何転ⅡーＢ面ー

第1話 最初と２回目の前半。

『何も分からない僕を利用する為、その為に情まで利用するだなんて』

「違う、違います、私はただ」

『素直に最初から言ってくれたら、きっと今の言葉も信用していたけれど。けれどアナタは僕を謀った、さようならグレース』

　断頭台に上がり、刃物が滑り落ちる音がしたと思うと、視界が回転した。

　そして彼の憎悪と悲しみと、嘗て有っただろう情愛の残り火を眼の中に見て。

　私は、もし、やり直せたらと願った。

《グレイ、彼です》

　まさか願いが叶ったのか、天国か地獄か。

　彼に初めて出会う前に戻っていた。

「あぁ、ですね」

　今度こそ丁寧に、丁重に扱おう。

　彼の為、私の為に。

《では》

「いや怯えさせると面倒ですし、フードを外して行きましょう」

《はい》

　前とは違う事をすれば、当然の様に結果も反応も違う。

　彼は暴れる事も無く、素直に協力してくれる事になった。

『それで、僕は何をすれば』

「先ずはココで着替え、私達の家に来て風呂に入り、いえ、途中で何か買って食べましょう」

『うん、はい』

　彼は王宮の侍女により入れ替えられた、本物の王子。

　けれど貴族は彼を利用する前に、病により断絶。

　事情を知らぬ親族にたらい回しにされ、果ては捨てられ。

　こうして王都から離れた場所で、貧民街の端で、孤児として生きる事に。

　長かった、探し出すまでにこんなにも時間が掛かってしまった。

「よし、買いに行きましょうか」

『あの、何でも良い？』

「酒はダメだね」

『その、甘い物とかは』

「少しだけなら」

『あ、アレは』

「リンゴか、好きか？」

『分かんないです、食べた事が無いので』

　以前も、こんなにも苦しかっただろうか。

　いや、私は殆ど関わらなかった。

　そして成長した彼とも、ほんの数回会っただけ。

「買いましょう、他には何が欲しいですか」

『今日はコレで大丈夫だと思います、明日も多分、大丈夫です』

「もう少し食べた方が良いかと、他にも良いですよ」

『本当ですか？』

「えー、じゃあ３つまでで」

『アレと、アレで』

「肉とパン、ですか」

『皆そう買うので』

「成程」

　断罪され、殺された時より苦しい。

　あぁ、だから私は無意識に攫う手段を取ったんだ、こうして自らが苦しむと分かっていたからこそ。

　苦痛から逃げる為、私だけの為に。

『皆さんも食べます、よね？』

　独り占めをすれば喧嘩になるか、虐められるか。

　本当は全部食べたい、けどれどもし機嫌を悪くさせたら、もしかしたら。

「そう、なら私が分けますが」

『うん、はい』

　高そうなナイフ、売ったら何日分の食料と水になるんだろうか。

　コレが落ちてたら、僕はきっと。

「どうぞ、良く噛んで下さい」

『はい』

「そうそう、慌てずゆっくり、水もどうぞ」

『はい』

　変な味も匂いもしない水、こんなにも綺麗な水を、惜しまず飲める日が来るだなんて。

「どうですか」

『美味しいお水ですね、変な味も匂いもしない』

「それは、廃棄品を？」

『腐ったのとか、悪くなったワインが売られてたりするので、はい』

「あぁ、リンゴはどうでしょう」

『これって、こう言う味なんですかね？甘いですけど、ちょっと酸っぱい』

「いや、いえ、こういう味なので大丈夫ですよ」

『甘い甘いって言ってたから、そう、こんな味なんですね』

「酸っぱいのは嫌いですか？」

『あまり、お腹が痛くなったりもするので』

「じゃあ、甘いだけの食べ物も、どうぞ」

『本当にそんな物が？』

「口を開けてみて下さい」

『あー』

「ゆっくり閉じて、今度は舐めてみて下さい」

『舐める？』

「口の中で転がすんです」

『あ、はい』

　甘くて良い匂い。

　天国に居る様な味って、コレの事なのかな。

　あ、凄い見られてる。

　どうしよう、どうしたら良いんだろう。

「どうですか」

『天国に居る様な味って、コレの事なのかな、と』

「あぁ、確かに」

『どうやって作ってるんでふかね、こんな美味しい物』

「今度、見に行きますか」

『天国に？』

「いや、秘密の場所に、ですね」

『あぁ、やっぱり秘密の場所で作ってふんですね、天国丸と同じで』

「天国丸の製造場所を知ってるの？」

『あ、ぅ、はぃ』

「大丈夫、詳しく言っても大丈夫です。あ、飴を舐め終わってから教えて下さい」

『はい』

　悪い事に関わってるって知られたら、やっぱり王宮行きって無くなっちゃうのかな。

「また飴が食べたいなら、素直に良い子にで、お願いします」

『はい』

　不憫だからこそ、以前の私は彼を避けていた。

　でも、だからって、任せた先でこんな事になっているとは。

「彼は偽者、本物の王子は既に死んでいる、などと。真偽も確かめられぬ分際でほざいていたのは、どいつだ」

　王宮内の侍女や侍従の仲間意識が強い、とは思っていたが。

　ココまでとは。

『あの、グレイさん、僕は大丈夫なので』

「寧ろ気にして下さい、アナタこそが本物の王子、亡くなった方こそ偽者なんですから」

『でも、それって』

「本当です。うん、ココはもうダメですね。王子、ココでは悪人を庇う事は、凄くいけない事なんですよ」

『あの、どうなるんでしょう』

「軽くて死罪ですね」

《こんな、こんな威風の無っ》

《失礼しました王子、グレイ》

「いや、助かった、幸いにも王子は何も見てませんから、ですよね？」

『あ、はい』

　マントで視界と返り血を防いだが、クロウにはもう少し考えて欲しいものだな。

「少し我慢していて下さい。クロウ、全員処刑で良いかと」

《はい、ですね》

「では王子、参りましょうか」

『あ、はい』

　彼は前と同じ様に歌がとても上手い、それこそ天使の様な歌声と、容姿。

　金色の髪に透き通る様な白い肌、そして青い瞳に、背には薔薇形の痣。

　この歌声に容姿、そしてこの痣こそ、王家王族の証。

　その事実を知らぬ者にはオスカー様こそ、いやジェイドこそが王子だとは思えなくても、仕方が無い。

　確かに偽者の王子には既に十分な教育が施され、幼いながらに洗練されていた。

　そして若くして威風堂々とし、威厳を放っていた。

　だが、それこそ生まれや育ち、王族教育の賜物。

　これ程に整った容姿も、痣すらも無かった。

　それを知らぬ者には、表面のみ比べる浅はかな者には、軟弱者として映るのだろう。

「以上が、事の顛末です」

　恐れていた事態が、いや懸念していた事、と言うべきだろうか。

　本物の我が子を軟弱者、偽者、などと言う者が王宮に居たなど。

《手を煩わせたな》

「いえ、僭越ながら手を打たせて頂きましたが、補充等のお手間を取らせてしまう事を、どうかお許し下さい」

《いや。侮辱罪と反逆罪で首を晒しておけ、それをもってして連座を回避させる》

「ご賢明な判断かと」

『さ、もう良いでしょう？、あの子に会わせて？』

《あぁ、そうだな、頼むよグレイ》

「はい、直ぐにも」

　前は冷血で冷徹なだけの者だと思っていたが、どうやら息子に会い変わったらしい。

　あの子に歌わせながら部屋に入って来るとは、随分と情が分かる様になってくれた。

『あの』

《その歌の上手さも王族の証だ、自信を持ちなさい》

『本当に上手ね、はい飴よ、いらっしゃい』

「あの、一応、彼も良い年ですので」

《ぁあ、すまんすまん》

『ごめんなさいね、はい、どうぞ』

『はい、ありがとうございます』

「本当にココで食べて良いですよ」

『あ、はい』

《すっかりお前に懐いてしまったな》

『本当に、悔しいわね』

「いえ、彼は賢いですから、守られる相手を分かっているだけですよ」

《全く、お前こそが本物だと言うのに、嘆かわしい限りだよ》

『すみません、あの、嘆かわしいって』

「悲しみや憤りの事ですよ」

『あ、そうなんですね、ありがとうございます』

『ちゃんと言葉を覚えようとして偉いわね、良い子』

　王妃である妻から、今まで子を奪ってしまっていた。

　大粛清の為、敢えて替え玉を誘拐させる筈が、我が子の方が攫われ本当に行方不明になってしまった。

　そして替え玉にする筈だった子を育てる事になり、本物の息子だと思いながらも育てていたが。

　乗馬の練習の際、馬が暴れ出し、当たり所が悪く。

　そのまま亡くなってしまった。

　私達は２度も息子を失ってしまった。

　けれどもグレイが、彼女が本物の息子を連れて帰って来てくれた。

《本当に、すまない》

『良いのよアナタ、もう良いの』

『あの、すみません、こんな子供で』

《いや、腰の低さは王子の資質とは無関係だと思ってくれて良い。賢さと正しさを、先ずは理解してくれ》

『はい』

　生まれ育った環境で人は幾らでも変わる、しかも彼は尊大さとは程遠い、それもまた美点なのだが。

　嘆かわしい、威厳だけでは王子はこなせない、だと言うのに。

「お体を売らずに居られたのは、天国丸のお陰です、ですのでどうかお責めにならぬ様にと進言させて頂きます」

　子女でも男子でも、貧困街では子供の売春も横行している。

　そう聞いてから、ずっと不安だったのだけれど。

《コチラが医師の診断書となります、ご病気も御座いませんのでご安心下さい》

『あぁ、本当に、良かったわ』

《子女となれば更に妊娠も危惧せねばならなかった、だが、すまない》

『いえ、もう良いの、無事に戻って来てくれたのだから』

　子女よりも男子が良く売れる、そう聞いた時はもう、血の気が引き倒れてしまった。

　妊娠せず長く稼げる、男子でも決して無事では済まないかも知れない、と。

　けれどあの子は無事だった。

　怪しい薬の製造に手を貸してはいたけれど、そのお陰で体を売らず。

《すまない、もう暫くは監視を頼む》

《はい》

『グレイ、少し』

「はい」

『アナタからもお願い、もし子が出来ても面倒は見るわ、だから、ね？』

「あの、申し出は有り難いのですが、何分、経験が無いので」

『あらあら、なら余計にお願いするわ、あの子の目を見たでしょう？』

「あの、アレは尊敬や憧れの」

『まぁ良いわ、兎に角お願いね』

「はぃ」

　勇ましくも麗しい男装の女騎士、グレイ、そして令嬢としての名はグレース。

　なのだけれど、もしかしてウチの子、グレイを本当の男として見ているんじゃ。

　まぁ、良いわ、まだ若いんですもの。

　大丈夫よね、多分。

「おやすみなさいませ、オスカー様」

『あの、グレイって本当の名前なんですか？女性、ですよね？』

「あぁ、女です、本当の名はグレースです」

『あ、そうなんですね』

「アナタにも、以前にお名前が有ったかと」

『ジェイドです、気が付いたらそう呼ばれていました』

「良いお名前ですね」

『そうなんですか？』

「美しい宝石の名です、今度お見せ致しますね」

『はい、ありがとうございます』

「いえ、ではおやすみなさいませ」

『うん、おやすみなさい』

　そうして王宮内の粛清から１年が経ち、オスカーとなったジェイドは、１４才になった。

　以前の王子とは違い、歌の練習は無し、その分は知識を覚えさせる事に。

　そうして近くに居る事で、以前との差も見えて来た。

　コチラの方が物覚えが良く、怯えも劇的に減っている。

　ただ、今回殺処分した者達が相当に邪魔をしていたのかどうか。

　全くジェイドの報告を聞こうともしなかった私には、比べる事は難しく。

　けれど以前に漏れ聞こえた時よりは、良い方向へ向かっている、筈。

《グレイ》

「あぁ、クロウ、どうした」

《そろそろ結婚しませんか》

「お前と、か」

《はい》

　はい？

「なぜ」

《分かっていますよね、妙齢の者が未婚では変な噂しか出ません》

「お前との事か」

《本気でアナタが男に間違われ僕が男色家だとの噂も、ですし、下手をすればオスカー様にもご迷惑が掛かるかと》

　この日まで、私はすっかり忘れていた。

　彼の、ジェイドの瞳に宿っていた情愛の残滓を。

「もう２年、いや４年経てば」

《アナタにそんな趣味が》

「いや今直ぐにオスカー様との噂は出ないだろう、と」

《紛らわしい言い方をしないで下さい。で、気が有るんですか無いんですか》

「男装の女騎士を娶るとかお前は凄い趣味を持っているな」

《はぐらかした事は置いといて、僕かオスカー様、どちらかに気が有るか無いかを聞いているんですが》

「壁に追い詰めるな殴るぞ」

《僕は本気ですよ》

「何について」

《全てです》

　前はこんな展開は無かった筈なんだが、どうしてこうなった。

「おい侍女助けて下さい」

『グレイ様もクロウ様もお強いので、滅多に間には入るな、と。私は怪我をしたくないので仲裁は無理です不可能です』

「いや今こそ助けるべき時だろう」

『お答えすれば良いだけ、では』

《ですね》

「貴様、ぁあ、賄賂か」

『お心配りは頂いておりますが、あくまでも労いかと』

《僕に任せっきりにしたのが仇になりましたね》

　悪目立ちを回避する為、クロウに差し入れを任せていた事が仇に。

　しかも耳元で囁くとは、何と卑怯な奴だ。

「先ずは何故か、何が琴線に触れたのか」

《オスカー様への扱いで見直しました、今のアナタとなら子育ても出来るだろう、と》

「いや抱けるかコレを、男並の筋肉の」

《でも出る所は出て括れるべき部分は括れていますよね、そこそこ人気なんですよアナタ》

『ですね』

「おい侍女どう言う事ですか」

『女の噂とは怖いものですね、美しい肉体との噂は女性の間だけでの評判だったのですが。男性陣にまで飛び火してしまったのかも知れません』

「いや主犯はお前だろう」

『あらこの部屋から出て行って既成事実が出来ても私は構いませんが』

「いや助けろ下さい、ジワジワと近付かれてる」

『ハッキリ仰っしゃれば諦めて下さるかと』

《そこは考えておきます》

「選ぶも何も私の月経は少なく軽い、子が出来無いかも知れないが、妾を持たれるのも妾になるのも嫌なんだ、だから女ながらに騎士道を」

《してみないと分からないのでは》

『仰る通りで御座います』

「だからと言ってホイホイとヤ」

《だから結婚しようと言っているんです》

　半ば冗談なのかと思ったが。

　コイツの目は、クロウの目は本気だ。

　だが。

「そうした目でお前を見た事が無いんだ、少し考えさせて欲しい」

《分かりました、良いでしょう》

「はぁ、全くっ」

　クソっ。

　油断した、完全に油断していた。

　近かったばっかりに、まさかキスをされるとは。

《アプローチをしない、とは言ってませんから、あまり隙を見せると手を出すかも知れません。では、失礼致します》

　ただジェイドの世話を少ししていただけで、どうしてこうなった。

「おい侍女、何で、どうして助けなかった」

『王妃様からも、せっつけとご命令が有ったので、はい』

「いや、だが、思い出したがアレには、クロウには婚約者が居た筈だが」

『どうやら怪しい繋がりが有ったそうで、少し前に破棄なさってましたよ』

「いやそれはクロウの捏造だろう」

『詳しくお伺いする立場に御座いませんので』

「お前ぇ」

『お嬢様の為です、少しは前向きにご結婚を検討して下さいませ』

「もう既に、姉上と兄上に子供が居るだろうに」

『それはそれ、コレはコレ、時として親は欲張りなので御座います』

「はぁ、まぁ良い、念の為に破棄の詳細を聞きに行く」

『ですね』

　そして、実際にも怪しい繋がりは確かに有った、と。

　そう言えば前世のクロウは結婚が上手く行かず、別居状態だったが。

　そうか、すっかり忘れていた。

「結婚後、王子に誘いを掛けようとしていたとはな」

『お美しい容姿に素晴らしい歌声。以前の方は少々、尊大と言えば尊大でしたので、お会いした方の殆どが虜になっていらっしゃいます。ですので、だからこそ、アナタ様にお誘いが有ったのです、なのに子供扱いするばかりで、何ですかあの態度は、可哀想にも限度が有ります』

「お前は誰の味方だ侍女よ」

『５︰３︰２でオスカー様の味方です』

「３は私か？」

『オスカー様、王妃様、クロウ様です』

「アナタは私の侍女ですが」

『オスカー様の事もしっかり考えて下さるなら割合を増やします、それまではこの割合です』

「考えるが、少しは間に」

『恋路を邪魔し馬に蹴られて早世したくないので加減させて下さいまし』

　もしかして、私はジェイドの恋路を邪魔してしまい、それで排除されてしまったのか。

　有り得る、誰に、などとは言わず抽象的だったしな。

　成程。

『あの、グレイは』

《月経休みですが、直ぐに復帰するかと、少なく軽いので》

　王子はどうしてそんな事を知っているのか、と言った顔をしてらっしゃいますが。

　最早、近衛兵の常識と化してしまっているんですよね。

　勤勉で真面目、しかも社交界には一切出ずに見合いもせず、仕事仕事仕事。

　仕事か月経休みしか無い、堅物で冷血冷酷なる女騎士、だったんですが。

　オスカー様の近衛兵となり、世話まで始めた。

　決して怒鳴らず声すら荒げない、元からそんな人だったんですが、より柔らかくなった。

　時に優しく微笑み、時に寄り添い慰める。

　一部からは応援の声は勿論、時に歓声や悲鳴を我慢する熱狂的な支持者も増え始め、果ては侍女や侍従までもが噂を絶やさず大盛り上がり。

　にも関わらず、本人達は全く知らない。

　しかも、この明らかに雰囲気が変わったグレイに、いやグレースにちょっかいを出そうとする者まで出始め。

　事の収集に当たる為にも、兄であるアッシュ様に相談しつつ、今回動いたんですが。

「大変だったな」

　元婚約者の件に関しては、ハッキリ言ってこの方のせいです。

　王子がダメならグレースを、そんな女色家の思惑も絡んでの事。

　どうしてやりましょうかね、この鈍感娘を。

《半ばアナタのせいでも有るんですよ、責任を取ってくれませんか？》

　おや、冗談半分のつもりが。

「私が、君とヴァイオレットの邪魔をしてしまっていたなら、すまない」

　惜しい。

　以前なら冗談としか思わなかった人が、やはり王子のせいで変わってしまったんですね。

　良い意味でも、悪い意味でも。

《殆ど冗談ですよ、僕はヴァイオレットを大して好いていませんでしたし、元々嫌な予感がしてたんです》

「そうか、やはり私は少しでも邪魔を」

《していませんってば、寧ろ今までヴァイオレットの相手をして下さってありがとうございました》

「当然だ、同じ女性として守るのが私の役目だからな」

　半分はアナタ目当てだったんですよ、俄（にわか）には信じ難かったですが。

《それで、少しは考えて頂けましたか？》

「いや、邪魔をしてしまっていたのかと思うと、それどころでは無く」

『あ、グレイ、もう大丈夫？』

「はい、お陰様で、それに私は普通の子女より少なく軽いので。どうか他の方を慮って差し上げて下さい、中には起き上がれない程の者もおりますから」

『そうなんですね』

「はい。それで、王子は」

『あの、飴を作る場所に、いつ』

「では試験を行いましょうか、そうして合格した場合、お見せします」

『うん、分かった』

　扱いが明らかに上手い。

　まさか、アッシュ様の奥方、マリー様の助言を受けての。

　有り得る、と言うか完全に盲点でした、グレースにも相談相手が居る事を。