第20話 此岸発掘同盟結成

 リーダーたちは集まると帰る方法を津軽に尋ねた。婆さんは皆に語った。

「虹の七鬼を発掘しろ」

 津軽の説明では、此岸には虹の7色と同じ色した鬼の首が埋まっていて、その七鬼を全て発掘して祭壇に祀れば帰れるらしい。七鬼も祭壇も此岸山にあると強い語調で語る。


「また首か……。その七鬼っていうのはなんだ?」

「もうお前さんは見ているよ。さて、虹の七鬼について話をしようかね。最近閻魔に逆らって打首になった鬼どもで、虹の7色をしていたからそう呼ばれているのさ」

「それがどうしたと?」

「古家院、話を最後まで聞かんか。その打首になった七鬼の首を此岸山に埋めたのが悪かった。怨霊が原因で恐山から三途の川までつながり、一般人もこの此岸まで入ってくるようになったからだ」


 津軽は目を閉じコーヒーをのんでむせた。咳き込みながら、懐からコンパスを取り出し根蔵へ手渡す。

「そのコンパスの針の黒い方が指す方角に此岸山がある。七鬼を全て見付けたらあたしに言いな」

「おい婆さん、何度も往復しろってか?」

「怠ける気かい? 科学小僧」

 津軽は和傘で古家院の頭をつついた。


 津軽はリーダーたちへ命じた。

「お前らは同盟を結べ! いいな!」

 やはりというか返事がない。我の強い発掘隊のさらにリーダーばかりだ、渋い顔をしている。すると婆さんはさらに厳しく命じる。

「同盟を結べ! じゃないと彼岸送りになるぞ!」

 皆、渋々同盟を結ぶことを承諾した。

「なんて名前の同盟にする?」

 皆に意見を伺う根蔵。

「此岸山発掘同盟でいいんじゃないか? 略称は此岸同盟でどうだ?」

 いつも古家院が名前をつける。そして、皆納得をする。


「いいかい? 小僧小娘、七鬼は此岸山のどこかに埋まっている。その内の1つはすでにここにある」

 驚きの声が上がる。

「まあ、待ちなさい。根蔵、あんたが持ってきた橙色の首は七鬼の内の1つ、橙鬼さ」

「あれは七鬼だったのか」


 婆さんは食事を振る舞う。出されたのは、三途の川で採れたての人面魚を塩焼きにしたもの。さらに、奇妙な肉に、バケノコというタケノコによく似た野菜まで出てきた。

「これ食えんのか?」

「じゃああんたは食わなくていいよ」

 婆さんの意地悪に青筋が立った古家院は愛想笑いを浮かべ、いただきますと手を合わせた。


 誰もが遠慮なく食べる。あれだけあった食べ物も数分で姿を消す。食べ終わると、津軽は戸を開けた。


「さあ、行け!」


 此岸同盟は小屋を出発した。コンパスの黒い針が指す方へと歩いていく。


 やがて、此岸山が見えてきた。山肌は岩が非常に多く、山の稜線は急であった。此岸山へ登る前に、鬼の首がある位置を大体把握できないか相談をした。


 古家院が提案をする。

「おい! 沈芽、お前確か包丁で目標物を探していたよな」

「ええ」

「ならば、残りの鬼どもの場所を特定してくれないか?」

「無茶を言わないでよ。あの発掘法すごく疲れるのに」

 あてが外れて口を噤む古家院。その両肩を獣川と服部がそれぞれポンポンと叩く。

「おいらの大自然発掘法なら大体のエリアを絞れるぞ」

「忍術を使えば、地脈を辿り化石の位置を把握できる」

「おお! お前ら!」


 大自然発掘法は、自然と調和をすることで非常に大きな範囲を探索できる。

 忍術発掘法の1つは、大地に耳をつけることで大地の流れを聞き取る探索法だ。

 どちらも超広範囲を探索できるが、問題は大雑把なところであった。

「ただし、おいらの発掘法は範囲の中にあるかないかを把握するだけなんだ」

「拙者の場合は、大体の方角が分かるにすぎん」


 手探りで探す手間が省け喜ぶ古家院。

 まずは、大自然発掘法で山手前側の全体の四分の一を探索した。

「あるよあるよ! 幾つかまでは分からないけど」

「ならば次は拙者に任せよ」

 大自然発掘法で狭めた範囲内の大地の流れを耳で聞いた。大地に耳をつけて意識を研ぎ澄ます。大地の中を流れる気を辿り、幾筋かの線を見付けた。

「わかり申した。この範囲には3体の鬼が眠っておる」

「でかした!」

 活躍した両少年の肩をポンポンと叩く古家院。


「それじゃあ、登るか」

 根蔵がそう言うと皆、山へ足を踏み入れた。


 此岸山入るとすぐに見えてきたのは断崖絶壁の崖であった。崖は折り重なる地層から岩がところどころに飛び出している。

「いた、ここだ! ここに黄鬼がいる!」

「なんや! ……黄鬼や間違えないで!」

 根蔵の霊視で鬼の霊が漂うのを発見し、斑鳩の透視で正確な位置を把握した。


「あんなところにか……」

 その位置は高層ビルの10階位はあり、あまりに高所だったため、古家院も戸惑った。


 自分に任せろと胸を張って崖の前まで出た獣川と服部の2人。

「おいらならこの程度の崖を駆け上がるなんて訳ない」

「拙者にとってもこの程度は高所とは呼べぬ」

 同時に出たため、争うようにして自分が行くと言い張る。

「いや、2人で行け」

 古家院が2人で行くことを勧めたので、嫌々ながらも協力して発掘することにした。


 少年たちは、どちらも俊敏に崖を駆け上がる。だが、その性質はかけ離れていた。獣の如く荒々しく、崖の迫り出した所を腕で掴みながら駆け上がる獣川。蛇のように柔軟に足場から足場へ飛び上がる服部。目的の場所まで僅かに先に辿り着いた服部。

「ここでござるな!」

「おめえ、先に着いたからって調子に乗るなよ!」


 少し諍いがあったが、平坊主が穏やかにと合掌し諭すと渋々協力する。2人の発掘道具は独特であった。

「拙者は崖を掘る。そなたには掃けを頼もう」

 背中の風呂敷からくないを取り出し両手に構えると、服部は崖に突き立てた。

「いいや! おいらも掘る!」

 毛皮の中から何かを取り出す。それは白い獣の牙であった。牙を両手に構えると崖へ突き立てた。


 2人が競うように崖を掘るので、瞬く間に黄鬼の首を取り出した。その首を布でくるみ、その布をロープで結ぶと慎重に崖下へ下ろした。


 崖下で待つ少年少女が首を受け取った。

 颯爽と崖から降りてくる服部と、転がり落ちるように降りてくる獣川。


「取り出したのはおいらだよ」

「拙者がそこまで掘ったではないか」

 2人は何故か仲良くなっている。それを見て古家院が鼻で笑った。


 黄鬼の首を再び布に包むと、チンパチがひょいと摘んで自分の鞄へ詰めた。

「おいどんが持っとくでごわす」


 それから、再び探索を開始。崖を皆で登ると、その先は森になっていた。鬱蒼とした森の中を歩き回る。すると、大木の前で根蔵が霊を見付けたので、斑鳩が透視して木の中に首が眠っているのを見付けた。

「拙者が素手で掘り申そう!」

「いいや、おいらが」

 また争う2人へ平坊主が止めに入る。

「やめてください。ここは、私の法力にお任せください」

 法力という言葉を聞くと、2人は目を輝かせ平坊主の方を見る。


「法力と言っても、この発掘法は壊したくないものを念で保護するだけのもの。この御神木をできる限り傷つけたくはないのです」

 御神木の前まで出ると手を触れ念じた。そして、ハッと気合を入れると大木を不思議な靄が包む。

「さて、これで必要以上に御神木を傷付けることはないでしょう。さて、スコップ」

 平坊主がスコップを取り出そうと呑気に鞄へ手を入れる。その横からチンパチが出てきて大木を思い切り殴った。呆気にとられる平坊主。

「ど……どうしてこんな」

「大丈夫でごわす。おいどんの発掘法は、この力で対象物以外を吹っ飛ばすものだから」

 平坊主が御神木に目を遣ると、見事に法力で守った所は無傷であった。


「素晴らしいパワーですね」

「いやあ、おはんの法力も見事でごわした」

 2人はグータッチをした。だが、片や2メートル近い大柄の男、片や身長はあるが痩身の坊主。平坊主はグータッチの衝撃で後ろへ倒れた。


『次回「万難を越えよ」』

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