第25話 親友

 【ナイトキャンサー】との戦闘から一週間が経過しようとしていた。

 現在、新たにフレンドとなった、ルークこと【ブラックルーク】と共にホルヴァ系第五惑星【カジリ】の攻略を始めている。

 この【カジリ】と言う惑星は、ここ第二星系であるホルヴァに於いて第六惑星に次ぐ難所として知られている。その所以は、【カジリ】独自の環境にあった。

 【カジリ】の表面は砂や岩石に覆われており、雲が無い。従って気候の変動が存在せず、植物は限りなく少ない。昼夜の気温の変化も、現実なら生身の人間は適応できない環境だ。それに比例して、原生生物の数も少ない為、レベル上げには全く向いていない。だが、この過酷な環境下で暮らす原生生物は逞しく、危険度の高いものが多い。遭遇する敵性生物は、全て中ボスクラスだと思った方が良いくらいだ。

 そんな危険な惑星で、俺とルークはテラスで優雅にお茶をしていた。


「ふぅ。このゲームに暑さの概念が無くて助かったぜ」


 【カジリシティ・ベータ】への旅が終わり、旅の疲れを癒やす為、町一番のカフェに足を運んだ。俺はチーズケーキを、ルークはドーナッツを摘まみながら茶を飲む。

 ToGに空腹感は実装されてはいるが、別にここで食べても現実には反映されないし、この与えられた空腹感もゲーム内の体力が回復してしまえばどこかへ消えてしまう。

 いつかの日に、とあるフレンドがこの空腹感に対して不便だと言っていた。今になってみれば、確かにここまで再現する必要があるのだろうか。


「一応、設定的にはスーツがそこら辺の諸々を防いでくれてるらしい」

「へぇ~。詳しいんだな」

「まあ、情報だけは持ってるから」


 コーヒーカップに口を付けたルークは、何かを思い出したのか、中の液体を飲まずにカップから口を離した。


「そう言えばさ」

「ん?」

「さっきの戦闘の時、凄い痛そうにしてたが大丈夫か?」


 しまった……。

 この町に入る直前に、二足歩行のサソリとの戦闘があったのだが、その戦闘中、奴のハサミに左肩を撫でられたのだ。

 幸い、痛みはすぐに引いたのでルークにはバレないだろうと思っていたのだが、ほんの一瞬、俺が左肩を抑える仕草を彼は見逃していなかったようだ。

 さて、どう返すべきか……。

 正直に話すことも出来るが、それを信じてもらえるとは思えない。しかしかと言って気の所為だとか、そう言うで遊んでいるとは俺の性格上、言いにくい。


「ロールプレイをしているようには見えなかった」


 マジか……。演技か演技じゃないかを見極めれるのか?

 ルークの表情は真剣だった。

 これは完全に詰みだ。観念して正直に話そう。


「実は……俺、痛覚があるんだ」

「……それは、嘘じゃないよな?」

「ああ。それともう一つ。俺のこのキャラクターは二つ目なんだ」

「二つ目? サブ垢か?」

「いや。前のアカウントのデータが消えたから、新しく作り直したんだ」

「HMDでデータ消去……?」


 ここまで話を聞いたルークは何かを悟った。自分の胸の前あたりの空間を指でつつく様な仕草を見せる。それは俺にパーティーVCに切り替えろ、と言うジェスチャーだった。


「痛覚のことは運営には言ったのか?」

「言ったよ。でも存在を否定された」

「なるほど……。それもそうか。どちらにせよ、運営としては否定しないといけないからな」

「でも確かに感じるんだ。信じてはくれないだろうけど……」

「信じるさ。カズみたいな奴は現実で嫌と言うほど見て来た。むしろ、カズは頑張ってる。俺だったら耐えられない」

「ルーク……」


 嬉しかった。このゲームで初めて自分の事を理解してくれる友人が出来たことに、心から嬉しさがこみ上げてきた。


「それはいつからなんだ?」

「このキャラになってから」

「つい最近か? 突然?」

「そう、突然」


 うーん、と二人して頭を悩ませるが、やはり答えは出ない。


「なあ、カズ。なんでこのゲームやってんだ?」

「へ?」


 突然の脈絡の無い質問に素っ頓狂な声が出てしまう。


「勘違いするなよ? 嫌味で言ってる訳じゃ無いんだ。ただ痛い思いをしてまでゲームをやるのは何故かと思ってさ」

「あー、そゆこと……。う~ん……。詳しくは言えないけど、人を探してるんだ」

「それは奇遇だな! 実は俺も人を探してるんだ」

「そうなのか! それはどんな人なんだ?」

「いやぁ、それが名前も見た目も分からないんだよ」

「は? それでどうやって探すんだ?」

「それっぽい人を総当たりする!」

「なんと非効率……」

「でもそれ以外にやり方が無いんだよ。そういうカズはどうなんだよ」

「俺はそこら辺は分かってるから。ただ何処に居るのか見当がつかないんだよなぁ……」

「そうか、お互い難儀してるな……」


 そう言って男同士のお茶会はしみじみとした雰囲気で終わった。



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