第11話 誕生日プレゼント
今泉の解散ライブが終わると、俺たちはあっという間に三年生に進学した。
今泉とはクラスが別になってしまった。ニクラスある私立文系コースが成績順で分けられたためだ。もちろん俺のほうが、成績下位のクラス…。ショック過ぎてしばらく落ち込んだ。
今泉はチャラそうに見えて、何かとちゃんとしている。
「将来、音楽の仕事に就きたいから、音大に行くんだ。俺は専門でも良いと思ったんだけど、母ちゃんが大学にしろって言うからさ。」
「将来?!ちゃんと考えてるんだ…。偉いなぁ。」
音大と言えばクラシックのイメージだったが、今時の音大はロックポップスなどの現代音楽コースもあるらしい。今泉はきちんと作曲の手法を勉強したいとかで、進学を決めていた。そこで、解散後の新しいバンドメンバーを選ぶつもりなのかも。
俺も一応、ギターの練習は続けている。でもやっぱり、途中から違う練習が始まってしまって…。今泉は、俺を本気でバンドメンバーにするつもりはないようだ。
今泉と、同じ大学に行きたいと思ったけど、まず成績順のクラスが違うという時点で、現実を見なければならなかった。せめて、今泉が行く大学の近くの大学に行けたら…。それなら同じ路線で会えるはず。高校を卒業してバンドメンバーでもなく同じ学校でもない、恋人どころか友だちなのかも怪しい俺が今泉に会う方法はそのくらいしかない。
今泉と俺の関係は、よくわからない……謎のままだった。
クラスは変わっても朝駅で会えば一緒に学校に行くし、帰りも昇降口で会えば一緒に帰る。呼び出されたら家にいって、誘われるままに抱かれた。
今泉は美咲と別れた後、彼女はいたり、いなかったり。ワンナイトから、数ヶ月続く子まで色々だった。知りたくないのに、今泉の情報は今泉と同じクラスの因幡が俺に逐一報告してくるのだ。受験生の癖に、とにかく周りが放っておかない。俺は今泉に彼女ができる度落ち込んで、別れる度密かに喜んだ。
今泉に彼女がいても居なくても、俺と会う頻度は余り変わらなかった。だからちょっとの優越感、ただ愛情を試したり面倒くさいことを言わないから、都合が良いだけだろ、と自虐する気持ち、その二つのバランスを上手くとってやり過ごしていた。
そんなわけで受験生だというのに、集中力を欠いた状態で、最後の高校生活を送った。
秋になると、今泉は推薦入試を受けて見事合格。一方俺は学内の推薦をとれず、現役で大学生になれるのかの瀬戸際だった。その事態に今泉もさすがに俺を家に誘ったりしなくなった。噂では、同じくもう推薦入試で受験が終わった彼女と遊んでいるとか…。
俺は色々と打ちのめされていた。なるべく、朝早く学校に行って、夕方も図書室で自習をして帰るようにした。今泉と彼女と鉢合わせしたりしたら俺は…平常心を保てる自信がなかったのだ。
師走も押し迫った、聖なる夜。きっと恋人たちは浮かれているのだろう。実は、俺の誕生日でもあるのだが、誕生日とクリスマスが一緒でよかったことはない。プレゼントも一つで済まされてしまうし、周りはカップルばっかりでさ寂しくなるし…。今年は特に、嫌な気持ちだった。俺はいつものように夕方遅く、図書室を出て昇降口に向かった。
昇降口には人影…、今泉だった。
「今日は一人?いつもこんなに遅いのかよ?」
「…いつもじゃないけど。」
今日は?ああ、たまに因幡と帰る時もあるけど、いつも俺はほぼ一人…。いつもはどこに掛かっているのだろう?遅い、の部分だけ?
今泉は上手く答えられない俺に追加で質問するでもなく、一緒に駅へと向かう。電車に乗るとたわいもない話をした。
最寄り駅について「ばいばい」というと、ちょっと間を置いて「今日くらい遊んで帰ったっていいだろ?」と今泉は言う。
「でも…。」
「用事あるの?」
「いや、ないけど、親が待ってるから。たぶん。」
「親?」
「うん。誕生日だから、今日。」
「誕生日?!」
今泉は目を見開いた。そして「なんで言わねーんだよ」と、ため息をついた。今泉は俺を駅の近くのいつものコンビニに連れて行った。
「受験生に漫画とかゲームはまずいもんな~。この時間だと、あんまり店もやってないし。何がいい?」
「え…。」
何だろう?何も思い浮かばなかった。久しぶりにちゃんと見た今泉が、ただただかっこ良かったから。一緒に居てくれればそれだけでいい。そう言いそうになった。でもクリスマスに俺なんかといっしょにいてくれるんだろうか?本命ぶってんじゃねーよ、と嫌われないだろうか。俺は悩んだ末、チョコレートを一箱だけ買ってもらった。
「ありがとう。」
「いや、そんなのでごめん。俺の時はもらったのに。」
そうだった。今泉の誕生日の時は、今泉から欲しいものリストが送られてきたんだった。
今泉もそれを思い出したのか、俺に言った。
「圭吾の欲しいものリスト送って。俺バイトしてるから、割となんでも買えると思うよ…?」
コンビニを出て今泉と別れてから、欲しいものを思い浮かべた。今、欲しい物は一つしかない。
歩きながらスマホでポチポチして、送信ボタンを押した。
送信してから家までの道をとぼとぼ歩いていると、後ろから、走る足音が近づいて来た。
「圭吾!」
今泉だった。
今泉は、振り向いた俺の腕を掴むと、そのまま俺を自分の家に連れて帰った。
俺の欲しいもの…今泉のクリスマス。
俺と今泉は、今泉の家に着くと抱き合ってキスした。すぐにキスだけじゃ足りなくなった。一緒にしよう、という今泉を待たせて、俺は一人で後ろの準備を済ませた。
待たせていたからか、今泉はいつもより興奮していたのかもしれない。あんまり激しくされて、俺は今泉にしがみついて名前を呼んだ。
「圭吾、そろそろ、下の名前でよんで。”れん”って…。」
「…れん。」
今泉は微笑んだ。俺は今泉に微笑まれたらノーと言えない病を患ってる。でも怪我の巧妙か病は気からか、それから俺は今泉を「レン」と呼べるようになった。
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