第34話 皇国の企み
アレンは夢から覚めると同時に、状況の把握に努めた。
どれくらいの時間、眠っていたのか。体感的には数分だ。
自分の身体は手の甲以外は何ともない。
レオハルトはどうか。
周囲に視線を走らせ、アレンは仮面の下で目を大きく見開いた。
村は跡形もなく更地と化している。至る所で地面が大規模に陥没している。
その円形に窪んだ地形の一つに、ライゼルが血だらけで倒れていた。
傍にはレオハルトが片膝を地について肩で息をしている。
思わず駆け寄ろうとしたアレンを対峙するフィーアが制止した。
「……待って。今は動かないで」
「……何?」
「そのまま負けたふりをしていて、黒曜の騎士」
……いや、何で正体がバレてるの?
思わず仮面に手を添えるが外れていない。
ひょっとして先ほどの夢を彼女も見ていたのか。
「あの日、冷たい牢獄に貴方だけが助けに来てくれた。結局こうなってしまったけど、貴方の助けたいという想いは本物だと分かったわ。だから、一度だけ助けてあげる」
思わず固まるアレンを他所に、フィーアは空を見上げる。
アレンがその視線を追うと、雲の隙間が揺らめいた。
ライゼルが降下する時に感じた違和感の正体はアレだ。
透明な空間にノイズが走り、それは姿を現した。
ライトが放射され、一気に明るくなる。
例えるならそれは機械仕掛けの巨大な船。砲台がいくも設置された空飛ぶ戦艦。
『各国の王達よ、ご覧下さい。我々が擁する人工英雄の強さを』
戦艦は降下を始め、一定の距離を置いて停止した。
船の上には要塞が築かれ、その要塞の内部から遠見の水晶が空に散らばる。
更にその水晶と共に、甲板から紅い竜が飛び上がった。
竜の背には音の水晶を握ったヘルミスの姿がある。
『前皇王陛下を殺害した大罪人、世界騎士第六席レオハルトは虫の息です。人工英雄は世界騎士と何ら変わらない戦闘力を有する事がお分かり頂けたでしょう』
空に散らばった数十個の水晶に映るのはアレンも知る各国の王達の姿。
何が始まっているのか。
まるで今ここで世界会議を行われているような光景だ。
『この力を得たいと思った国々に我々は提供いたします。皇国はこの力を独占するつもりはありません。
演説は続く。
『魔族に怯える時代は終わりました。世界騎士に頼らない時代がやってきます。ただし、この力は大変危険な力です。保有する国々を選別する必要があります』
空中で繰り広げられる世界会議。
訝し気に眉根を寄せるアレンの傍でフィーアが解説してくれた。
「連戦でレオハルトを疲れさせ、その後にヌル、アインスと戦わせて現世界騎士が敗北した姿を王達の眼に晒す。ここまで皇国の思う通りに進んでいるわ」
「……全て筋書き通りだと?」
フィーアは頷く。
「そして皇国の意に沿わない国々は人工英雄を保有できない」
なるほど。ヘルミスはこの光景を王達に見せるためにずっと雲の上に隠れていたわけか。
特級の戦力を確保できない国々とできる国々。
王達はどちらを選ぶべきなのか。
答えは目の前にある。
水晶に浮かぶ王達が次々に賛同を示し始めた。
『ヘルミス殿。我が国は皇国を支持する。大罪を犯した世界騎士の処刑に賛同だ』
『我がレミュエル王国も同様』
『……致し方なし。インステリア公国も神聖皇国を支持する』
それ以外の国々も続く。
獣王国に近い国以外、中立だった国々も皇国につく。
『……待て、待つのだッ。皇国は魔王に協力して人魔大戦を激化させたのだぞッ、何百万もの人々の死に関わっていた国だッ』
『リグアクアの王よ。根も葉もない噂に踊らされている愚かな王よ。国益を優先しない貴方の判断が後々国を滅ぼす事になると分かりませんか?』
ヘルミスはそう告げ、紅い竜の背に乗ったまま指を差す。
示す方角の先には獣王国の王都がある。
『趨勢は決した。ヌル、アインス。お前達はレオハルトに止めを刺しておけ。我々は王都に向けて進軍する。獣王を拘束し、大罪人を匿ったその罪を負わせるために』
ヌルとアインスは傷つきながらもまだまだ戦えそうだ。
彼らが了承した事を確認し、戦艦に戻っていくヘルミス。
「ま、待ちやがれッ、王都には……向かわせねえ、ぞ……!」
レオハルトが叫ぶが、ヘルミスは振り返らない。
甲板に竜を着地させると同時に、重厚な音を立てて戦艦が再び動き出す。
雲を吹き飛ばして離れていく鋼鉄の船。
獣王国も危ないが、レオハルトの命が危ない。
「……全ては君がいなければ起こらなかった事だ、レオハルト。僕たちは君が生み出した化け物だ。自分自身を恨んで死ねッ」
ヌルとアインスがレオハルトに近付いていく。
ライゼルが主人を守ろうと震えながら立ち上がるが、すぐに倒れ込んでしまう。
レオハルトが振るう大剣をアインスが蹴り飛ばし、彼女の首にヌルが手をかけた。
「ぐ、がはっ」
そのまま彼はゆっくりと力をこめていく。長く苦しませるように首を両手で掴み、徐々に気道を絞めあげる。
「……く、そが……」
「死ね、レオハルトッ! 死んでしまえ‼︎」
抵抗していたレオハルトの腕から力が抜け、だらりと垂れ下がる。
死の間際、彼女は黒衣の騎士の背中を幻視した。
「……あ、アレン……」
来て、くれたのか?
気付いた時にはアレンは走り出していた。
全身に魔力を通して強化した身体能力をそのままに、ヌルの側頭部を力の限り蹴りつけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます