第20話 帰りたい

「あの男は一体何者だ?」

面白い事はないかと、今日も魔道具で遠くを見ている時に発見したのだ。

「宙に安定して浮かんでいるな。自在に風魔法を操っているようだ」

床まで付きそうな長い銀髪の男は呟いた。

「人間が、あそこまで自由に風を操れるのか?」


****


「どうする?まさか毎回、ミランから逃げるわけにもいかないよね」

俺はため息をついた。

「そうねぇ。いっその事引っ越す?」

リアナは考えがあるみたいだ。


俺はラクノ村に帰ってきた。

家に帰ってきてホッとする。

「まぁ~彼女を連れて帰ってくれたのね。うれしいわ」

義母ナタリアは、満面の笑みを浮かべている。

「今日はノアの好きなご馳走作らなきゃね」


「帰ってきて良かったな」

ぶっきらぼうに義父ハイム、が新聞を見ながら言う。

少しは心配していたのかもしれない。


「そういえば、俺、記憶戻ったんだよね」

最初に伝えるべき人たちに言ってなかった。

「それは良かったわ。それでノアは、何処からやってきたのか分かったの?」

真剣な表情でナタリアは訊ねる。

「うん・・。信じられないかもしれないけど、俺は違う世界から・・異世界からやってきたんだ。本当の名前は浦野 湊」


「へえ~。そうなのね」

「信じるの?」

「そりゃあ、出会った時から・・噓なんてつけない性格なのはわかってるよ」

俺の髪をくしゃりと撫でる。

「珍しい黒髪も、黒目もそういう事なのかねぇ。昔の勇者も異世界から来たって聞くしね」

「・・・・」

また、勇者か。

そういう面倒くさいのはごめんだ。

まあ、さすがに無いとは思うけど。


「どうにかして家に帰れないかな」

記憶が戻ると、実の母親の事が気がかりだった。

喧嘩別れして俺は行方不明だ。

必死に探し回っているかもしれない。


「そうねぇ。初代勇者は帰ったらしいけれど、本当に帰ったのかは分からないしね」

「帰ったの?」

「伝承ではね。千年前の事さ」

気が遠くなる話だった。

人は百年も生きられるかどうかなのに千年って。


「当時の仲間がいればわかるのだろうけど・・・」

「え?」

「勇者の仲間だった人、エルフがまだ生きているかもしれないよ」

「えええ?」

そんなに長生きな人種がいるなんて。

少し、希望が見えてきた。


「俺は、王都の図書館に行って勇者の事を調べようかと思っている。リアナはどうする?」

王都にある大きい図書館は、大概のものが揃っていると言われている。

「私も行く」

「そっか」

今の俺は正直、リアナと離れることは考えられない。


元の世界に帰れるか分からないけど、彼女とはずっと一緒にいたい。

わがままだと思うけれど。

彼女の本心は、聞いてみないとわからない。

「その時になったら、考えればいいか・・」

まずは調べてみてから、それからだ。


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