「難攻不落の氷姫」と呼ばれる他校の美少女に傘を渡したらなぜか養ってもらうことになった
星宮 亜玖愛
プロローグ
俺の名前は
急な話になるが正直言って俺はこの名前が嫌いだ。
なんでかって?それを話せば長くなるけどまとめるならこの中性的な…というより女子のような名前をいじられて虐められていたから。
でもそれも小中学校まで。
今では名前でいじめられることはなくなった。
まぁ高校生にでもなればそんな幼稚なことでいじめる人なんてそうそういない。
かと言って俺が陽キャの人気者になった訳でもない。
人間関係とかその他もろもろめんどくさくなったので学校ではなるべく人と関わらないようにして、数多くいるうちの一人として日常の背景に溶け込んでいった。
そんな日常でも友達ができないわけじゃないしそこそこ楽しい毎日を過ごしている。
「なぁ乃亜、あの噂知ってるか?」
そう言って顔を近づけてきた彼は俺の数少ない友達である高木だ。
下の名前は分からん。
というのは冗談で本名は
「何?」
「あの隣の高校の『難攻不落の氷姫』」
なんこうふらく……
「なんだそれ」
「え、乃亜知らないのかよ」
驚いて若干引き気味の高木。
そんなに有名な話だったのか?
「なんだよそれ」
「隣の
「へー、生憎俺はそっち方面は興味無いもんでね」
思ってた以上に興味のない話題だったのでスルーする。
「でも絶対に誰にも靡かなくて男の影すらないんだって」
まだこの話題続けるのかよ。
「うちの学校のイケメン筆頭の
ほう?それは興味が湧いてきたな。
「詳しく聞かせてくれ」
「ははは、やっぱ乃亜はスキャンダル系の話になると興味津々だよなー」
そう言って高木は笑みをこぼした。
「情報は身を守るって言うからな」
「堅物だなぁ」
そう言ってまた高木は笑みを浮かべた。
「まぁなんだ?宮舘はいわゆるナンパをしたらしいんだけどその断られ方があまりに酷いもんでな」
俺は相槌を打って続きを促す。
「『私あなたのこと知らないので無理です』とか『あなたは私に興味があっても私はあなたに微塵も興味が無いので』だとかね」
「ふ〜ん?なかなか面白いな」
「今までチャレンジしてきた男たちは沢山いるらしいけどまだ名前すら判明してないんだとよ」
「なかなかだな」
「ま、あの宮舘で無理ならこの学校であの氷姫を落とすことが出来るやつはいねぇだろうな」
そう言って高木は頬杖をついて窓の外に目を向ける。
「高木イケメンなんだから意外といけるかもよ?」
憎らしいことだが高木は凄くイケメンの部類に入ると思う。
髪は短髪で清潔感もあるし俺にもそうしているように誰にでも砕けた態度で接するところとか女子ウケがいいしな。
そのくせ俺に彼女欲しいだのなんだの愚痴ってくるのはやめて欲しいけどな。
「あー、実は俺彼女できたんだわ」
は?
「ちょっと待て、俺の聞き間違いかもしれん。いや、きっと聞き間違いだろう。もう一度言ってくれ」
「だから、俺彼女できたんだよね」
マジか……
「マジか……」
「え、そんな意外だった?」
「いや、まあ」
高木は彼女欲しい欲しい言って自分では一切動かないタイプだと思ってたからな。
「なんか今酷いこと考えなかった?」
「気のせいだろ、で?お相手さんは?」
「3組の
おいおいおい、3組の胡桃って言ったら学年で1番可愛いって言われてる
「そうかそうか、つまり君はそんなやつだったんだな」
「急なエーミールやめて」
「懐かしいなエーミール」
確か中2くらいの国語の教科書に載ってたはず。
「え、もしかして今日の午後遊べなくなったのってそれ理由?」
今日はなんで分からないけど午前授業だったため午後から高木と遊ぶ約束をしていた。
…のだがそれを3日前ドタキャンされたのだ。
「うん」
「浮気された人の気持ちってこんな感じなのか…」
「やかましいわ!てかいつ俺と乃亜付き合ってたんだよ」
「たしかに」
そう言って俺たち2人は同じタイミングで吹き出して笑い出した。
♢♢♢
「なぁなぁ聞いたか?今朝あいつが氷姫見たんだって!」
「へー!いいなぁ!」
帰りのホームルームの後、荷物をまとめているとクラスの男子たちの会話が耳に入った。
そんなに噂になるくらいなら1度見てみたいもんだな。
まぁ見たところでなんだけどな、自分のものにできる訳でもないし。
あんまり学校に長居するのも嫌だしさっさと帰るか。
学校を出て駅までの道のりを歩きながら思考を巡らせる。
それにしてもそんなに可愛いならどっかの事務所入っててもおかしくないけどな。
……いや、『難攻不落の氷姫』なんてあだ名つけられるくらいだからその手の誘いも全部断ってんのか。
んー、そこまでなら何かありそうだけどな。
そんなことを考えていると駅に着いたようだった。
ま、どうせ関わることもないんだしそんなこと考えてても無駄か…。
そう割り切って俺は改札を通り抜けた。
電車で揺られること15分、自宅の最寄り駅に到着した。
「はぁ、暑苦しかったな」
電車の中にいた時は外が丁度見えない位置にいたので雨が降っていたかどうかは分からないのだが人が乗ってくるにつれ湿気が増していったような気がしたので雨が降っているだろうなとは予想していた。
「大雨じゃなければいいな」
一応折り畳み傘は持ってきてはいる。
だが、いくら傘があると言っても大雨は憂鬱だ。
大雨じゃないことを祈りつつ外に出るもその祈りは無惨に砕け散ってしまった。
「あーあ、大雨じゃん」
かと言ってこれしきでタクシーを呼ぶ訳にも行かないので大人しく傘をさして帰ろう。
そう思って傘を取りだした時視界の端にふと天使が舞い降りたように錯覚した。
いや、錯覚ではなかったのかもしれない。
そう思わせるほどに
あぁ、これが高木の言っていた氷姫か。
直感的にそう思った。
それほど、彼女の美しさは抜きん出ていた。
「はっ…」
ふと我に返った。
今更ながら知り合いでもない女子の顔をまじまじと見るのは失礼すぎる。
申し訳ないことをしたな、さっさと帰るか。
そう思っていた。
だがその思いも彼女が発した次の言葉に全てかき消されてしまう。
「雨、やまないかなぁ」
いつもの俺ならそのまま知らぬふりをして帰っていたかもしれない。
だが俺の目には彼女の表情に不安と焦りが見えた。
恐らく急ぎの用事でもあるのだろう。
もしかしたら嫌がれるかもしれない、俺の助けなんて必要としていないかもしれない。
そんな思考が頭を駆け巡り不安になった。
でもこんなことで逃げてるようじゃあの時と変わらないじゃないか、そう自分に言い聞かせて。
「あの……」
「なんですか?」
思い切って話しかけると彼女は首を可愛らしく傾げた。
こういうところが世の男子を夢中にさせるんだな、と思いつつ話を続ける。
「傘、ないんですよね」
「まぁ、そうですけど……」
彼女は一向に警戒心を緩める気配は無い。
「もし良かったらこれ使ってください」
そう言って俺は右手に持っていた折り畳み傘を彼女に差し出した。
「もしあれだったら捨てても構わないので」
「え、でもそしたらあなたは…」
「俺は大丈夫です、なんていうか雨に当たりたい気分?だったので!」
それでは、と言って俺はその場を逃げるように雨の中に飛び込んでいった。
あまりにも酷い言い訳だったがこれでいい。
どうせもう関わることは無いのだ。
だから別に今どう思われようと俺には関係の無いことだ。
そう思っていたんだ、この時までは。
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