第18話 ケニーという男

ミランは興奮して喋ったので、声が大きくなっているようだった。

嫌な予感。

宿の前で話していた俺たちは、通りすがりの人たちの視線を集めていた。

「ナタリア様?息子って言ったか?」

ざわざわと周辺があわただしくなった。


「逃げるぞ」

俺はミランの手を掴み、細い路地に逃げ込んだ。

そういえばミランは置いてくればよかったのでは。

一緒に逃げる必要は無かった気がする。

「もう~ノアったら強引なんだから」

あれ?ミランの様子がおかしい。


頬を指で、す~っと触られる。

「ひゃっ!」

何だ?何なんだ??

「大魔法使い様の息子さんだったなんて、早く言ってよ~」

ミランはぺたぺたと俺の手を触ってきた。

目つきが獲物を狙っている視線だ。


「・・な、何をしてるのかな?」

俺は思わず後ずさった。

こういう時はどうすればいいか。

逃げるしかない。

体に風をまとい、宙に浮かせる。

俺は急いでその場から離れた。


****


「何なんだよ・・」

俺は宿屋に戻って毛布をかぶった。

「どうしたの?」

リアナが不思議そうに見つめてくる。

「・・俺が、ナタリアの息子だって知ったら、ミランの目つきが変わっちゃってさ・・パーティ解散かな」


「あ~そういう事ね。彼女昔からそういうの好きだったからね・・。まあケニーを押し付けておけばいいんじゃないかな」


押し付けるって・・。


「多分、リアナはケニーのこと嫌いではないと思うのよね~。ケニーもはっきりと言えばこんな事にはなってないのよね」


引っ越しは止めることにした。

またミランに迫られる可能性があるからだ。

まずはケニーを探す事にした。


「ケニーを押し付けるとか・・そんなので上手くいくのかな」

俺はケニーって奴をほとんど知らないんだけど。

「はあぁぁ・・」

俺はため息をついた。


とりあえず冒険者ギルドに行ってみた。

すぐに見つかった。

依頼の掲示板のボードを眺めているようだ。

ガタイが大きくて目立つんだよね。

あのくらい筋肉あったら大概の力仕事は出来そうだな。

声をかけずに見ていたら、向こうからやってきた。

「何か用か?」

俺の向かい側の席に腰を下ろすケニー。


「ああ、あんた良い筋肉だなあって思って」

「男に褒められても嬉しくはない」

表情が表に出ない人物のようで、何を考えているのかわからない。

「えっと、ミランって知ってる?」

言って直ぐに変な質問をしたなと後悔した。

知ってるもなにも同じパーティだったからだ。


「どういう事だ?何かあったのかミランが」

表情は変わらない気がするが、明らかに動揺しているようだ。

「リアナの言っていた通りだな」

俺はケニーに正直に話すことにした。



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