Ⅰ.必ずしも強くてニューゲームとは限らない。
1.だって要するにワンクールの嫁が欲しいんでしょ?
「と、言うわけだ、
そんな俺の無茶ぶりに、
「こちら富士川。こちら富士川。話は全て聞いた。なるほど、貴公の言い分は最もだ。三か月に一回、ワンクールの嫁を確保するオタクのように男をとっかえひっかえしておきながら、恋愛そのものに対して否定的な我らが朝風女史が求めるのはつまるところ三大欲求の解消であると。実に理にかなった論理だ。ただ、しかし。しかしだ
「こちら暁。こちら暁。なるほどその意見はもっともだ。確かに本人の弁はまず聞いておくべきところだろう」
俺はそこまで言って、形而上のトランシーバー替わりにしていた右手をそのまま、形而上のマイクへと変換して、目の前に座り、一連のやり取りを、これでもかと言わんばかりに冷ややかな目で見つめていた被告人こと、
「朝風さん。今のお気持ち、お聞かせください」
「死んでしまえ」
「あらまあ聞きました富士川の奥様。死んでしまえですって。やだもー今どきの若者は言葉遣いが荒いんだから。一体誰に教わったのかしら。親の顔が見てみたいわ」
朝風が頬杖を突いたまま、じっとりとした視線をこちらに投げかけつつ、
「朝風千草。高校二年生。幼少期に他界した両親の代わりに、暁家に厄介になることも多く、その家族に多大なる影響を受け、今に至る」
「おお、実に分かりやすい解説をありがとう。手間が省ける」
「はぁ、どうも」
じっとりとした視線は一切変えず、ため息ひとつに応対する。
朝風千草。
そして富士川
二人はいずれも俺の幼馴染だ。
幼馴染とは言っても、おぎゃあと生まれてこの世に生を授かったタイミングからずっと知り合い同士、というわけではない。
俺と千草。そして富士川が出会ったのは小学校一年生。その時はクラスが同じ、というだけで別段家が近いとかそういうことは無かった。ただ、単純に、進級しても不思議とクラスが一緒な仲良し三人組という感じ。
男二人に女一人で仲良し三人組というのも不思議な構成だが、当時の千草はと言えば、髪は短く口調は乱暴、挙句の果てに来ている服も男物ということで、どちらかといえば男子と一緒に遊んでいるようなお転婆というよりはやんちゃなクソガキに属するような女子だった。
学年が上がると共に、どこからどう見ても男子にしか見えなかった容姿は、男勝りの女の子くらいの塩梅へと変遷したが、それはそれ、これはこれだ。幼馴染として培った間柄が今更切れるわけもなく、俺らはこの男二の女一という構成比で今日まで仲良く過ごしてきた、というわけだ。
そんな千草だが、今、先ほど自分で説明した通り、小学校の途中で両親が亡くなり、身寄りが地方に暮らす祖父母だけになってしまった。
当初はどちらかを頼って転校……という手筈になっていたのだが、俺と富士川がなんとか説得し、結果として、一軒家で空き部屋も有していた俺の家に転がり込むことになった……というわけだ。
ちなみに、高校に進学したタイミングで富士川の両親が経営するアパートへと移り住み、現在は一人暮らししている。どころか、何故か俺までもが隣の部屋を借りて一人暮らしをする羽目になっている。
どうやらうちの親は、女子高校生を、アパートに、しかも頼りになる身寄りもいない状態(富士川の両親はアパートには暮らしていない)で一人暮らしさせるのは嫌だったらしい。
だったら引き続き居候させればいいじゃないかって話になるんだけど、そもそも千草がこれ以上うちにお世話になるのを嫌ったって、そういう話。
なので、折衷案として、徒歩圏内に自宅があるのにも関わらず一人暮らしの高校生活という、実に歪な構造が出来上がったというわけだ。まあ、俺としては別に不便もないし、何か必要だったりすれば実家に帰ればいいだけなので問題は無いんだけどな。
そんなわけで今日も、小学校からの付き合いとなる三人組で昼食を取りながら、実に馬鹿みたいな会話を繰り広げている。
いや。
違う。
確かに二人は幼馴染だ。気の置けない仲だ。それは間違いない。
でもそれは、俺にとって「遥か遠い過去の話」のはずなのだ。
間違いない。
今の俺はもっと歳をとっていて、高校生活など遠い昔の話で、こいつらともきっと、こんなアホみたいな会話は出来ないはずなのだ。
さっきまではずっと、戸惑いっぱなしだった。
それを二人にも追及されまくった。
どうしたの。寝不足?
もしかして、彼女でも出来た?
そうじゃなかったら好きな人でも。
その追及を逃れるために、俺は千草の、恋心なき恋愛を糾弾した。そこには入れたり出したりパパになったりならなかったりの欲望のあまりがあるはずだと勝手に結論付けた。
結果として、矛先は無事に千草に向かい、「暁
だけど、根本的には何も解決していない。
だって、こんなこと、あるはずがない。
頬……はやると不思議に思われるから、机の陰で太ももをそっとつねった。
その結果、夢ではないということだけがはっきりした。
が、そうなれば余計に分からない。
高校時代に、遠い昔に経験した、アホらしくもどこかほっとするやりとり。
夢で見ているのでなければ説明が出来ない。
ただひとつの、ありえるはずのない可能性を除いて。
(タイムリープ?)
そんな、まさか。と、思う。
けれど、今俺に思い浮かぶ可能性がそれしかないもの確かだ。
まあいい。
今、俺が一体どういう状態なのかは分からない。
分からないが、今はただ、喜ぼうじゃないか。
だって、そうだろう。
俺は当時からずっと、こんな関係性が続けばいいのにと願っていたんだから。
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