第035話 しゃ、しゃべったぁ!?

「おっ、あれって……」


 ダイヤウルフを倒して魔石を取り出した後、すぐ近くで見覚えのあるアイテムを見つけた。


 俺は倉庫から自分が書きつけたメモを取り出して見比べる。


「おおっ。あれは間違いなくヒーリングダケ!!」


 ヒーリングダケは、青白い色をしていて、緑色に発光しているという特徴がある。他のキノコと見分けがつかないということもない。


 ただし、丁寧に根元から獲り、傷をつけずに持ち帰らないと効力が消えてしまうという特性があるので、本来は慎重に採集しなければならない。


 でも、俺には育成牧場がある。


 触れるだけで綺麗にとれるし、倉庫内は揺れとは無縁なので、帰りに傷つくこともない。


「幸先が良いな」


 見つかるまで何度も通うことも想定していたので、初日で1つ目の材料を見つけられたのは良いスタートだと思う。


 俺は今後のことも考えて、全部は取らずにある程度残して採集した。


 その場を離れ、残りの4つのアイテムを探す。


 しかし、ヒーリングダケを見つけて以降、他のアイテムは見つけられず、モンスターと何度も戦う羽目になった。


「プー、プー」

「クゥ」

「ナーン」


 ポーラたちが戻ってくる。


 彼らもそれらしいアイテムは見つけられなかったらしい。その代わり、ポーラたちもモンスターを何匹か倒してきたようだ。


 森の最深部は広いし、アイテムは小さくて見つけづらい。貴重なアイテムというだけあって、なかなか骨が折れそうだ。


 今日はそこで探索を打ち切った。


 俺たちは少し開けた場所で休む。


 育成牧場が使えるようになってよかったと思えることの1つは、やっぱり食料をリュックの容量をあまり気にせずに持ち歩けることだ。


「美味しいな」


 街で買ってきた軽食を食べる。リリたちも一心不乱になってかぶり付いていた。


 今頃アイリもご飯を食べている頃だろうか。


 食べ終わった俺は、リリたちに見張りを任せ、家で心配しているであろう妹に思いを馳せながら眠りについた。



 探索2日目。


 1日目でトレントの魔力の形はある程度掴んだので、リリとプルー、ルナとポーラ、クロロ、俺の4つに分かれて探索を再開した。


 その日も成果が挙げられないまま、モンスターの魔石だけが増えていく。今日はオークにトレント、そしてグレイウルフの群れと戦った。

 

 リリたちも同等か格上のモンスターを倒しているので、レベルがどんどん上がる。


 その分、俺も力が増していく。そのおかげでさらにモンスターが倒しやすくなって安全度は上がるし、魔石が増えるスピードも速くなる。


 それと、見つからないアイテムよりも見つかるアイテム、ということで、探索しながらついでに進化に必要なアイテムも採集することにした。


 その結果、進化用アイテムが沢山集まった。



 探索3日目。


 ――――――――――――――――

 個体名  :なし

 種族   :ジャイアントスネーク

 属性   :木

 レベル  :26/40

 ランク  :C

 スキル  :なし

 状態   :空腹

 弱点   :氷属性攻撃

 潜在ランク:B

 ――――――――――――――――


 ジャイアントスネークという5メートル以上ある巨大な蛇型モンスターと遭遇した。


「アイスニードル!!」


 ステータスボードの情報に従って氷魔法を放つ。


 何本もの氷柱が直径50センチ以上あるその胴体に突き刺さった。


「グギャアアアアアッ」


 弱点というだけあって物凄い効き目だ。急に動きがにぶくなった。その隙を見逃すわけもなく、ジャイアントスネークを輪切りにしてとどめを刺した。


「チィッ」

「ピピ」


 ちょうどその時、リリとプルーが俺たちを呼びに来た。


 俺のメモに書いてある絵と似たものを見つけたらしい。


「おおっ。あれは聖水!!」


 二人の後についていくと、2つ目の素材、聖水を見つけた。


 聖水は深い森の中で、時折前触れもなく小さな泉として湧き出す不思議な水で、発光するようにキラキラと輝いていて、不浄な物を浄化する力を持っている。


 しかも泉は少し時間が経つと、まるで何もなかったように消えてしまう。


 俺は泉が消える前に倉庫から空き瓶を沢山取り出して、泉になっている聖水をできるだけ残さずに瓶の中に納めた。



 探索4日目。


 今日は素材の中で唯一場所が分かっているアイテムを取りに来た。


「これが万年樹か……でっかいな……」


 ここは森の中心部。真ん中には、大の大人が何十人もいないと1周できなさそうな幹の大木が聳え立っていた。


 不思議とこの空間にはモンスターが寄りつかず、神聖で幻想的な雰囲気が漂っている。


「申し訳ありませんが、母の病気を治すのに万年樹様の葉っぱが必要なので、いくつかいただいていきます。ご容赦ください」


 なんとなくそうしたいと思い、万年樹に祈りを捧げた後、リリに万年樹の葉をとってきてもらうことに。


『ほほぅ。ワシに声を掛ける者がおるとは珍しい』

「え!?」


 しかし、急に頭上から声が降り注いでびっくりしてしてしまった。


 辺りを見回すが、それらしい人影はない。


「だ、誰だ!! どこにいる!!」

『ここじゃよ、ここ。お主の目の前じゃ』


 俺は警戒しながら叫ぶと、再び頭上から声が落ちてくる。


 でも、本当にどこにいるのか全く分からない。ミラージュやシャドウムーブをしているとしても何か反応があるはずだ。


 俺の警戒度が上がる。


「嘘を付くな!! 本当に誰なんだ。正体を現せ!!」


 全く姿が見えないので、少し怒り気味に返事をした。


『嘘ではない。お主の目の前にいると言うておるじゃろ。ワシはお主が万年樹と呼ぶ木じゃよ』

「え……」


 俺は再び紡がれた言葉が理解できずに呆然となる。


「えぇええええ!? 木、木がしゃべったぁああああっ!!」


 そして、正体不明の存在の言葉が理解できた時、俺は大声で叫んでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る