第13話 RELAYその後

 RELAYリレイの活動は順調に進んでいったと思う。評判が評判を呼んで次第に大きなハコで演奏するようになって、音楽関係者の目に止まり、インディーズを経てメジャーへ。トントン拍子に進んだ。

 メジャーデビューするとメディアとのタイアップがあり、好きなものだけを作るわけには行かなくなった。ドラマや映画の主題歌ならそれに沿った楽曲を作らなければならないし、ダメ出しされる事も多々。

 フルアルバム三枚目のリリースが決まった時、先行シングルも、収録曲も半分以上、何らかのタイアップがついた。期待も大きく、反面、蓮は苦しんでいたと思う。

 

 その頃は、ライブ終わり以外で蓮が俺を誘う事はあまりなくなっていた。俺はもっと、側にいたかったけど、蓮は一人でメディアに出る事も増えて近寄りがたい存在になりつつあった。交友関係も広がりアイドルとか女優と写真誌に載ることもあった。 

 俺たちはおはようからおやすみまで、メッセージを送り合う事もなくなっていた。


 珍しく出来た休みの日、久しぶりに蓮からメッセージが来た。家に来てという、ぶっきらぼうなメッセージ。それだけでも、嬉しかった。

 蓮は実家を出て、都心のスタジオ近くのタワマンに住んでいた。俺は蓮の好きそうなものを色々買って、持っていくことにした。”カニカマのお寿司おにぎり”と二人でハマってた漫画”悪役令息、皇帝になるseason3”。

 ちゃんと、抱かれる準備もして行った。


「また、詞がやり直しになって…。少し待ってて。」

蓮は、タイアップ曲の歌詞がダメ出しを喰らって、やり直し作業をしていたらしい。何回かラリーが続いていたらしく、明らかに機嫌が良くなかった。

 俺はリビングで大人しく待っていたのだが、それがよくなかったのかもしれない。一時間を過ぎた辺りで、ソファでうたた寝をしてしまったのだ。


「圭吾…。」

肩を揺すられて、目が覚めた。目を開けると、不機嫌な蓮が俺を見下ろしていた。

「お前、漫画読んでゴロゴロ寝て…何やってんだよ?」

「あ、ご、ごめん…。」

「はぁー、人が仕事してる時に…あり得ない。」

「ごめん。」

「もう帰れ、ムカつく…。」

 蓮はそう言うと立ち上がって、仕事部屋の方に戻ってしまった。

 本当、あり得ない…ごめん、蓮。謝りたかったけど、ドアを開ける勇気が無かった。俺は買ってきた物を冷蔵庫にしまって、蓮の部屋を出た。


 帰り道、遠回りして、俺たちの実家の最寄駅に寄った。いつも二人で寄ったコンビニ。いつの間にか影も形もなくなっていた。

 以前蓮が言っていた通りあれから高速の入り口が駅の反対側に出来て、人の流れが変わったらしい。コンビニも場所を移転してしまったようだ。

 どんどん、世界は移ろっていく。俺たちの関係も…。ずっと一緒にいたいから入ったバンド。確かに一緒にいる。なのに、心は離れていってひどく苦しい。


 休みが明けて蓮に会った時にきちんと謝ろうと思ってまず、おはようと挨拶をしたのだが無視された。


「蓮…昨日…。」

「お前さ…いや、もういい、お前とは話したくない。」


 目も合わせず蓮に言われて、俺はそれ以上何も言えなくなった。話を聞いてくれる気配がなかったので、メッセージを送ったけど既読無視。俺は涙が溢れそうになるのを必死に堪えた。

 蓮が苦しんでいるのを知っていたのに、慰めるどころか寝るなんて。俺が悪い。謝らせて欲しかった。でももう、蓮はそれさえ嫌なようだ。


 蓮と会話ができないまま、アルバムのアリーナツアーが決まった。アリーナツアーも全てソールドアウト。全部、蓮のおかげだ。


 俺はなるべく足を引っ張らないように一生懸命練習した。ステージ上では、蓮は俺を見てくれたし、肩も抱いてくれる。ひょっとして、終わったらまた、いつものように戻れるのかも知れないと期待していた。…甘い期待。


 それは甘過ぎる期待だった。アリーナツアーの打ち上げで、蓮はRELAYからの脱退を宣言した。


 蓮がRELAYそのものなのに、蓮がRELAYから抜けたら…それは解散を意味していた。その後、事務所の説得によって表向きは活動休止、ということに着地したのだが、俺は呆然とした。

 そして蓮は、RELAY解散と共に俺との関係も終わりにする事にしたようだ。いつもライブ終わりには、俺を連れて帰っていたのに、その日は俺ではなく、打ち上げに来てた美人な女の子を連れて帰った。


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