《Ⅸの支配》〜第五世界最強の吸血鬼が魔王として世界を征服するまで〜
あの世の支配人
Ⅰ章
第1話 時の針は動き出す
——世界、それは無数の可能性である。人はおろか、そこに在るものは様々な選択を取り幾通りにも広がる枝のように世界もそれぞれ歩みを進める。その世界で超越者と呼ばれるものが誕生すると世界は彼のものに応え、異なる
そして現在——
バシッとカードを投げ捨てた音が広い空間に伝播する。
「ちくしょう、何が何だか丸っきりわかりゃあしねぇ。俺様ぁよう、こんなふざけた遊戯好きじゃねぇ」
そう言い、まるで時を止められたかのように静かで、しかしながら確かに緊張した空間を切ったのは<第Ⅸ支配階級>アルティアだった。
「ふふっ。なかなか面白いではないか。貴様が勝てないのは魔力操作があまりにも単調だからだ。これはただのカードゲームではない。もっと魔術に深く干渉してみよ」
俺がそう言うと、円卓で顔を向かい合わせる他の《Ⅸの支配》——
俺と同等の魔法概念への理解を持ち、
創造魔法で他の追随を許さない<第Ⅳ支配階級>大天使ザフキエル
神と天使の血も持ち鎖術を中心とした封印魔法に長けた<第Ⅶ支配階級>ラフィリア
——らの僅かに緩んだ口元が目に映った。
「……って言われてもよぉ、<第Ⅴ支配階級>のてめぇも知っての通り、俺様ぁ魔術師じゃねぇからそこら辺の事はからっきしなんだよぉ」
そう、アルティアは魔法を得意としておらず使えるものといえばせいぜい一般魔族が得意とする火
「ボクもこの手のゲームは得意じゃないな」
さっきまでとは空気が変わりゲームに飽きたのか円卓にカードを捨てるように広げ、机に突っ伏して寝るラフィリア。こいつに関していえばいつも眠そうにしているから特に思うことはない。
その緩んだ雰囲気の中で、椅子を引いた高くてあまり心地良いとは言えない音が俺の左斜めの方から発せられる。その先には翠色の鋭い目と長髪を腰まで伸ばした男が立っていた。
「興が冷めましたね。私はこれで第Ⅲ世界に帰らせてらいます。では、皆さんご無沙汰で」
服装の乱れを整わせ、ウィリディスは魔法陣を展開し始めた。複雑な魔術式が何を意味するのかはわからないが見慣れたそれは転移のものだ。
「おい、待てよ<第Ⅲ支配階級>!」
しかしアルティアが言いかける前に
「ちっ、つれねぇ野郎だぜぇ。じゃあ俺様もここいらで帰らせてもらうぜぇ。近いうちにまた会いに来てやるぅ。じゃあなぁ」
そう言い残して、アルティアも自分の世界、第Ⅸ世界に帰っていった。
そして先刻と同じ静寂が訪れた。異空間に集いし各世界最強の王、彼らが放つ濃密で甚大な魔力は《Ⅸの支配》以外の人間が仮にこの場に来ようとしたならば猛毒で意識を保つことさえ出来ないだろう。彼らはそんな空間で涼しそうな顔をし、静寂に身を休ませていた。
暫くして、この静寂を破ったのは<第Ⅳ支配階級>ザフキエルだった。
「ねーねー、ジュンは世界征服しないのー?ジュンだけじゃん、まだ
そうだ、俺以外の《Ⅸの支配》のみんなはそれぞれの世界で統治者となり民を導いている。
各世界にただ一つ存在し様々な世界を繋ぐ世界樹。ある意味世界の根幹とも言えるそんな世界樹が俺たち《Ⅸの支配》と同格の存在である<世界の管理者>を選定する。その特権を使い管理者は世界をまとめ上げ王となる。
しかし俺の場合は彼らとは別だ。<世界の管理者>になってから1000年が経とうとするがいまだに何も成せていない。
世界征服か……俺も1000年前に——
「1000年前の事まだ気にしてるのー?あのときは《Ⅸの支配》に入る前で力も権力もほとんどなかったから気に病むことないと思うけどなー」
「ふふっ、所詮は過去の事だ。そのような意味で気にしているのではない。しかしそうだな、俺もこの1000年何もせず過ごしていた訳ではない。十分な配下を育てそれ以外にも色々種は撒いている」
寝ていたラフィリアが頭は起こさずに俺の顔を見て言う——
「そういや少し前に眷属を創ったんだっけ」
「正確には少し違うのだがな。器への適性を斟酌して一から創造した分、血を重視した本来の眷属と同じとは言い難い」
「半神、そしてもう半分は天使のボクには吸血鬼のことはわからないな。要するに世界征服を始める気なのかい?」
世界征服とはまた大きなものだな。今まで表舞台に立つことを嫌い過ごしてきた。しかしそろそろ過去との決別を果たし先へ進むのも悪くはない。
それに俺自身もまんざらでもなく、そのことを考えるとこの高揚感は止まることを知らない。だからこそ、俺はこう言う。
「あぁ、俺は魔王だ。この世の生ある者全てに我が存在を知らしめ、この強大な魔の力で魅了させてみせよう」
俺の発言に不意をつかれ二人は目を丸くした。無理もないだろう。俺自身、自分がこんなことを言うとは思ってもいなかった……少し前までは、な。二人は一瞬驚いたが事実を受け止められるようになると笑みを浮かべていた。ラフィリアも頭を起こしていた。
「やったー!何かが大きく動き始めそうだねー」
「君が王となってくれるとボクとしても嬉しいよ」
「それはかつてお前が神の鎖で封印した
「はっきりとは分からない、だがアレはもうじき目覚める。そうなったら《Ⅸの支配》で対処しないと世界が壊れる」
「だから君には王となってやってもらいたいことがある」
厄災か……直接は知らないが俺が《Ⅸの支配》に入る前、<第Ⅰ支配階級>であるカーミラと<第Ⅶ支配階級>ラフィリアが封じ込めたという神。
「話を変えるが今日ここに来ていない《Ⅸの支配》のことはわかるか?」
俺たち《Ⅸの支配》は本来出会うことのないもの同士が集まっている。この
「私は少し知っているよー。確かねー第Ⅱ、第Ⅷ支配階級は連絡は取れなくは無いんだけここにくる気はないんだってよー」
あいつららしいな。こういった集まりが苦手だったからな、それに俺としても彼らとは意見が一致した試しがなくあまり関わりたいとは思わなかった。特に<第Ⅱ支配階級>メフィストフェレス……
「それからねー。<第Ⅰ支配階級>は音信不通で、<第Ⅵ支配階級>はもう死んじゃったらしいよー」
「あのレンが!?」
「無理もないと思うよ。だって彼は人族だったからね。ボクたち天使や悪魔の寿命と同じように考えない方がいい」
「……少し寂しいな。これでもレンのことは朋友と思っていたのだがな」
俺とレンは吸血鬼と人間な上に魔王と勇者。そして性格も真逆だったが、お互いその実力と抱く矜持には認め合っていた部分が多い。
『
いつしか忘れてしまったことだが時の針は歩みを止めない。俺も俺自身の時間を進めねばな……
「ではそろそろ俺も第Ⅴ世界に帰らせてもらおう」
帰って早速世界征服に取り掛かるとしよう。
俺は
「ジュンはさ……」
俺の体が白く覆われていった時、ラフィリアが何か言おうとしているのが分かった。
「たとえ《Ⅸの支配》と対峙しても……」
その言葉が意味を為す頃には俺はもう第Ⅴ世界へと帰っていた。
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