第24話 配信で初めて見せた〈味覚〉の使い道
「ギャハッハッ! 聞こえてんだろ視聴者どもぉ!?」
空とコメントを交互に見つめて約2分過ぎ去った。
如月は腹に穴を開けられたときのように、耳に魔力を集中させることで、耳から垂れる血も止まり、ようやく聴力が戻ってくる。
「お、ちょうどいい。ボクの話を聞いてくれよ。まずは君が創ったこのダンジョンについてだ。ボクが生まれたのは君のせいなんだ。君が、
「それで最近ちょっと知能を持つ魔物が現れるようになってたのか。それと……やけに配信を意識してるんだね、モンスターなのに」
如月がそう言うと、人狼は口角を上げながらスイカを指差してその理由を告げた。
「お前はボクなんだ。お前がこの女の真似事をするなら当然ボクもそれをするに決まってるだろ?」
あまりにも馬鹿馬鹿しい理由に笑ってしまうのを必死に堪えつつ如月は言い返す。
「それが人狼の考え方……所詮魔物か。そんなこと言っちゃったらもう如月絃でもなんでもないじゃん」
「はァ……それは逆だ。君達がボクら魔物を理解出来ていないのだよ。別に君である必要性はない」
「そういうわりにキズラキ君の体をまだ維持するんだねー?」
唐突にさっきまで黙って聞いていたスイカがぶっこんでくる。
そして、その挑発に乗っかった人狼はさらに体を変形させていき、月の光が完全体になった姿を照らした。
《本物の狼そっくり……》
《絶体絶命すぎるよ……》
《お願い死なないで》
恐怖に怯えるコメントを眺めながらも、スイカのファインプレーに感謝の意を示す。
彼女のおかげでこいつにはかなりの隙が生まれたのだ。
スイカも如月の目的を理解しているかのように斧を構え、人狼が連れている魔物達と戦う姿勢を見せている。
「ああ、ボクの仲間達と戦いたいのかい? そうだった、君は戦闘狂でもあったか」
「そっちはキズラキ君に任せようと思う! それに……スイカはこっちと戦う方がワクワクしそうだなって!」
「薄情だねえ、そっちの方が撮れ高があるならしょうがねえよなァ?」
しかし、そんな安い煽りに彼女は乗っからない。
(徹底してるなあ……)
如月もじっとその瞬間を待ちわびて、三人での会話を引き伸ばし続ける。
「そりゃ君を倒すよりも派手だからね、僕だってそうする」
「よく言うぜ。お前らはボクに攻撃すら与えられないじゃないか」
「人狼君、いいから魔物と戦わせてよ!」
「……どうしてだ?」
スイカの言葉に何を思ったのか、直前まで軽く押さえていただけの腕に力を込めだして胸を圧迫してきた。
「……殺してやれ、そこの売女を」
奴の号令とともに、彼女の前方からおびただしい数の魔物が突撃を開始する。
「【ウェポンブースト】!」
相変わらず彼女はカメラを手から離さないまま斧を強化し、反撃を行った。
これでようやく人狼と一騎討ちの勝負になる。体勢的にはだいぶ劣勢の状況だが、勝機は存在していた。
そのうち徐々に苦しくなる呼吸に限界を感じて、一か八かの賭けに出る。
失敗したらただごとではないが……やるしかない。
「殺してやるッ」
ライカンスロープが怒りに身を任せて指先に力を入れた瞬間を見計らい、如月は【五感強化】を発動する。
まず身体能力を上げるために〈触覚〉を、そしてチャンスを確実なものにするために〈味覚〉を強化し、その勢いで跳ね上がった。
「死ねッッッ」
鋭い爪が心臓を貫き、想像を絶する苦痛に襲われる。
けれども、これなら如月の攻撃を避けることは出来ない。如月はライカンスロープの肩に噛みつき、肉を喰いちぎった。
――〈味覚〉強化ならば、ある程度腐っていようが生だろうが消化出来る(原理は分からないが)。
それが、如月が唯一出来るアイデンティティの1つなのだ。
動揺している人狼を押し退けてふらふらと如月は立ち上がった。
「新鮮な肉は美味しい〜なぁ!」
「心臓を貫いたのにどうしてピンピンしてるんだ……?」
今でも胸の痛みが残っている。が、かろうじて一度貫かれた心臓は自らの回復魔法によって全快し傷跡も残っていない。
正直意識が消える寸前ではあったが、成功すると確信していたからこそ恐怖はなかった。
「これが僕だ。お前みたいな偽物じゃ決して辿り着くことが出来ない領域……その剣も本当は偽物で皮膚の一部なんだろ?」
「……けっ」
如月がそう言うと、人狼の握っていた剣は形を変えて消滅する。
チャット欄も今までにないほど困惑しており、初めてスイカと出会ったときと同等の速度で盛り上がっていた。
《グロ注意や》
《うええええええ肩を食べてるーーー!?》
《ほぼカニバリズムと変わらないわ……》
《いやいや魔物だろ? 魔物を食う奴はたまーにいるぞ》
《そういう問題ではないwww》
《生は危険だぞ! 吐き出せ!》
《す、すごい……正真正銘『攻略』してる……》
その光景は人狼側でも視認出来たようで、コメントを睨んで吠え散らかす。
「見る目が……ない……」
如月はその弱っている様子を見て、さらに言葉で追い打ちをかけた。
「僕を殺した先に何が待ってると思うんだ? 君はここから出られないというのに」
「出なくていい。ここで一生……頂点に居続けてやる……」
その言葉は、かつての自分自身が言いそうな台詞だった。
そんな過去の自分を否定するためにも、ここでこいつを倒さなければならない。
「頼む……
如月は焦りを見せる人狼に、鋭利な剣先を向けて言い放った。
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