第2話 スタンピードが始まりました



 側近達は心配したが、私は薬草を使い、王族特有の紅い髪と目の色を変え、身分を隠し、いち貴族の留学生としてお隣の国の魔法学院に入学した。

 魔力を持つ者は全て、各国の学院で学ぶことになっているので、勇者様――ロビンも勿論そこにいた。


 彼の食べ物の好みも、好きな色も、性格も知っていた私は、偶然を装って彼の友人となる事に成功した。

 入学以来、魔力やそれを使って戦う術も磨かれた彼は、着々と頭角を現していた。

 私は魔術師として、時折彼と一緒に近くの森や、ダンジョンに潜って、魔物との戦いのスキルを磨いていった。




 …入学して半年、遠くから、魔物が大量発生しているという噂が入り始めていた。


「大陸の西の端、ミネビアの方がひどいらしい」


 放課後、学校のある丘の上から、下の街を見下ろしながら、私はロビンと話していた。


 ――実は、もうミネビアは存在しない。

 

 記憶が戻ってから、自国だけでなく他国にも、大規模スタンピードが発生すると広めてもらったが、本気にした国は少なかった。

 半信半疑な国々は、生半可な用意では太刀打ちできず、幾つかの国はすでに滅んでいた。


「うん、聞いてるよ。ここは東方だから、まだ皆のんびりしてるけどね」

「私の国は、この国より西にある。この国より先に襲われるだろう」

「それは…」


 顔を曇らせたロビンに、私はにっこりと笑ってみせた。


「大丈夫だ。私の国は神託により、備えは充分だ!」


 ロビンは目を細めて笑った。


「巫女姫、エリザ様の神託だね。色々言う人もいるけど、僕は信じているよ」


 う…わー…

 

 …嬉しい!

 めっちゃ嬉しい!!

 インチキ、サギ姫、嘘つき王女とか散々言われたけど、広めて良かった!


 自分一人ならまだ良かったんだけど、国全体を蔑まれたのはキツかった。

 国交が無くなった国もあるし、決まっていた姉様ズの婚約(A国の王子とB国の王太子)もダメになった。


 さすがに深く落ち込んだ私に、姉様ズは一片の曇りもなく、誇り高く微笑んだ。


『あんな方だとは、思いませんでしたわ』

『こちらから願い下げですわ!』


 きっぱりと言い切った姉様ズを、母上も重臣も褒めたたえた。

 その後、姉様ズは自国の貴族と結婚して幸せになったが、先日、B国の王太子の国が魔物の脅威にさらされて、我が国に助けを求めて来た。


『ざまあ!ですわ』


 と豪快に笑っていた下のお姉様だが、本質的にはとても優しい人なのだ。

 自分の作ったポーションを、何百か融通してあげたらしい。


 ちなみに上のお姉様の、元婚約者の王子様の国は、救援要請を出す余裕もなく滅びたそうだ。


 お父様はより難しくなった、他国との折衝を、それまでと同じように淡々とこなしてくれている。

 神殿長は、他国ある教団の本殿から破門を受けても、私を信じると言ってくれた。


「ロビン、頼みがあるんだ」


 信じてくれる人達のためにも、私はここで頑張らないといけない。


「私の国に来て、一緒に魔物と戦ってくれないか?」


 ロビンは目を見開いて私を見た。

 ゲーム画面よりも、ずっと美しい琥珀色の瞳を見て、私は語った。


「さっき言ったように、私の国はもうずっとスタンピードに対して備えているから、ポーションも武器もたくさんある」


 だから戦いやすいし、勝算もある。


「それに、私の国でスタンピードを食い止められれば、この国は襲われる事なく助かる」

 

 魔王復活の条件は、スタンピードの完遂と、大陸の国が残り一つとなること。

 今の時点で滅んでいない国が複数ある今、スタンピードを食い止める事ができれば、魔王復活も避けられる。



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