第9話 前の記憶

「行方不明者の捜索・・」

俺は依頼書を見ながら呟いた。

「いったい何があったのかしらね。危なかったら逃げてもいい・・ということは調査だけでもいいということね」

場所はギルダ山脈付近、隣の国へ行くにはどうしてもここを越えなければならない。

強いモンスターが出ているということか?


俺たちはギルダ山脈へやってきた。

俺の風魔法で、俺とリアナさんで上空での偵察ていさつだ。

歩いて行くよりも安全に移動できると思ったからだ。

「貴方チート過ぎない?風魔法でここまでコントロールできる人なんて知らないわよ」

「そう?」

「見た感じ平凡な容姿なのにね」

「っつ・・!」


風魔法の威力が落ちた。

「えっ?」

俺とリアナさんはそのまま急降下する。

「落ちる~~ちょっと!」

「ごめん、ちょっと頭痛が・・」

「ほんと頼むわよ。ここから落ちたら大怪我するじゃない」

落ちる手前で、ゆっくりと地上に足が付いた。

何だ?この頭痛・・・。

「え?ちょっと顔真っ青じゃない。帰ったほうが良いんじゃ・・」

俺は意識を失った。



****



「まいったわね」

まさか彼の体調が悪くなるなんて。

私は座り込み、彼の頭は私の膝の上にのせている。

「そのうち起きるわよね?」

今いる場所は崖の下だ。

周りは岩だらけで隠れる場所がない。

「彼、無理していたのかな・・」

モンスターが出てきたら、私が戦うしかない。

元から戦うつもりで来たのだけど。

私は少し心細くなっていた。



****



俺は『浦野湊』15歳だ。

ただいま受験勉強真っ盛りで、母親に八つ当たりしてしまった。

ピリピリした空気がしんどい。

ああ、ゲームしたい。

マンガ読みたい。

勉強止めたい。

学校からの帰り道。

ぼーっと歩いていると、信号が赤になったのに気が付かず、俺は横断歩道を歩いていた。

「え?」

ドン!と音がした。

そこから意識がなくなり・・。

ああ、俺日本人だったのか。

通りで黒髪、黒目なわけだ。



****



「ん・・」

「あ、起きた!良かった」

ほっとしている、リアナさんの顔が見えた。

「あれ、俺って・・」

「急に気を失っちゃってびっくりしたよ。目を覚まさないかと・・」


俺はこの世界に移動してきたらしい。

ようやく記憶が戻ってきた。

「あまりいい記憶ではないな・・」

「ん?」

母親と喧嘩別れしたのが悔やまれる。

まぁ終わったことだけど。

記憶が戻ったけど特に変わらないな。


「あれ?何だか雰囲気違う?」

リアナさんが俺を見て言った。

「え?どういう風に?」

「・・よくわからないけど。今までは、ほんわかしてたのが、はっきりした感じ?」

「そうか」


「やっと自分を取り戻したからかな」

俺はリアナさんに苦笑した。


恐らく、元の世界には戻れないだろう。

この世界で生きていかないとな。

やることは今までとは変わらない。

記憶が戻って、気持ちが少し落ち着いたくらいかな。







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