第026話 切り札

 オークキングのステータスボードを確認する。


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 個体名  :なし

 種族   :オークキング

 属性   :なし

 レベル  :40/40

 ランク  :C

 スキル  :憤怒、再生(微)

 状態   :憤怒

 弱点   :なし

 潜在ランク:S

 ――――――――――――――


 恐らくオークキングはスキルの憤怒を使用したに違いない。


 憤怒はバーサークの上位版で、バーサークのデメリットである、錯乱状態にならないし、知能の低下も起こらない。


 強い怒りを感じた時のみ発動させることができ、一時的に大幅に力が上昇する。


 ただ、通常オークキングが持っていないスキルだ。普通はバーサークのはず。もしかしたら、潜在ランクがSランクと高いので、それが関係しているのかもしれない。


 それにレベルが上限に達している。相当強いはずだ。


 こんな時に普通じゃないオークキングに出逢うなんてついてない……。


 いや、とにかく今は体勢を立て直す必要がある。


「ポーラ、ヒールだ!!」

「プーッ!!」


 俺と肩に乗っているポーラが二人でキースを回復させる。


 ハイヒールは、ここぞって時まで取っておきたい。回復量の少ないヒールでも二人でかければその効果は大きくなる。


「助かったぜ!! あいつ、いきなり強くなりやがった!!」


 キースがすぐに飛び起きてオークキングを睨みつけながら構えた。


 どうする?


 強化魔法を掛けられたキースでも押さえきれない相手。でも、相手もオークキングしか残っていない。全員なら押さえ込めるはずだ。


 Dランクモンスターのチャコとカロン、ルナとキースが前衛。後衛としてエルとリリとプルー。クロと俺が遊撃。ポーラとクリス、そしてラッキーが回復と補助だ。


「キース、チャコとカロンと一緒に三方向からオークキングを押さえてくれ。くれぐれも攻撃は真正面から受けるなよ!!」

「おう!!」


 キースがチャコとカロンを引き連れて憤怒に陥ったオークキングに再び立ち向かう。


 オークキングが攻撃しようとすると、対象になっていない他の二人が攻撃をしかけて邪魔をする。


 あんなに恐ろしいモンスターに果敢に挑むことができる勇気は凄い。


「エル、リリ、プルーは遠くから攻撃を当てて牽制してくれ」

「分かったわ!!」


 エルたちは一人ずつ、キースたちの背後についてオークキングの動きを阻害する。


 その動きは的確で、オークキングは憤怒状態にもかかわらず、かなり動きづらそうにしていた。


「クリスとラッキーは強化魔法が切れたらかけられるように準備しておいてくれ」

「分かりました!!」


 クリスはすぐに呪文と唱え始め、ラッキーと一緒にいつでも魔法が発動できるように準備をする。


「俺とクロは遊撃だ。クロ、仲間の誰かが危ない時は、オークキングの攻撃の邪魔をするんだ」

「ニャーッ!!」


 指示を聞いたクロがミラージュで姿を消す。俺は今一番守りが手薄なクリスの護衛をしながらファイヤーボールで動きを阻害。


 鬱陶しそうに振り払う仕草をするオークキングに、魔法や攻撃が何度も直撃する。


 このまま倒す!!


 でも、そうはいかなかった。


 オークキングが持つ再生(微)のスキルが、俺たちが与えた傷を自動的に治してしまうからだ。俺たち一人一人がオークキングに与える傷が小さすぎた。もっと大きな傷を与えなければ、オークキングにダメージすら与えられそうにない。


 唯一大きなダメージを与えられそうなキースの攻撃は、他の攻撃を身に受けながらも警戒しているオークキングに剣で防がれてしまう。


「ブォオオオオオオオオッ!!」


 あまりに俺たちの攻撃が鬱陶しかったのか、オークキングが咆哮を放った。


「ぐっ……これはマズい……」


 強いモンスターの咆哮は、相手を威圧して動きを硬直させる。


 スキルではないけど、スキルと呼んでもおかしくない程の効果がある。当人よりも強ければあまり意味のない技だけど、格下にとっては絶大な効果を発揮する。


「くっ……」

「何よ、これ……」


 キースとエルが苦悶の声を漏らす。


 俺を含め、俺たち全員がほんの少しの間、動くことができなくなった。


「フゴォオオオオオオッ!!」


 オークキングにとってその少しだけで十分。


「ぐわぁああああっ!!」

「ギシャアアアアッ!!」

「キャンキャンッ!!」


 オークキングは大剣を大きく振り回して動けないキースたちを斬り飛ばした。


 キースたちは防御もままならない状態で攻撃を受けて大きな傷を負う。


「フガァアアアアッ!!」

「きゃああああっ!!」

「ピィイイイイッ!!」

「チィイイイイッ!!」


 すぐさまキースたちの後ろで攻撃していたエルたちに襲い掛かった。


 エルは硬直が解けていたため防御するも、オークキングの膂力を受け止めきれずに吹き飛ばされてしまった。


 プルーは蹴り飛ばされ、咆哮で地面に落下していたリリも同じく思いきり蹴り上げられる。クロロもミラージュが解けて姿が露呈したところを蹴られ、玉のように地面を転がっていった。


「皆!!」


 くそぅ……。


 残るは俺とクリスとポーラ、そしてラッキーのみ。


 戦えるのは俺だけだ。


「力が違い過ぎる……」


 追い込んでいたはずの俺たちが、一瞬にして追い込まれている。


 どこで間違ったんだ……。


 この依頼に参加したことか? 油断してしまったことか? それとも俺が指揮したことか?


 いや、そんなことを考えてる場合じゃない。今は何か打開策を考えないと……。


 何か……何かないのか一発逆転できるような方法は……。


「フゴォアアアアッ!!」


 オークキングはいつの間にか俺の前にやってきていて、大剣を横なぎにした。


「ぐわぁああああっ!!」


 剣でその攻撃を受けたけど、圧倒的な暴力の前に吹き飛ばされてしまった。


 くそっ……このままじゃ、クリスたちが危ない。


 戦闘能力のある俺ならまだどうにかなるかもしれないけど、残っているのは戦闘力皆無のクリスとラッキーだけ。


 オークキングの攻撃を喰らったら、まず生きていられないだろう。


 考えろ……この状況をひっくり返す手段を……起死回生の一手を。


「あっ!!」


 必死に思考を巡らせた俺は、ふと一つの可能性を思い出した。

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