キズラキとスイカと???編

第8話 コラボすると色々美味しい作戦会議

「……あのスイカさん。何で配信も付けずにこんなところに?」



 配信終了から30分後、二人は魔物だらけの高層ビルモンスターハウスの中で息を潜めていた。


 それを提案したのはスイカの方で、訳もわからず案内させられた如月は未だに困惑したままだ。



黒金くろかね水華みずは。それが私の本名だよ、配信外では水華みずはとか水華ちゃんって呼んでほしいな」


 簡単に本名を告げられ、思わず驚き声を上げそうになるが何とかこらえる。


 黒金水華――それがスイカの本名のようだ。


「それと……配信を付けたら明るくてバレちゃうからね。キズラキ君のカメラ、気にしないよう戦ったらどれだけ強いのかも気になるし」

「そうですか」

「作戦会議も同時進行ね? その感じ、配信する前まで寝てたでしょっ?」

「まあ、まだ眠くないです」



(配信がなくても水華さんに注目しちゃうな)



 まあ話ながらの戦闘も気にならない、わざわざ言う必要もないと判断し黙って首を縦に振る。


「……水華さんはまだ寝てないみたいですね。食料はどうするつもりなんですか?」

「私の【能力】は四次元空間のおまけ付きみたいなものなんだ。そこにざっと1ヶ月分の食料が入ってる」



 【能力】にも当たり外れがあるというが、彼女の【能力】はかなりの上玉みたいだ。


 過去に調べた有名な【能力】リストでも、ここまで強力な複合型を見たことがない。


「キズラキ君はどうやって1年も生きてきたの?」

「〈味覚〉を強化したら意外と消費期限が過ぎてても食べられるんですよ!」

「えぇ……?」


 初めて見る彼女の戸惑った表情に少々驚いたが、お互いの【能力】に対して考えることは同じことなのだろう。


 気を引き締めて魔物の気配を探り直す。


 現在の階層は四階、ここより下の階層には魔物はいなかった。


 以前襲撃したときは一階から八階までびっしりモンスターで埋まっていたのに、二度目はここまで少なくなるものなのか。



「どんなモンスターがいるのかな、ここには」

「ここは――が常に湧き続けてる」


 ゴースト――それはこのダンジョンにおいて最弱の存在であり、最も厄介な魔物だ。


 単純な物理攻撃は通らず、視認性しにくく配信ウケも悪い。



 何より攻略者にとって最も厄介なのは、奴らの顔面が人間そのものであることだ。


 少しでも同情や躊躇してしまえば一撃で敗北する可能性のある、危険度が高い魔物である。


「アァ……ァ……」

「気付かれちゃったね」


 ゴーストはこちらを目掛けてゆっくりと向かって来たが、水華はじっと如月の行動を監視するだけで微動だにしない。


 仕方がないので剣を握って戦闘を開始した。


「朝起きたらどうする? キズラキ君が行ってた場所はどうやって向かう?」

「ダンジョン内をアナログ時計で例えるので聞いてください。今いる場所は『6』です。僕達はこれから『11』に向かって時計回りで中心を目指します……オラッ」



 物理攻撃は通用しない……ゴーストに効くのは魔法攻撃だけ。


 だが、不幸にも如月は魔法攻撃が行えない。


 だから彼は、しかないのだ。

 故に、普通の魔物と戦うよりも体力の消耗が激しく疲労が溜まりやすい。



 武器が壊れたらまた創るよ、と呑気そうに話を聞いている水華を、眺めながら戦う余裕はあるのだが。


 それにしてもこの剣は強度が高い。

 これだけ斬りつけても刃こぼれ一つ起こさないのは流石の能力だ。



 おかげで数十体を相手してもストレスを感じない。


 淡々と二人で作戦会議を続けながら、如月はゴーストを倒していく。


「エリアごとの特徴とかはあるの?」

「あります。例えば真隣の『7』は比較的強いモンスターがいませんし、『5』なんかはほぼ平和みたいなものです」

「なんで中央まで行くのに一旦遠回りして『11』から入るの?」


 予想通りの質問に対し、ニヤリと笑いながら説明する。


「一回だけ試したんです。中心を通って反対側に向かってみたら、とんでもないことになりました。狙われるんですよ、魔物から」

「なるほどね、だから向かうのは危険なんだ」

「遠回りするのは『11』が一番魔物が少ないし、隣接するエリアもほぼ脅威じゃないからですね。じゃあなんで『6』から中央に直行しないのかは、ゆっくりと移動してきているからまだ僕を追いかけてきている魔物が付近にいるからです。今から数日で『11』に行くことで魔物を引き剥がします」



「なんか……色々と考えてるんだね」


(どういう意味で言ってるんだろう)



 少し小馬鹿にされたような気もするが、気にしないでおこう。


 ゴーストの数が減りだし死の脅威が薄れてきた頃に、こっそり彼女に聞きたかったことを聞いてみる。


「なんでこのダンジョンに来たんですか? 1年間誰も足を踏み入れなかったのに」

「それだよ。誰も挑戦しなかったから挑んでみたの。どんな高難度でも挑戦する……それがスイカだから」


 ニカッと笑う彼女の目に嘘はない。


 他にも聞きたいことはあるが、あまり踏み込み過ぎると地雷を踏んでしまう可能性がある。


「う……アァ……」

「あ、最後の一匹。馬鹿みたいに四階に雪崩れこんできてくれたおかげで全滅させちゃったか……」

「……うん、凄いねキズラキ君。私の想像の何十倍も強いよ! 配信でみんなに見せるべきだったかなあ……?」


 たった一匹のゴーストは、まるで人間のように涙を零し顔を歪ませている。

 けれど、何も躊躇うことはない。


 コイツは魔物だから。嘘の感情なんかに誤魔化されるかよ、と重い剣を振り下ろした。



 魔力の衝撃で肉体が形を失い、煙となってゴーストは消えていく。


 コトリ、と金属音とともに小さな缶詰をモンスターは落とドロップしていた。


 貴重な食料をそっと拾い、賞味期限を確認する。



「ほぼ1年前か……食えるな」

「いやいやいや危ないよ!? 君は気にしないかもだけど!!」

「とりあえずご飯食べませんか? 水華さんも食べ物あるんですよね?」



 水華は少し引いているようなリアクションをしながらも、問題ないかと言いだしそうな表情で、如月の隣に座り込んだ。


 そして彼女は異空間から巨大な水入りペットボトルと肉の缶詰を取り出す。



 水華の【能力】――【武器創造】から創られたを貰い二人で夜食を食べ始めた。



「お、珍しく中身が魚だ。いただきまー――」

「――キズラキ君、お魚少し貰ってもいい? 私のお肉ちょっと食べていいから」

「ああ……いいですよ」


 そうしてお互いの食料を分けあい、無人のビルの中で二人は静かに食事会を堪能していた。

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