『サンタさん』へのプレゼント

白藤しずく

第1話

 突然ですが、12月24日、クリスマスイブの晩に、玄関やクリスマスツリーの下にプレゼントを置いているのは誰だと思いますか?


 赤い服を着ていて、白くて長いおひげで、トナカイの引くソリに乗ってくる『あの人』だ! と思ったそこのあなた。大正解。だけど、ここから先はちょっと読まない方がいいかもしれない。ここから先を読んでしまうと、もうクリスマスにプレゼントがもらえなくなってしまうかも、しれないから。



 これは、クリスマスの日の朝、高校2年生の私が、最高のプレゼントをもらった、本当にあったお話です。



 きっと、今これを読んでいる人は、「サンタさん? そんなの居るわけない」なんて思っている人も多いのではないでしょうか。確かに、とても言い難いことだけど、赤い服を着て白くて長いおひげの『あの人』が、プレゼントを届けに来てくれるわけではない。だって、いくら子供たちの夢を叶える仕事とはいえ、人の家に勝手に入ったら住居侵入罪で捕まるし、手紙と共に置いてあるミルクやクッキーを飲んだり食べたりしてしまえば、窃盗犯にもなりかねないから。

 だけど、『サンタさん』は実在します。

 実は私も『サンタさん』なんです。


 私には、3つ下の弟と8つ下の妹がいます。弟に関してはもう中学生だけど、まだ赤い服で白くて長いおひげのサンタさんがプレゼントを届けに来ていることを信じているみたい。妹はまだ小学3年生だから、もちろん信じているし、毎年9月ぐらいには欲しいものをお願いして、サンタさんへのクリスマスカードも作っています。

 私にもサンタさんを信じている時期がありました。きっと皆さんにもあったと思います。「早く寝ないとサンタさん来ないよ!」と言われ、すぐに寝付いた12月24日の夜。楽しみ過ぎて早く目が覚めて、眠い目を擦りながらプレゼントを探した12月25日の朝。中には、「サンタさんに会うんだ!」と意気込んで、夜遅くまで起きようとして結局寝てしまった、なんて経験がある人もいるかと思います。

 私が特に記憶に残っているクリスマスの思い出は、小学4年生の時のこと。当時は、私も妹のようにサンタさんへの手紙やプレゼントを作っていました。その年は特に気合いが入っていて、プレゼントを手作りして丁寧に包み紙に包んで置いておきました。翌朝、プレゼントの中身だけなくなり、残った包み紙には英文でメッセージが書かれていました。その頃の私は、まだ「アイム ファイン」を理解するのがやっとな年頃だったから、意味は理解出来なかった。だけど、その英文がサンタさんがいることの証拠になっているようでとても嬉しかったのを覚えています。


 中学生になって、母親から、

「もうお姉さんになってきたから、サンタさんは来ないみたいなの。だから代わりにお母さんがプレゼントを買ってあげるね」

 そう言われました。今までは、友達にいくらサンタさんなんていないと言われようが、信じてきた私ですが、この頃私に、「サンタさんは親なのではないか」という意識が芽生え始めます。

 翌年。中学2年生の時、母親に問われました。

「サンタさんって本当にいると思う?」

 この時私は、根拠があるわけではないけど、なぜかサンタさんは親なんだと確信しました。だから、

「いないと思う」

 と答えると、母親から、妹へのプレゼントの相談を持ち掛けられました。

 中学2年生の冬、私は『サンタさん』の一員になったのです。


『サンタさん』になった私は、とにかく弟と妹が大好きで、親バカならぬ姉バカだったので、翌年の中学3年生の時から、弟と妹に私からもプレゼントを用意するようになりました。もちろん極秘で。私は『サンタさん』であり、ただプレゼントを渡す姉さんではないから、2人が寝たあとこっそりプレゼントを置いていました。翌朝には、あたかもそれがサンタさんの仕業かのように、「サンタさんってもう1人いるんじゃない?」なんて言っていました。

 高校1年生の時の冬も、同じようにプレゼントを用意しました。そして、今年、私が高校2年の冬も同じようにプレゼントを用意しました。妹は恐竜が大好きだから、妹には恐竜図鑑と恐竜のフィギュアを、弟にはもう中学生だし実用的なペンケースを買いました。12月24日の夜、2人の椅子の上にそっとプレゼントを置いて眠りました。

 翌朝の6:30。

「ねぇね! プレゼント探しに行く!」

 という妹の声で起きた私。妹はまだ眠そうに目を擦りながら、階段を降り、リビングへ。椅子の上にある私からのプレゼントを先に見つけましたが、一旦見て見ぬふりをして妹は本命のおもちゃの元へ駆けつけました。

「届いてる〜!!」

 ずっと楽しみにしていたおもちゃに妹は目を輝かせていました。おもちゃを箱から取り出すと、すぐに私からのプレゼントも取ってきて、中身を確認。

 妹は嬉しかったのか驚いたのか、言葉を発さずに恐竜のフィギュアを眺めていました。実は2日前、妹は突然恐竜フィギュアを買いたいと言い出していました。だから、フィギュアを眺めて、

「つぶらな瞳だ…」

 と嬉しそうににっこり。妹の言った感想はさておき、嬉しそうな妹に私もにっこり。

 ちょうどその頃、弟も私からのプレゼントを見つけ、中身を確認していました。

「ペンケースだ…! ペンケース欲しかったんだよ」

 どうやら、弟が使っていたペンケースは、使い勝手が悪く、新しいものが欲しかったようです。よほどペンケースを気に入ってくれたのか、弟は早速今まで使っていたペンケースから、ペンを移し替えていました。

 高校2年生の新米サンタは、見事弟と妹に素敵なプレゼントを送ることが出来たのです。そして私は、『クリスマス』というイベントに隠された大きなプレゼントにやっと気がつくことが出来たのです。

 一昨年も去年も、私は弟と妹にプレゼントを送りました。きっとそれは儀式的なものでした。親が子供にプレゼントを送るように、私も年上の立場としてプレゼントを送りたい、そんな風に思っていたのでしょう。小さい子が突然大人の真似っこをし始めるように、私も親の真似がしたかった、きっとそんな心理だったと思います。だから、どうしてみんながわざわざサンタさんのふりをしてまで、プレゼントを用意するのだろう、クリスマスに親が子供に内緒でプレゼントを送ることがどうして定番の行為と化したのだろうと不思議に思っていました。

 だけど、今年、プレゼントを喜ぶ妹や弟、嬉しそうな2人を見て微笑む母や父の様子を見て、私はやっと気がつきました。

 世界中の『サンタさん』は、ただプレゼントを子供にあげるだけじゃない。毎年、『サンタさん』は子供たちから笑顔という最高のプレゼントをもらっているのだと。喜ぶ子供を見てたくさんの幸せをもらっているのだと。手作りのクリスマスカードもミルクもクッキーももちろん嬉しいけど、『サンタさん』が一番欲しいのは、我が子の笑顔であり、家族の幸せだったのです。

 私も今年は最高のプレゼントをもらいました。部活や塾で家族といる時間が減った私ですが、やはり家族といる時間が一番の安らぎであることをしっかりと感じました。


 この話はありきたりなことばかり。でも、案外ありきたりなことって一番見失いがちなのです。これは、家庭に限った話でもないし、プレゼントは物に限らなくてもいいし、なんならクリスマスに限った話でも無いと思います。

 例えば、困っている人を助けてあげて、「ありがとう」と言われた。「ありがとう」と言われると誰もが少しは嬉しく思うはず。これは『サンタさん』が、プレゼントをもらって喜ぶ子供に幸せをもらっていることと同じことが起きているのだと私は思います。つまり、誰でもいつでも『サンタさん』になることが出来るのです。ささやかなプレゼントはきっと自分にも幸せをくれる。世界中がプレゼントと『サンタさん』で溢れていたら、どんなに素敵なことでしょうか。



 長々と話しましたが、この話が皆さんの心に少しでもプレゼントを届けられていたらいいなと、私は思います。



 ※この話は実体験を元にしたエッセイです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

『サンタさん』へのプレゼント 白藤しずく @merume13

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ