五.これを運命と言わずして何と言うんだ!(2/3)

「だからさあ、キルステンにとって鮫島君は子供のままなのよ」


「いや、どこからどう見ても大人だろ! 俺はもう、あの時の子供じゃないんだよ!」 



 バージェスを討伐した次の日。俺はバージェス対策本部内の休憩スペースにて、同期である仙崎亜美を相手に苦しい胸の内を吐露していた。


 この男だらけの職場にあって、明るく頼りがいがあり勇敢さも兼ね備えた仙崎は、男女共に人気が高い。この俺ですら、もしも彼女がミアプラ人だったら危うく浮気していたかもしれないと思わされたくらいである。



「でもさ、ミアプラ人の寿命って人間の3倍以上もあるのでしょ。時間の感覚だって当然違うだろうし、『あの日助けた少年』の印象が中々拭い去れないのは仕方無いと思うわ」


「そりゃあ、そうかもしれねえけど」



 理路整然とした亜美の意見に、俺は言葉を詰まらせながらあの日のことを思い返す。


 そう、あの日。釣りが趣味の父親と共にPBプレジャーボートで海に出た俺は、運悪くバージェスの触手に絡め取られて海中に引きずり込まれた。まあそもそも、バージェスが未だうようよする海に子供を連れ出す父親がアレなのではという話なのだが、今となってはむしろ感謝しているくらいである。


 目にも鮮やかな青色と黒褐色の縞模様のウミヘビの下半身と、青色の鱗にうっすらと覆われた人間の上半身。光沢のある青い髪と、螺旋状に捻れた2本の角。そして、晴れ渡った空の青を思わせる瞳。


 その鮮烈で美しい人外の英姿えいしは、死の淵から救い出されたばかりの少年が目にするには少々衝撃的で、そして心を鷲掴みにされるには充分過ぎたのである。

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