七.敵、現る(1/2)

 夕暮れが迫る外海そとうみを、俺はキルステンの背中にまたがって高速で移動している。



(一体、何が起こっているんだ)



 意中の女性と密着しているというこの状況に対して、今の俺は甘い感情など微塵も抱いてはいない。その代わりに、かつてない事態に心をざわつかせながら、白波の向こうに見えつつある断崖絶壁を睨み付けている。



 数時間前、緊急招集を受けて集まった俺たちに対して、バージェスに攫われた子供を捜索せよという指令が下った。

 攫われたのは11歳の少年で、父親と堤防で釣りをしている最中の出来事だったという。



『父親の証言によると、何の前触れもなく海中からバージェスの触手が伸びて、男の子だけを掴んで沖合に去っていったらしい。生存の可能性も視野に入れ、即刻捜索を――』



 この情報に、俺はいくつも違和感を感じた。

 発生現場が過去数年に渡ってバージェスが出没していなかった海域であることや父親を襲わなかったこと、その場で男の子を呑み込まなかったこと、などなど。どれを取っても、俺が知るバージェスの「常識」とはかけ離れていた。


 そして、捜索計画を立てているところに、ミアプラからキルステン宛に手紙が届く。手紙と言ってもミアプラのそれは特殊な石版に文字が彫られたものなのだが、それは今はどうでもいい。

 肝心なのは、そこに書かれていた内容がにわかには信じ難いものだったことだ。



『子供を助けたければ、キルステン・フォーゲルストレームと鮫島鉄火の2名のみで○○海岸に来ること。エレミヤ・ベックより』

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