後で返してあげるので、先に私の国を救ってください勇者様!

チョコころね

第1話 ゲーム前に滅びる国に転生した私


 あ、これは小学生の時に流行ったゲームの世界では…と思ったのは、6つの夏だ。


 昼下がりのガーデン。

 私はベンチでお昼寝していて、近くで大人たちが、最近魔物が多いという話をしていた。

 女神様への祈りが足りないのか?――と誰かが言った。


(女神様って…確か、アウローラ様だったよね…)


 ……え?

 だれそれ?

 女神様の名前なんて聞いたことないよー…


 うとうとしながら、そう思った次の瞬間、頭にたくさんのフレーズが浮かんだ。


 → 魔物大暴走スタンピード発生

  → 隣国滅亡

   → 勇者の目覚め

   → パーティ結成

  → 魔王討伐

   → 王都帰還

   → 戴冠式と結婚式…


 脳内にあふれる情報に耐えられず、私は横たわったまま気絶していた。

 次に目が覚めたは、離宮の自室で、私は思わず叫び声を上げた。


「こ、ここ…ゆ、ゆ、ゆ、『悠久の大陸・カサンドラ』の世界だー!!」


 幸か不幸か、すっ跳んで来たメイドさん達には意味が分からなかっただろう。

 その他、側仕えから話を聞いて真っ青になった姉二人により、呼ばれた医師や神官の皆々様には、怖い夢を見たのだと、泣きながら訴えて追い返した。



 私の名は、エリザ・ユークリッド。

 この国、『ユークリッド』の第3王女だ。

 年の離れた妹に過保護気味の姉二人と、きちんと女王をやってる母と、王配と外交官の兼務で三か月に一度程度会う、中々正体の知れない父がいる。

 そんなぬるま湯に浸かりながら、礼儀作法のゆるい離宮で、土いじり三昧で真っ黒になったり、使用人の子ども達と遊んだり、王族にしてはかなり鷹揚に育っていた私だが、この日を境に強制的に意識が切り替わった。


 前世での名前なんかは忘れたけど、小学生の時に夢中になったゲームは覚えていた。


『悠久の大陸・カサンドラ』

 

 広い大陸で助かる国は一つだけ!という、デスゲームのようなRPGで、今思えばタイトルからして鬱味がある。

 助かる国は、お隣『ジルベスター』。

 そう、私の国は、ゲーム開始と同時に滅びて、主人公の国に警戒心を起こさせる役目の隣国だー!


 せっかく憧れの世界に転生したのに、何もしない内に強制終了されるなんてまっぴらだ!


 大陸のあちこち、主に遺跡群を見て回りたい!

 ワイバーンに乗って空を飛びたい!

 ヒーローや他キャラを観たい!


(確かスタンピードは、各地で魔物が増えたという噂がしてきて、大体10年後って設定だっだよね?)


 だったらまだ間に合う!――はず…


 大陸の各国には、それなりに得意技があって、我が国のメリットは、ずばり植物系。

 王家の人は大体、緑の指の持ち主!


(地味~!地味だけど、地味に効くのよ薬草類~)


 滅びた後のウチの国に、主人公パーティがやってきて、幻の植物を探す話もあったんだから。


『こんなに美しい国が、一瞬でなくなってしまったんだね…』


 主人公の凛々しい横顔がアップになって麗しい声で、哀しそうに口にしたセリフ…好きだった。

 

(…好きだったけど、再現させるわけにはいかないのよ!)


 数日かかって、覚えていることをノートに書き留め、やるべきことを整理した私は、姉様方に


『女神様の神託を受けたので、お母様に知らせて!』


 と頼んだ。

 信じてもらうには時間がかかるかもしれないけど、心から何度も言えば少しは…と思っていたのに、妹馬鹿の双子の姉ズ(16歳)は


「さすが私たちの、エリザちゃんですね!」

「エリザちゃんの可愛さに、女神様が絆されたのですよ!!」


 で通ってしまった…

 急ぎ王宮に戻って、謁見した母女王はさすがに、眉間にしわを寄せていた。


「エリザ…幼いとはいえ、お前にも王族の責任というものを教えてある筈」

「お母様! いえ、女王陛下。私はけっしてうそを…」

「なぜ、もっと早く言わないのだ?」

「…は?」

「離宮で意識を失った時だな? その時に言えば、5日は早く知れたのだぞ。それで、女神様は何とおっしゃったのだ!?」


 ――なぜ疑わない!

 こっちの方が叫びたくなってしまったが、時間が惜しいのは確かだ。


 私は、10年以内に、国の存亡が危ぶまれるほどの『スタンピード』が起こる事を告げ、その為の備えをお願いした。


 王家の直轄領には強制で、他の国内各地では、薬草の栽培に奨励金を出して、届いた薬草でポーションを大量に作った。

 ポーションに関しては、ウチの王族全員熟練工だし、貴族でも量は少ないが作れる者は多い。

 また神殿の祭祀や巫女達も作れるので、割り振った。


 最初は渋い顔をしていた神殿長だったが、人払いをしてもらい、私が


『女神様のお名前は…』


 と囁いたら、その場で膝を付かれてしまった。


「姫君の御心に沿うことを、固くお約束いたします!」


 有り難かったが、恭しくドレスの裾に口付けされた時は及び腰になってしまった。


 また、守備兵を使って、国境沿いの森や街道沿いには、魔物除けの植物をこれでもか!と繁殖させた。

 出来たポーションは神殿や各所の備蓄層に配り、食料や武器も今までの10倍揃えてもらった。




 …そんなこんなで10年。

 とにかく、自分の立場で出来る事は全部やったと思う。

 後は、


「勇者様に来ていただければ…」


 完璧だろう。


 勇者様はお隣の国の人で、魔物と戦うまでは普通の街の子だ。

 実はお母様が、昔大陸を統べていた、帝国の血を引いているという設定はあるが。


 いっそさらってきてしまおうか…と思ったが、外聞が悪すぎる。

 私一人では無理だし、手伝ってもらうにも兵士たちに何て言っていいか分からない。


 私は正攻法で行くことにした。



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