次に手をつけた目玉焼きは先程よりは少し濃いめの味付けだったがそれもまたそれで美味しかった。


「ん!これご飯進む」


 目玉焼きの味が少し濃かったのはご飯を進ませるためだろう。


 その少しの気遣いは俺にはとてもありがたかった。


「よし、ご馳走様でした」


 全て食べ終わった俺は手を合わせてご馳走様を告げた。


 そして食卓から立ち上がりキッチンまで行くと、結姫の分の食器も洗う。


「いつもありがとうございますね」


「いやいや、それはこっちのセリフだよ。いつもありがとうな」


 2人でお礼を言いあってどこか暖かい空気が流れる。


 季節は夏、人によっては恋の季節でもある。


 俺もそんな季節に出来たらいいなと、そう思うのだった。


♢♢♢


「おーい乃亜!おはよっ!」


「おは…よ?」


 学校に行くと早々後ろから声をかけられたので振り返るとそこには思いもよらない人物がいた。


「ん?なんでそんなに驚いた顔してるの?」


「いや〜、高木かと思っててね」


「琥太郎がこんな声高いわけないじゃんー」


 そう言うと夜宵は笑って見せた。


「おい、あれ雪月さんじゃね?」

「ほんとだ、なんであんなやつと話してんだ?」


 周りにいる人たちの声がうっすらと耳に届く。


「夜宵、何かあった?」


「へ?どうして?」


「や、なんか吹っ切れたように見えるような…気のせいかな?」


「気のせいだよきっとー」


 そうかな?やけに昨日より笑顔が軽くなった気がするが。


 まぁ夜宵が気の所為というならそうなのだろう。


 そして俺たちは他愛もない会話をしながらゆっくりと教室へ向かっていった。


「おっす乃亜」


「おはよ、高木」


 教室に入るなり高木から挨拶の声が飛んできた。


 俺はそれに答えるように手を挙げて返事をした。


「今日は楽しみだな」


「何が?」


 授業の準備をしようとカバンから教科書を出していると後ろで高木が呟いた。


「今日はあれがあるだろあれ」


「?」


「学祭の準備!色々決めるだろ?」


 言われてみればそうだったかもな。


 俺みたいな陰キャはたいして学祭も楽しめないがな。


「そんなに楽しみか?」


「そりゃそうだろ!授業潰れて楽しいことできるんだぜ?」


 あ、そうだった。こいつ陽キャだったの忘れてた。


 何事も楽しめる陽キャ恐るべし。


「まぁ高木が楽しそうでなによりだよ」


「へへへ、凜那りなとも一緒に回る約束してるし楽しみだよ」


 凜那とは学年で一番可愛いと言われている高木の彼女のことだ。


「ちえっ、彼女持ちは羨ましいよ」


「え?でも乃亜にもいなかったっけ?」


 すると突然気味の悪い笑みを浮かべる。


 そして小声でこう続ける。


「こ、お、り、ひ、め」


「ばっ…ちょ、なんだよいきなり」


「べっつにー?」


 高木は楽しそうに声を弾ませて答えた。


 くそ、こいつは俺と結姫の関係(?)を知ってるのを忘れてた…


「彼女じゃないから…」


「じゃあそんな乃亜くんに朗報でーす」


「?」


「学祭2日目と3日目は学校外の人も呼べてなんと3日目の夜には花火も打ち上がります!」


「!!」


「ま、あとは頑張れよって感じ」


「はは、ありがとな」


 なんやかんややる時はやる優しい良い奴なんだよな、高木は。


 高木に感謝しつつ今日の夜結姫を誘ってみようと決意した。


 学祭、いい3日間になればいいな。

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