第21話 複雑な心境
一緒に行くとは言ったものの・・・。
私の内心は複雑だった。
今日はノアの家に泊めてもらう。
部屋は彼と別の部屋。
まさか「帰りたい」と言い出すとは思ってもいなかった。
ここで一緒に暮らすものだと信じ切っていたのだ。
「王都に行って、図書館で調べて・・すぐには分からないだろうけど・・」
ベッドの上で、うつ伏せになる。
金色の髪を触り、静かに目を閉じた。
「私は一体どうしたらいいんだろう」
****
「ファン様、また外を見ておられるのですか」
「ああ、退屈きわまりないからな」
オレは魔道具で遠くを見ていた。
最近はもっぱら上空を観察している。
「この前の奴、いないかな」
昔はあちこち移動して楽しかったな。
今みたいに窮屈なのも無かったし。
「また、冒険したいな・・」
「いけません!外は危険で何があるか分からないんですよ?人間は相変わらず、野蛮な者たちですし」
この村にいて、変わらない日々を過ごすのは飽き飽きしていた。
「いるだけで、楽しくない」
上の立場だと動きにくくて仕方がない。
この前、空中に浮いていた少年に会ってみたい。
そうすればこの退屈な日々が変わるような気がした。
年齢は幼く見えたが・・懐かしいあの黒髪はあいつを思い出させる。
そういえばあいつ元気かな?
家に無事に帰れたのだろうか?
確認できるすべはない。
「そういえば、勇者と呼ばれていたっけ・・」
あいつは恥ずかしがっていたけど・・・。
「名前はウラノと言ったか・・」
黒い瞳でいつも笑顔を絶やさず、やたらと元気だった印象だ。
「何とかなるとか、いつも言ってたな」
ウラノがいればどうしていただろう。
あいつのことだ、「お前の好きにすれば良い」と言っただろう。
そういう奴だった。
****
「リアナ?」
最近リアナが浮かない顔をしている。
何かあったのだろうか。
訊いても「何でもない」としか言わない。
村に戻って来てから数日が経った。
「母さん、王都にそろそろ行こうと思ってる」
「そうか・・気を付けるんだよ」
俺はリアナに話しかけた。
「あのさ・・俺に遠慮しなくていいから。行くのが嫌だったら行かなくてもいいし」
「嫌って訳じゃ・・ないけど・・・ノアがいなくなるのかと思って・・私はどうしたいのかって考えたら、訳わかんなくなった」
彼女は俯いて答えた。
「悪かった・・悩ませちゃったね」
「私はずっとノアと一緒にいたいよ」
「俺もリアナと一緒にいたい」
俺はリアナを優しく抱きしめた。
「まだ、帰れると決まったわけじゃない・・その時考えればって、いい加減かな?」
「適当・・」
「だよな」
考えていても何も始まらない。
先ず調べてみて、出来るのかどうか。
実際、帰れるのか分からないのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます