ダンジョンから出られず1周年、人気美少女配信者が攻略しにきたようです
伽藍
如月と金髪ツインテ
第1話 孤独の配信者、照らされる
「どもども〜……もう見えてますよね? これからいつものモンスターハンターやりまーす……」
独り言をブツブツ呟きながら、浮いているドローンのカメラに向かって手を振る配信者──
突如として自分が暮らしていた都市一帯がダンジョンと化し、かつては地元で一番の賑わいを見せていた歓楽街も今では過去の物となってしまった。
両親はおろか、ダンジョン区域には人の気配すら残っていない。
しかし、そんな状態でも彼が発狂せずにいられるのは配信のおかげだ。
「寝起きだけど……行けそうだよ。準備体操は配信前に済ませてるから」
配信をすれば人が見にくる。そうすることで誰かが自分を見つけるかもしれない。
ダンジョンの中を配信すれば何とかなるはず――だが、現実はそこまで甘くなかった。
ダンジョンになる数日前に姉から貰った球体型の全能ドローンを使い、生存者の確認と外へのSOSを行ってみたものの、視聴者はたった2人。
一人は常にコメントを打たずただ見ているだけの人で、もう片方はというと……
《おはよう。今日も可愛らしいですね@姉》
この古い文化のノリをそのまま持ってきたような、ちょっと古臭いコメントが、如月の姉だ。
如月はそんないつもどおりの光景に少し安堵しつつも、最早誰が使っていたか分からないビルのベランダから地上の様子を確かめる。
「見えますか? あれはゴブリンの群れです。多分僕が色々と食べ漁ったので匂いに気付いて集まってきたのでしょう。なので……今から討伐します」
如月は相棒のバットを持ち構え、ドローンに指示を与える。
すると、何の前触れもなく地上に如月絃の姿が現れ、それを見たゴブリンの群れは一斉に襲いかかった。
「グガァッ!?」
だがゴブリン達はうめき声を上げ、困惑した様子で辺りを見渡しはじめる。
それもそのはず、脳みそが小さな魔物達は目の前からいきなり人間が消えたことを処理出来ないのだ。
もしも彼らが人間であるなら、それが現実の物ではなくホログラムだったと理解出来るのだが、仕方ない。
奴らの警戒が薄れたチャンスを見計らって、如月は仕掛ける。
少年はビルから飛び降り――大体5mくらいだろうか、普通なら怪我を負うかもしれないがこれが日常である彼は痛みすらも感じていない。
ゴブリンの隣に落下したと同時にバットを勢い良く振り抜き、緑色の血液を辺りに飛び散らせる。
何体かは直接当たってすらいないのだが、彼らは衝撃波によって身体を裂かれたのだ。
そうして一匹残らず魔物達は如月によって殺害された。
「……ゴブリン達はドローンが投影したホログラムに騙されてました。そこを僕が襲って……全滅でーす。みんなどうだった?」
《今日もカッコ良かったですよ@姉》
視聴者の反応を窺ってみるが、それでもコメントは増えない。
相変わらず新規の視聴者は0のようで、頭を抱えながらそっと配信を消そうとしたその時だった。
《初見です。このダンジョンってどこですか?》
「……っ」
初めて見る姉以外のコメントに一瞬たじろぐ素振りを見せたがすぐに切り替える。
――視聴者数も3人に増えている、間違いない。
「あー、ダンジョンっていうか大迷宮というか……出方が分からないんだよね。あ、如月
滅多にない機会だ、ここを逃せばまた脱出までが遠のく。
藁にもすがる思いで身の上を明かしていると、また同じ人からコメントが書き込まれた。
《どのダンジョンか分からないけどそういうの辞めた方がいいですよ》
「……は?」
思いもよらない言葉に如月は返答に困ってしまう。しかし、そんなことも気にしていないのかコメントは止まらない。
《ダンジョンで生活する意味が分かりません》
《学生ですよね? その格好は危険すぎませんか?》
《そもそも資格持ってるんですか? 仮にA級ダンジョンなら逮捕されるかもしれませんよ》
たった一人の連投に効いてしまい何も言えないまま時は過ぎ、周囲に視線を向けて見ないでいるうちに、気が付くと視聴者数はまた2人に戻ってしまっていた。
「はあ……」
深くため息をつき、次の安全地帯を思案しながら考える。
(この生活いつまで続くんだろう……)
それに、いつ配信が出来なくなるかも分からない。
唯一外部に繋がっているものを失ってしまったらどうなってしまうのか、あまりにも想像に容易いだろう。
《いつでも応援してるよ@姉》
《それと、今日だよね? おめでとう@姉》
「ああ……覚えてたんだ」
姉のコメントを見て、如月は落ち着きを取り戻した。
彼にはこんなことがあってもなお配信で言わなければならないことがあったのだ。
「えっと……今日でチャンネル開設1周年! おめでとう〜……」
そして如月は尻すぼみになっていく声で祝う。とは言っても、ともに祝う視聴者は結局2人だけなのだが。
《1周年おめでとう。頑張ってね@姉》
《今日は配信終わりですか@姉》
(そろそろ配信を終わる時間か。ただ、今日は一応記念日だしもう少し配信してみようかな……)
「あー、まだ配信するよ。折角だし……元々人気だった場所にでも行こっかな」
そう言って如月はおもむろに方角を変え、ダンジョンの最南を目指した。
彼が目指した場所は、東京まで直通の比較的新しめの駅だ。
そこはダンジョンと外の境界線付近、ただし外の景色は見えない。
「……出る方法くらい誰かは教えてくれてもいいじゃん……」
歩いて駅に向かう最中、カメラに乗らないギリギリの声量で呟いた。
これ以上、数少ない視聴者に弱音を吐いている姿を見せたくないのだ。
だからこそ、如月絃は取り繕った。
決して辛くはないのだと。
「うわ〜この駅懐かしいかも、三ヶ月ぶりかな? ほら、あの屋根を見てよ。何故かあの部分だけ金色に染まってんだよね〜」
そう言いながら如月は駅のホームの屋根を指差す。
大して珍しくもない物を必死にアピールして視聴者に興味を惹かせる。
だが、彼が指したその屋根は瞬きをする間に鈍い音を立てて崩壊してしまった。
「……はぁ!?」
白煙の中から香る獣の匂い。すぐにその大きな身体は姿を表した。
「ドラゴン……!? 最近見ないと思ってたら……ここに巣でも作ったのか!?」
なんてことだ、ドラゴンは全滅させたのではなかったのか。
「グァァアアアアッッ!!」
ドラゴンの咆哮に全身が痺れたような錯覚を起こす。が、まず第一に如月の視界は異様に目立つ奴の前足を捉えていた。
それは明らかに、人間の形をしている。
ドローンも自動的にその姿の追尾を開始し、配信画面にもそれが映し出された。
《人間じゃない?@姉》
「……あなたは僕が助けます! だから諦めないでください!」
如月の声を聞いた身動きが取れない人間――彼女は顔を上げ、彼の顔を見つめる。
長い金髪の隙間から見える端正な顔立ちの女は久しく見ていないとはいえ、彼にとってはあまりにも現実味が足りていない。
夢かもしれないと思いつつも一瞬だけカメラの方を見てはすぐ視線を戻し、バットを強く握り直す。
「……別に助けようとしないでいいよ!」
ただし、彼女の返答は如月にとって想定外のものだった。
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