第47話 理想の生活か、かつての仲間か
アレンは冷や汗をかきながら頭を抱えた。
気が重い。重すぎる。
ラヴィリア・シギド。
彼女はノワールに会いに来たらしい。
ジオフリードの存在が決定的になって、もはや傭兵ノワールの正体がアレン・ノーシュである事を確信しているかもしれない。
「ラヴィリア来てんのかッ!? アイツ喜ぶだろうなー、アレンが生きてる事知ったら。久しぶりに会おうぜッ、なあアレン」
眠気が覚めたのか、ベッドの上に立ってレオハルトが勢いよく叫ぶが、アレンは首を左右に振る。
「待て、レオハルト。俺は彼女と会う気はない」
「……え、何で!?」
目を丸くするレオハルトに、アレンは真剣な表情で閉眼しながら腕を組む。
難しい顔をしながら、内心では情けない叫び声を上げて相棒に助けを求める。
(どうしよう、アスモデウス。レオハルトとは違ってラヴィリアは現役の世界騎士だ。彼女にも生存がバレたら世界騎士に復帰してくれって言われそうじゃない?)
直後、頼りになる雷殲剣の声が脳内に響く。
(……のう、アレン。一つ思ったのじゃが、レオハルトには説明してないじゃろ?)
(何が?)
(何故魔王との闘いで生き残れたのか。そして、わらわの力を使うための本当の代償を)
(当たり前じゃん。代償は寿命じゃなくて性欲だったから生き残れましたなんて口が裂けても言えないよね)
(であれば、残された寿命が少ないから、生きている事を知らせてぬか喜びさせたくないとでも言うが良い。そして残った僅かな寿命を世界騎士では救えない人々の為に捧げる事にした。そう言えば今までの行動とも整合性が取れるのじゃ)
(……聖人過ぎる、俺)
(実際はただのニート願望しかない馬鹿じゃが)
(……血が付いたまま鞘に仕舞って放置すんぞ)
(ならわらわは大声でアレンが生きてる事バラすのじゃ)
(すいませんでした)
他に考えもないため、アレンはその案を採用する事にした。
アレンの生存を誰よりも喜ぶレオハルトにとっては辛い嘘かもしれない。
だが、本当の代償を悟られたらレオハルトがアレンに抱く尊敬の思いが失望と軽蔑に変わるだろう。
名声に大きく傷がつき、
罪悪感を抱きながら、アレンは演技で儚げな笑みを浮かべて見せる。
「レオハルト、お前は【大罪兵装】の一つに数えられる雷殲剣の代償を知っているだろう? 俺は魔王と戦った時、死をも厭わない覚悟だった。何とか寿命が尽きる前に魔王に勝てたが、残された寿命はそう長くない。つまりラヴィリアに俺が生きている事を教えても、また悲しませるだけだ。俺は半分死者のようなもの」
自分の身体の事は一番分かっている。
そう続けるアレンに、レオハルトは表情を歪めて抱き着いてきた。
「……やだッ、やだ! 折角、会えたのに……もう一度、もう一度アレンを失うなんて……耐えられないッ‼」
「レオハルト、お前は危機に陥っていたから助けに来たが、本来お前にも二度と会うつもりはなかった。こうして会えば、二度悲しませる羽目になってしまうから。だから魔王戦後、皇国には戻らず俺は残された寿命を世界騎士では救えない人々の為に使おうと決めて旅をしていた」
眉尻を下げるアレンがレオハルトの頭を優しく撫でる中、レオンが深刻な表情で視線を下げた。
「……アレン氏、そうだったのか。そういえばリグアクアの王は傭兵ノワールに深く感謝していたよ。多くを語らなかったが、アレン氏は世界騎士じゃなくなっても、英雄であり続けているんだね」
「……」
レオンの尊敬と賞賛、そして深い悲しみを宿した眼差しが痛い。だが、これでラヴィリアと会わない口実はできた。
「そういうわけだ、レオン。本当に心苦しいが、ラヴィリアとは会わな――」
「ただアレン氏。ラヴィリア殿が立ち入ろうとしている問題は、某が聞く限り彼女の命を脅かしそうだ」
「……」
「今のラヴィリア殿を見ていると、人工英雄の脅威を目の前にした、この国の各街を治める首長達の表情を嫌でも思い出すんだ」
いや、意味が分からない。
魔王を滅ぼしたのに、まだ人界大陸には世界騎士が命の危機を感じる程の敵がいるとでも?
アレンは再び頭を抱えたい気分になった。
このままラヴィリアには会わず、獣王国でダラダラ過ごすか。それともラヴィリアが抱える厄介事に協力するか。
協力しなかったら、ラヴィリアはどうなるだろう。
死なないかもしれない。レオンの心配は杞憂かもしれない。でも死ぬ可能性だってある。
「……レオン」
「なんだい?」
「……ラヴィリアと会おう。呼んできてくれ」
アスモデウスの苦笑する声がアレンだけに届いた。
幸い、【変幻の鏡】を使えば正体はバレない。
さっさとラヴィリアが関わっている厄介事とやらを解決して、悠々自適なスローライフを必ず手に入れてやろうとアレンは決意を新たにした。
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