カフェのバイトさんと「あの人」
@deansplace
第1話 カフェのバイトさんと「あの人」#1
「あのさ、うちら別れようか」
「え、なんでいきなりそういうこと言うの。昨日の喧嘩のせいで、わたしのせいでそう言ってるの。」
「いや、そうじゃない」
「じゃ、なんで。きのうわたしから一方的に怒られて喧嘩にまで発展して喧嘩したまま仲直りもできずそのまま一日が始まっちゃうのがいやだから。負け惜しみって感じで」
「いや、オレはただ。。」
「じゃ、なんでそういうこと言うの」
「。。。オレはただ。。」
「そっか。いつものあれだね。いつもわたしばっかり我慢して怒ってまた謝って頑張って仲直りしようとして、それでまた喧嘩してまた怒ってまた仲直りして。。」
「わたしだけが田中君の悪いところまで認めてそのまま受け入れようとしてたみたいね」
「彼氏彼女関係でお互いの悪い部分まで受け入れようとするのか恋愛じゃないの。なのに田中君はいつも「僕が悪かったゴメン」って一言も言えてない。いや、いってない。わざと言ってないような気さえしてしまうほど」
「いや。。オレは。。」
「ほら今もそうよ。いつも上から目線みたいに彼女の私に僕じゃなくオレといってしまう。田中君はいつもそうでるのね。いつもわたしだけがガマンしてたことは分からず、きのうみたいにあれこれ自分だけ言われたり怒られたりするのがいやみたいな」
「。。。明美。。」
「こういう時もいつもわたしばっかりなにか言おうとするししようとするし、あ、もう勝手にして」
「わたしはこれからバイト行くから勝手にして。もうこれ以上言ってもムダだと思うし」
「かってにして。。。勝手にして。。」
「。。。明美。。」
明美は彼氏がやっと絞り出したかのような最後の一言を聞き流しながら家を出た。明美はバイト先の方向へ歩き出した。明美のバイトしているカフェは今住んでいる所から歩いて約25分ぐらいにある。歩くのが遅い明美にもそんなに遠くない距離だと思われるほどの場所にある。夢のようなカフェ。小さい頃からなんとなく働きたいと思っていたカフェだった。それを大学生になってすぐ自分の夢みたカフェと一番近いバイトを探して働き始めたのが今のカフェなのだ。
しかし、その夢みていたカフェでのバイトを今日はどうしても行きたくなくなった。けれど、行かないでうちにいてもなんにもできないし明美には将来したいこともたくさんあり、そのためにもできるだけがんばって行きたいといつも思っていたのだ。さっきの彼氏との喧嘩だってそうしてきた。今まで何回繰り返しても明美のほうから
頑張ってなんとかしようとしたのだ。なのにそれが今日で限界を迎えるようだ。
明美はバイト先が今住んでいる所の近くにあるのはいいことだと思っていた。歩く速度が遅い明美はそれと反して歩くのは好きだった。流行りの音楽をワイヤレスイヤホンで聴きながらゆっくりお散歩しながらバイトに行くのが好きだった。
なのに、その明美も今日は違う理由で家からバイト先までの距離が近いのがいいことだと思っていた。
早くバイトに行って仕事すると余計なことを考える暇もなく、必要もないからだ。一日という長い時間をつぶせるしお金ももらえるからだ。何か集中できることがあるからだ。昨晩の彼氏との喧嘩から今朝の言い争いまで全部洗い流せたらいいなと考えながら重い足つきでバイト先へ歩いていく明美だった。
それでつい「あの人」の顔を思い浮かべてしまった。
「あの人、今日も来るかな」と呟きながら。
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