最低ランクの雑魚モンスターしかテイムできないせいで退学させられた最弱テイマー、『ブリーダー』能力に目覚め、やがて規格外の神獣や幻獣を従える英雄になる

ミポリオン

覚醒

第001話 退学

「イクス、今日限りでお前を退学とする」

「そ、そんな……もう一度、もう一度だけチャンスを下さい!!」


 ここは、本来人を襲う存在であるモンスターを従わせることができる能力を持つ、テイマーを育てるための養成学校。


 俺はその学院長室で今、人生の瀬戸際に立たされていた。


「もう何度も、何十回も何百回もチャンスはやったであろう!! もう2年経っても最低ランクのモンスターしかテイムできないではないか。それでは次の学年には上げられん。見込みのない生徒をいつまでも置いておくわけにはいかん。資源や時間は無料ただではないのだ」

「次こそは……次こそは成功させてみせますから!!」


 2年生になるためには、指定されたモンスターをテイムする必要がある。しかし、俺はその試験に2年間失敗し続けていた。


 この学校は3年制。学校側が俺を退学にする理由は十分だ。でも、ここを辞めるわけにはいかない。このままじゃ、信じて送り出してくれた家族に顔向けできない。


 俺はその場に膝を付いて床に頭を擦り付けて必死に懇願する。


「次などない。決定事項だ。荷物をまとめてこの学院から出ていきなさい!!」

「そ、そんなぁ」


 しかし、学院長の決定が覆ることはなかった。


「はぁ……これからどうしたらいいんだろう……」


 寮の自室に戻ってドアを締め、ため息を吐く。


 もうここにはいられない。それに、お金もほとんど残っていない。故郷に帰れるギリギリ程度の金額だった。


「チチチチッ」


 落ち込んでいる俺に飛んできたのは、初めてテイムしたシマエーナのリリ。


 白くて丸っこい体が特徴の鳥型の最下級モンスターだ。体長は20センチもなくて物凄く小さい。くちばしでのつつき攻撃ができるけど、俺でも痛くないくらいに弱い。


 小さい頃に怪我をしたリリの世話をしたら懐かれてテイムできた。


 リリは俺が掲げた手に止まった。


「ごめん、リリ。俺、ここを出て行かなきゃならなくなったよ」

「チチッ」

「慰めてくれるのか? ありがとな」


 話を聞いたリリは、俺の肩に飛び移って頭を擦り付ける。


 リリの優しさが身に染みた。俺も感謝を込めて撫で返した。


「プー、プー」

「ポーラ、お前も慰めてくれるんだな」


 足許にやってきたのは2番目にテイムしたウサギ型モンスターのスモールラビットのポーラ。


 この子は白くて大きな耳を持ち、とてもおとなしくて愛らしい顔をしている。戦闘能力も特殊な力も何もなく、最弱の中の最弱と言っていい存在だった。


 野犬に襲われていたポーラを助けたら懐かれてテイムできた。


 俺の足に頭を擦り付けるポーラの頭を撫でる。


「キュンッ」


 そして、最後にやってきたのが、3番目にテイムした小さな狐型モンスターのホワイトフォックスのルナ。ほんのり冷たい息を吐くことができる最下級モンスターだ。


 死んでしまった親の傍で途方に暮れて鳴いていたルナを見つけ、放っておけずに育てたら懐かれてしまった。


「ルナもありがとう」


 摺り寄せてきた背中を撫でてやる。


 他にも授業で何十種類もの最下級のモンスターをテイムしたけど、それらは全て授業が終われば破棄されているので、この3匹が俺のテイムモンスターだ。


 彼らに事情を説明して荷物をまとめて寮の外に出た。


「あいつ、落ちこぼれのイクスじゃね」

「ついに追い出されるらしいよ……」

「やっとか。もう2年だろ? 遅すぎるくらいだろ」

「最下級モンスターしかテイムできない無能なら仕方ないよね」


 校内を歩いていると、俺を侮蔑する視線とクスクスと多くの嘲笑が聞こえてくる。


 1年生最後の試験に失敗して以来、俺は針のむしろだった。


 失敗するはずのない試験で失敗した落ちこぼれ。その噂は瞬く間に学校中に広がり、俺は悪意に晒されることになった。


 それでもなんとか試験を成功させようと必死に努力してきたけど、結局どうにもならなかった。


 俺は俯いて彼らの前を通り過ぎていく。


「おいおい、俺に挨拶もなしに学校を出ていくなんて寂しいじゃねぇか」


 しかし、もうすぐ入り口というところで一番会いたくない相手に会ってしまった。


 それは俺が試験に失敗して以来、率先して貶めるように促していた生徒の一人。


 ナッシュだった。


「いや、別にそんなつもりは……」

「口応えしてんじゃねぇよ!!」

「がはっ!!」


 言い淀むとナッシュの拳が鳩尾みぞおちに入り、殴り飛ばされて膝を付く。


「チーッ!!」

「プーッ!!」

「キュッ!!」


 それを見ていたリリたちがナッシュに反撃しようと駆けだした。


「やめ……るんだ……」


 俺は吐き気を抑えながら必死に叫んだ。


 しかし、その声は届かず、ナッシュに襲いかかる。


「そんなの効くわけねぇだろ!! この雑魚が!!」


 ナッシュの拳がリリたちに突き刺さり、俺の方に飛んできた。


 テイマーはテイムしたモンスターの力の一部を得ることができ、能力が強化されて、一般人とはかけ離れた力を持つ。


 その力で殴られたら、最下級のモンスターはひとたまりもない。リリたちは一発殴られただけで、ぐったりとして動かなくなる。


「全員、ぶっ殺してやるよ!!」

「止めろ……」


 守らないと。


 本気でリリたちを殺そうとするナッシュを前に、俺はなんとか体を動かし、四つん這いになってリリたちを自分の下に入れて守る。


「おらぁっ!!」

「ぐっ」

「まだまだぁ!!」

「ぎゃっ」

「しねぇやっ!!」

「ぐがっ」


 何度も何度も蹴りが突き刺さり、余りの痛みに退きそうになるけど、歯を食いしばって堪えた。


「あなたたち!! 何をやってるの!!」

「ちっ」


 そこに女性の声が響き渡る。ナッシュは舌打ちしてそそくさと逃げていった。


「誰がこんなことを……ちょっと待ってなさい……」


 意識が朦朧としていて何も見えないけど、やってきたのはアルカ先生だ。声で分かる。彼女はこの学校で唯一俺に優しくしてくれた教師だ。


 3年間根気よく指導してくれた。結果が残せなかったのは本当に申し訳ない。


 先生は俺とモンスターたちの怪我を魔法で回復させる。緑色の光に包まれた俺たちは、一分ほどで完全に治ってしまった。


「これで大丈夫ね」

「あ、ありがとうございます」


 俺は体の状態を確認しながら立ち上がる。


 どこも痛くない。先生の魔法は本当に凄い。


「いえ、私の方こそ力になれずにごめんね」


 今回の退学の件を言っているんだろうけど、これまで散々力になってもらった。これ以上何も言うことはない。


「仕方ありません。結果が出せない俺が悪いんですから……それではお世話になりました。今まで本当にありがとうございました」

「……ええ。元気でね」


 入り口まで送ってくれた悲しげな顔の先生に頭を下げて、俺は学院を後にした。

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