幻想・化石発掘隊
化け猫ニャン吉
第一部 霊感化石発掘法
霊感で化石の幽霊を追え
第1話 根元蔵志の思い付き
化石とは数億年の未練。生きていた時への執着だ。未練は生物をさまよう霊にする。古生物もその例外ではない。ゆえに、霊能力で古生物の幽霊を追いかければ化石を見付けることは容易い。未だ発見されていない新種の化石すらも掘り起こせる。この春から夏へかけ、不思議な力で化石を掘り起こす少年たちの物語が発掘される。
桜が満開の季節。夕焼けは辺りを真赤に染めていた。乾いた大地を掘り起こす2人の少年は何かを発見したようである。
「ほら見ろ! 化石だ!」
「ほんまや! まるで、墓荒らしやー!」
2人は泥まみれの顔を見合わせた。
「ほんま、どういうこっちゃ」
「はっはっはっ! 俺の霊能力に不可能はない!」
少年たちが何をしているのかを知るためには、数時間前に遡る必要がある。
桜が満開になった。日差しも強くなってきて本格的に暖かくなってきた。カラッとした風が吹き、砂埃を舞い上げる。
閑静な住宅街に建てられた大きな家の2階の部屋で先程の少年2人が退屈気にテレビを観ていた。10畳ほどの広さの部屋には、大人3人が悠に座れる青いソファがあり少年2人が座る。
「おおお、朝っぱらから馬鹿みてえな心霊番組やってんなあ」
やや高めの声で言ったのは中肉中背の少年。黒髪にタレた目でジトーッと人や物を見る癖がある。名は、
「ほんまやなー、こんなん見ると、背筋が凍るでホンマ。あまりにも馬鹿らしゅうてな」
同意したのは、この家の子どもでギョロ目の太った関西弁の少年。名は
『います、いますよあちらの方に』
テレビの自称霊能力者の発言に根元は吹き出した。
「ふっ! おいおいそっちじゃねえよ。お前の肩に手を置いてんぞ女の幽霊は」
「根蔵はん、さすがの霊能力や」
根元は通称・
ガラステーブルの上に置かれた皿に入ったチップスを食べながら、馬鹿にしたように心霊番組を見る2人。
『キャー! 今、井戸の所に女の幽霊が』
「ぶはっ! 井戸の所にいるのは蛙の霊だよ馬鹿! 女の霊はこのリポーターの鼻に指突っ込んで微笑んでるぜ!」
「ほんまに? こいつらマジで、恥さらしやー!」
2人はソファを叩いて嘲笑った。
『以上、心霊スポットからでした』
番組が終わる頃には、根蔵も牛麿も再び退屈そうにテレビを眺めていた。
「テレビ消すか?」
「もうちょっと見ようや根蔵はん」
根蔵は部屋をウロウロしだした。何か面白いことはないかと牛麿に何度も聞く。
牛麿は半笑いで首を横に振ると、コーラを取りに部屋を出た。
根蔵はふとテレビを見た。今度は、『夏休み子ども恐竜博物館』をやっていた。
「くっだらねー! 死んだ爬虫類なんか見て何が楽しいんだガキどもが」
根蔵は楽しそうに恐竜博物館ではしゃぐ小学生低学年ぐらいの子どもを見て吐き捨てるように言った。
根蔵も小学5年生だが、妙に大人びていて、暗かった。それもそのはず。根蔵の父は、会社の社長で、粉飾決算がバレたのを皮切りに数々の不正がバレて逃走し逮捕。挙句の果てに刑務所内の抗争に破れ命を落としたのである。
根蔵の兄は、大学2年になる去年の春に、麻薬の栽培と取引がバレて逮捕。芋づる式に高校時代の運び屋のバイトもバレて今や刑務所。こちらは脱獄を企て、失敗した時にできた傷で片目を潰してしまい、今も1人暗い塀を眺めている。
根蔵の母は市会議員で、夫と息子の不祥事を被って辞職。今は大学教授の愛人となっていた。皆、議員は汚いと言うが、よりによってこの母だけは一切不正を働いたことはなかった。
おまけに、根蔵が飼っていたハスキー犬は、中々の狂犬で、町内の小型犬を何匹も噛み殺し保健所行き。噛み殺した中の1匹が、今いる環状線家の犬である。
環状線家も中々の怪しい家である。牛麿を除く父母と兄姉はドバイで盗難車のベンツを捌いていたことがバレて、牛麿とその妹の兎麿を家においてコンゴ共和国へ高飛び。違法に集めた莫大な財産を牛麿らに残して去ったのだ。
牛麿と根蔵が出会ったのは、根蔵のハスキー犬が牛麿の飼っていたチワワを噛み殺した時であった。
「わぁ! 血が吹き出して真赤な芸術やー! これがホントの
血の噴き出すチワワを見て大はしゃぎの牛麿。その縁で2人は友達になった。
「ほい、根蔵はんコーラとメントスやで」
「ああ、そこにおいといて……ん?」
恐竜の化石が映った時、根蔵はテレビに釘付けになった。
『化石はロマンだ。お金に変えられないよ』
テレビに映った学芸員が語ると、お金の所で反応する根蔵。さらに、テレビには、無数の古代生物の幽霊が映り込んでいた。
「コーラにメントス突っ込むとシュワーってなるんやで」
「……いいこと思い付いた」
根蔵はニヤリと笑った。
「自分薄気味悪いでホンマ」
「うるせえデブ!」
「ありがとな」
「牛麿、スコップと掃け用意しろ」
「子ども用砂堀りセットでええか? 今更砂遊びとかガキの戯言に興じるんか?」
「馬鹿! 発掘用の大人向け……、ホームセンターに買いに行くぞ。金よろしく」
牛麿は気の乗らない感じでゆっくりと立ち上がると、水槽を泳ぐ魚を1匹鷲掴みにして取り出した。魚を両手でグリグリ捻ると、首の所でパカッと2つに割れた。中は空洞になっており、そこからキャッシュカードを取り出す。それを財布にねじ込みポケットに突っ込んだ。
「これが1番世間を欺くのにええんや」
「……この魚一体どうなってんだ?」
2人は家を出た。環状線家は、家の鍵が特殊で、特注で造った鍵以外のものを指すと電流が流れる仕組みだ。
2人は、近所のホームセンターでスコップと掃けとビニール袋を購入した。店には顔なじみのお姉さんがバイトをしている。レジでそれを買う時、お姉さんは「あんたら……、何埋めるつもり?」と低い声で聞いてきた。
「別に、何も」
「反対や、掘るんやと。ゴッツイねーちゃん」
顔なじみのゴッツイねーちゃんは腕まくりをしてレジから出て来た。少年たちは慌てて外へ飛び出した。
町の外れの岩場まできた少年たち。舗装されていない道をしばらく歩いていると、緩やかな斜面の崖があった。その斜面を注意深く観察する根蔵。
「根蔵はん、どないするつもりでっか?」
「埋蔵金を掘るんだよ」
牛麿は埋蔵金という言葉を聞くと急に張り切りだした。
根蔵は、何かを見付けた。その何かを目で追い、ブツブツ独り言を言う。牛麿も霊が視える友のその姿を幾度となく見てきたので平然と見ていた。
突然根蔵は崖を登りだした。その後から牛麿がついていく。崖を登った先へ駆け出す2人。辿り着いたのは断層が剥き出しになっている斜面である。
「わあ! この地層、赤茶黒でミルフィーユやー!」
根蔵はそれには取り合わず、シャベルを取り出しおもむろに斜面を掘り出した。その姿は確かに遺体を埋めに来た殺人鬼に見えた。
ある程度掘った所で、カチンと硬い岩にシャベルがぶち当たった。
「こらあかん。カチンってシャベルがしゃべるわ」
「黙れデブ!」
「あんがとさん」
根蔵が慎重に掃けで岩の辺りを掃いていく。
「牛麿、もし俺の霊能力と予想が正しかったらここに化石が埋まっているはずだ。古代生物の幽霊を辿ってみたんだからな」
「抜け出た体に戻ってしまうんやな。まるで、帰巣本能や」
「手元が見えない、ライト」
「はい、右手や」
「右のライトじゃない! 懐中電灯だ!」
牛麿は懐中電灯で根蔵の手元を照らす。気付けば辺りは夕焼けで真赤に染まっていた。2人は汗で服もビッショリと濡れている。
根蔵は岩を地層から取り出した。その岩を地面に置き、フーと息を吹きかけ砂を飛ばした。
「ほら見ろ! 化石だ!」
「ほんまや! まるで、墓荒らしやー!」
2人は泥まみれの顔を見合わせた。
「ほんま、どういうこっちゃ」
「はっはっはっ! 俺の霊能力に不可能はない!」
『次回「化石と駆け引き」』
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