第009話 1人じゃない!?

 SSSランク!?


 SSSランクと言えば、モンスターのランクの中で一番上のランク。その強さは、暴れたら国一つがあっさりと滅ぶほど。天災と呼ばれ、天変地異と同様の扱いを受ける。およそ人が手に負える存在じゃない。


 フェンリル、ベヒーモス、フェニックス、バハムート、リヴァイアサンなどの神獣と呼ばれるモンスターや、サラマンダー、シルフ、ウンディーネ、ノームなどの幻獣系のモンスターがSSSランクにあたる。


 今人間がテイムしているモンスターの最高ランクはSS。未だかつて人間がSSSランクモンスターをテイムしたという事実はない。


 しかも、SSランクのモンスターを従えている人物たちは皆、大国の王や教皇などの、歴史に名を残すような偉大な人物たちばかり。


 その人物たちでさえ、SSSランクのモンスターをテイムできていない。


 でも、ステータスボードを信じるのなら、このスライムは進化し続ければ、SSSランクに到達できるということ。


 ぷるぷるぷるぷる。


 スライムが俺の腕の中で体を揺らす。


 こ、こんなに可愛いスライムが、進化したらそんなに恐ろしい存在になるって言うのか……。


 ――ゴクリッ


 あまりに信じがたい話で、こめかみから一筋の雫が流れ落ちた。


「チィッ」

「プー」

「クゥッ」


 呆然としている俺をリリたちが現実に引き戻す。


「あぁ、悪い悪い。皆、今から仲間に加わったスライムだ。仲良くしてくれよ?」

「チチィ」

「ププゥ」

「ククゥ」


 俺が地面にスライムを置くと、皆が殺到した。


「ピッ」


 スライムは群がられているにもかかわらず、怯える様子はない。皆が楽しそうにしているところを見ると、お互いに打ち解けられたんだろう。


 おっと、こんなことしてる場合じゃないな。


 もう日が暮れる。アイリもお腹を空かせて待っているはずだ。


「そろそろ帰ろう。アイリと母さんが待ってる」


 俺は新しい仲間を連れて家に帰った。




「あ、お兄ちゃん、おかえり」

「ただいま」


 家の扉を開けると、アイリが俺を出迎える。


 アイリが家に居る事実にホッと安堵する。


「何それ、スライム?」


 アイリは目敏く俺が抱いているスライムに目を付けた。


「ああ。帰ってくる途中でいじめられていてな。見ていられなくて助けたら懐かれてしまったんだ」

「相変わらずだね……もうテイムしたの?」


 ポーラとルナを拾ってきたのを見ていたアイリは呆れた顔をする。


 リリも入れたら、もう四度目だからな。無理もない。


「まだだ。名前も考えてないしな」


 テイムをするには、モンスターに名前を付ける必要がある。


 その名前をモンスターが受け入れれば、従魔契約が成立し、晴れてテイムモンスターとなる。


「あっ。名前私も考えたいっ!!」

「いいぞ、一緒に考えよう。でも、その前に夕食からだ」


 ご飯を食べ、寝たきりの母さんの世話をして寝る準備を整えた。


「それじゃあ、どんな名前にするか考えよう。そうだな、スラが良くないか?」

「えぇ~、もっと可愛い名前がいいよぉ」


 俺が考えた名前は妹に不評だった。呼びやすいと思うんだけどな。


「アイリはどんな名前がいいんだ?」

「うーん、そうだなぁ。プルルンかな」

「それはちょっと呼ぶのが恥ずかしいな」


 響きはまぁ確かに可愛いのかもしれないけど、指示を出す度にプルルンと呼ぶのはちょっとな。


 プルルン、攻撃だ。


 ぐふっ。心の中で言っていても笑いそうになる。できればもっと別の名前がいい。


「えぇ~、可愛いのに……」

「もうちょっと呼びやすい名前にしてくれよ。な?」

「ピッ」


 俺の反応に対して不満そうにふくれっ面になるアイリ。


 スライムに同意を求めると、スライムは体全体で頷いた。


 結構器用だな。


「本人に言われたら仕方ない。呼びやすい名前かぁ……あっ、プルーならどう?」

「それならまぁ……いいかな」


 そんなに変わっていないような気もするけど、マシになったのは間違いない。後はスライムが気に入るかどうかだ。


「テイム。命名、プルー。良ければテイムを受けいれてくれ」

「ピッ」


 俺がスライムに向かって手を翳し、命名と共にテイムを行う。スライムがテイムを受け入れたことで光に包まれた。プルーから光の糸が伸びてきて俺に繋がり、俺とプルーの間に魔力の流れができる。


 これでテイム完了だ。


「プルー、俺はイクスっていうんだ。これからよろしくな」

「私はアイリだよ。よろしくね」

「ピッ」


 自己紹介を聞いたプルーは、体の一部を変化させて敬礼のような仕草をする。


 リリたちも可愛いけど、それとはまた違った可愛らしさがある。


 テイムを終えた俺たちはベッドに入る。


 そういえば、プルーの潜在ランクはSSSランクだった。他の皆はどうなんだろう。


 テイムしたモンスターのステータスボードには表示されていなかった。


 どうにかして分からないだろうか。


 ――ピコーンッ


 ――――――――――――

 リリ  潜在ランク:SSS

 ――――――――――――

 ポーラ 潜在ランク:SSS 

 ――――――――――――

 ルナ  潜在ランク:SSS

 ――――――――――――


 脳内に変な音が聞こえたかと思うと、ボードが3つ表示された。


「え、えぇええええええええっ!?」


 俺はボードに書かれた文字を見て、思わず叫んでしまった。


「……お兄ちゃん……どうしたの……?」


 すでに眠りかけていたアイリが、寝ぼけまなこで話しかけてくる。


「あ、いや、なんでもないんだ。うるさくして悪かった」

「ふぁーい……zzz」


 慌てて取り繕うと、アイリは再び眠りに落ちた。


 その様子を見てホッとため息を吐く。


「いやぁ、まさかリリたちもSSSランク。そんなのありえるのか?」


 アイリを起こさないように小さく呟いた。


 1体だってヤバいのに、SSSランクの潜在能力をもつモンスターが4体も……。


 これは夢かもしれないな。


 俺は考えるのを止め、眠りに逃げた。

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